決算発表が続きますが、2つの会社の決算が耳目を集めました。ソフトバンクGとメルカリです。それぞれの内容について数字とは違う観点から思うところを記してみたいと思います。
かつての利益を全部吹き飛ばしたソフトバンクG
まずソフトバンクGですが、4-6月の決算が創業来最大の3兆1627億円の赤字となりました。2期連続の赤字で悪く言えば今の体制になってからのかつての利益を全部吹き飛ばし、すごろくで言う「振出しに戻る」となってしまいました。
孫氏の今のビジネスモデルは巨大なエンジェル投資家であり、上場できそうな勢いある企業を世界で発掘し、その株式を握り、上場した際、あるいは上場後の株価の上昇を見込むというモデルでした。その原資はそもそもはアリババ社の株であったことは言うまでもありません。そのアリババ社は中国当局から様々な圧力を受け創業者のジャック マー氏は退任しその後はあまりメディアにもお目見えしなくなるなどアリババ社と距離を置いたことでアリババ社は孫氏マー氏との関係の中で成長した時とはすっかり変わりました。
それでも同社が成長継続ならその株を持ち続けていてもよいのですが、アマゾンと同様ECが投資家の間で囃された時代はとっくに過ぎています。アマゾンのようにテクノロジー部門のAWSが利益の補完ができればよいのですが、どうも中国政府はいくつもの柱を立てさせることを許さない、つまり一つの会社が強い力を持たないようにさせているため、アリババの成長には限界が生じているとみています。そこで孫氏はアリババの株をより積極的に減らしていく算段を取りながらポートフォリオの入れ替えを行っています。これは正解なのですが、あまりにも遅かったともいます。
では孫氏が莫大な資金を手にしたとしても何に投資するのか、これもなかなか困難な半年だったと思います。「買いたいものがない」。これが正直な半年でした。何故欲しいものがないのか、といえば今は過渡期にあるからだと考えています。2020年代は人類のシンギュラリティが起きるとされます。自動運転や空飛ぶ自動車、量子コンピューター、拡張現実や仮想空間における社会、宇宙ビジネスなどがこれから10年程度で席巻するようになれば今までの常識はことごとく覆されることになります。
一方、それらの極めて高いハードルを乗り越えようとする企業群は既にあらゆる技術をコア企業の傘下に取り込んでおり、今はそれらの開発が水面下で着々と進んでいる時代だということです。つまり孫氏のビジネスモデルの一つである成長して上場するような企業を探すという段階は既に終わっていて今は開発待ちの状態であります。
孫氏が「新たな投資は徹底的に減らしている」というのは逆に言えば金があるから何でも買えばよいという時代ではないということです。孫氏を取り巻くビジネス環境はすっかり変わったというのが私の見方であり、今後、孫氏がどう対応していくつもりなのか、この方向転換こそ氏のセンスを問われるところとみています。
メルカリはあまりにも日本的でガラパゴス
次にメルカリです。22年6月期(通期)の決算が75億円の赤字となり、上場来初の黒字となった昨年から赤字に逆戻りでこちらは振出しに戻るどころか、前に進めない状態です。メルカリ社の最大の苦悩はアメリカでの事業で、これがどれだけ力を入れても伸びずマイナスです。今期はついにアメリカの売上が前期を下回る結果となりました。アメリカで上場する株ならば2-3割の暴落があってもおかしくない衝撃です。
その理由は巣ごもりからの脱却でメルカリのような個人使用の中古商品売買に目が向かなかったとされます。それは確かにそうなのですが、個人的には「魚のいない池で釣りをしているような感じ」に見えるのです。以前も申し上げましたが、アメリカは「捨てる文化」なのでどう捨てるか、それが問題でそこをもう少し深掘りすればよいのにと思うのです。少なくとも英国人のように「後生大事にする」性格ではないでしょう。
どちらかといえば、いらなくなったものは知っている人にあげることによって人間関係をより強くするようなそんな使い方をしていると思います。ドネーション文化が日本の何十倍もある社会では「社会還元」という発想が強く、日本人が好む「小銭稼ぎのちまちました小技」は受けないとみています。
つまりメルカリはあまりにも日本的で私から見ればガラパゴスなのだろうとみています。ビジネスというのは社会文化を熟知しないとなかなか読み誤るものです。日本人はアメリカ市場へのあこがれが異様に強く、本当はトヨタクラウンではなく、「いつかはアメリカ」なのだと思っています。
ところがアメリカ市場は文化社会も経済的にもあまりにもドラスティックであり、日本的発想ではまず振り落とされてしまいます。そのようなセンスは実際に社会に溶け込まないとわからないものです。北米では個人の中古品のやりとりは20億ビューを超えるお化けクラシファイド、Craigslistのような無償のものやEbayのようなオークション型まですでに確立されており、メルカリのビジネスモデルが特段アメリカ人の目に留まるような目新しさがあるわけではない、これが苦戦の理由だと思います。
市場参入とは圧倒的なざん新さと市場の熱狂があってこそ、成功するものです。ひとえに海外進出といってもそんなに簡単なことではないのです。
今回は2つの会社の決算に焦点を当ててみました。ソフトバンクGは時代の流れの変化への対応が求められ、メルカリはアメリカ事業が私には魅力的に見えないと言えます。特に北米海外進出の日系企業に於いてメルカリのみならずパッとしない会社が多くなってきた点は懸念しています。そばで見ている限りでは確実に真綿で首を絞められている、そんな感じが見て取れます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月9日の記事より転載させていただきました。