ゾンビ企業に関わるとゾンビになる

しばらく下火になっていた「ゾンビ企業」という言葉。また、テレビや新聞等で目にするようになりました。きっかけは、帝国データバンクの発表です。

利払いの負担を事業利益で賄えない「ゾンビ企業」の現状分析 | 株式会社 帝国データバンク[TDB]

帝国データバンク プレスリリースより

コロナ禍以降、「ゾンビ企業」は全企業の1割強、16.5万社にのぼる、とのこと。

ゾンビ企業とは、既に経営が破綻しているにもかかわらず、金融機関の融資や政府の助成金等で延命している企業をいいます。上記記事では、ゾンビ企業を以下のように定義づけています。

  • 設立10年以上であること
  • インタレスト・カバレッジ・レシオ(以下ICR)『1.0未満』の状態が3年以上継続していること

ICRは、利益が利息の何倍あるか、つまり利払いにどれくらい余裕があるのか、を示す指標です。以下の式で算出します。

(営業利益+受取利息・配当金)÷(支払利息・割引料)

ICRは、3.0以上が望ましい、とされています。『1.0未満』ということは、「利息」が払えない状態。「『利息』を払えない企業がゾンビ企業」ということになります。

筆者は、もう少し広く

「『お金』を払えない企業はゾンビ企業」

と定義しています。利息どころか、仕入代金すら払わない。給料も払わない。従業員を不幸にし、取引先を経営難に陥らせゾンビ化させることもある。そんな企業です。

今回は、ある企業の経営者をモデルに、ゾンビ企業について考察します。

従業員に払わない

あるゾンビ企業の経営者は、「話術」「交渉術」に長けた人物でした。

給料を払うお金がない。けれど、従業員に辞められたら、事業が立ち行かない。そう考えた経営者は、給料支払の中断「交渉」を行いました。

  1. 個別面談を行い「私が頑張らなきゃ」と思い込ませる
  2. 「みんなでがんばろう」と団結させ“美談化”する
  3. 「大手が当社を買収する可能性がある」と将来に希望を持たせる

どこかで聞いたような手法。そう。カルトの手法です。効果は絶大でした。数名が退職したものの、多くの従業員が半年以上、無給で社内に留まりました。

「なぜ給料が払われないのに働くのか」

外からみれば当然の疑問です。しかし、会社という閉鎖空間の中で、経営者(社長)に巧みに説得されると、「おかしい」ということに気づけなくなってしまうことがあるのです。

取引先に払わない

仕入代金や経費、家賃を払うお金がない。経営者が、まず行ったのは取引先に優先順位を付けることでした。

うるさい取引先には払う。敷金で充当できる間、家賃は払わない。それ以外の取引先には

  • 資金繰りをミスしたので、来月の支払いにしてほしい
  • コロナで苦しいので、分割払いにしてほしい

などと、支払いの先延ばしを「交渉」する。期日が来たら一部だけ払う。残金は、また「交渉」。取引先は困惑します。払いたくないのか。本当に払えないのか。

「大ごとにして倒産してしまったら、ウチの債権が回収できない」

と躊躇する。結局、この取引先が法的措置をとったのは、支払期限を大幅に過ぎてからのことでした。その後、差押えまでに半年以上かかっています。

破産費用が払えない

今回、例にあげたゾンビ企業は債務超過であり、その債務額も莫大でした。倒産させてしまった方が楽だったかもしれません。けれど、それができなかった。なぜか?

「倒産(破産)するためのお金が払えなかった」

からです。破産手続きに必要な百万円超(予納金・弁護士費用等)のお金がない。自身に引導を渡すことを、先送りしたため、破産すらできない状況だったのです。

今後、経営環境はますます厳しくなります。自分に甘いゾンビ企業経営者が一定数いる以上、

  • 金融機関は、融資先の経営状況を把握し、問題を先送りしな
  • 行政機関は、実現性の低い事業計画には補助金を出さない
  • 従業員は、給料が払われなくなったら、すぐ会社を辞める

など、利害関係者が、厳しく経営状況を見る必要があります。

お金を払えない企業は潰すべき

「お金が払えないゾンビ企業」は倒産してもらった方が良い、と筆者は考えます。理由は二つ。

一つ目は、ゾンビ企業に関わると、自社もゾンビ化するからです。

商品やサービスを提供したにもかかわらず、対価を受け取れない。取引額が大きいほど、経営環境が悪化し、自社までゾンビ化する可能性が高くなります。ゾンビ企業を減らすことは、優良企業を存続させることにつながるのです。

二つ目は、従業員を救うためです。

事例に挙げたゾンビ企業の従業員は、半年間無給状態でした。もし、会社が倒産すれば、厚生労働省(独立行政法人労働者健康安全機構)の「未払賃金立替払制度」を活用し、未払給料の8割を受け取ることができます。全額ではありませんが、一部だけでも回収できる。タダ働きにならない、ということは従業員にとって大きな救いになるのではないでしょうか。

見極めたうえで支援を

冒頭の記事では、ゾンビ企業の判定基準を、「利息が払えない状態が3年続いていること」としていました。このことから、経営悪化はコロナのせいだけではない。むしろ、コロナの補助金・助成金等により「延命」された企業も多くある、と言えます。本稿で例示した企業もその一つです。

来年3月、「ゼロゼロ融資」の利息免除期間が終了します。元金返済は既に始まっており、苦境を訴える企業もあるようです。信用保証協会や金融機関は、士業等を派遣し事業再生を試みている、と聞きます。

その企業がゾンビ企業なのか、再生に値する企業なのか。見極めたうえで、支援いただきたいと思います。