南米コロンビアで初の左派系大統領が誕生:元ゲリラ戦闘員をアメリカは不安視

元ゲリラ戦闘員が大統領に就任

8月7日、南米コロンビアで建国以来初めて左派系の大統領が誕生した。彼の名前はグスタボ・ペトロ氏(62)。首都ボゴダの首長や上院議員を務めた人物で、政治家としては十分な経験を積んでいる。ペルーのペドロ・カスティーリョ大統領やチリのガブリエル・ボリッチ大統領のように政界に初めて登場する人物とは異なっている。更に、異色なのはペトロ氏が既に消滅しているゲリラ組織M-19 の元戦闘員だったことだ。

また、副大統領には貧困層で育ち環境保護活動家の黒人女性フランシア・マルケス氏が就任した。これも異色である。

大統領就任式でスペイン国王は起立せず

大統領就任式で珍事も起きた。4万人が集まったボリバル広場で大統領に就任した。ペトロ氏は就任するや、予定外のことを大統領の権限において行ったのである。それは歴史上コロンビア、ベネズエラ、エクアドルを包括する大コロンビア共和国を建国し、その大統領に就任したシモン・ボリバル氏の剣を儀式に持ち出すように軍人に命じたのである。その為、式典はおよそ30分の遅れが生じた。

この剣は1974年に正にペトロ氏が属していたゲリラ組織M-19が盗んだものであったが、この組織が解散となって国に返却された。

大統領職を去ることになったイバン・ドゥケ氏は厳重に保管されているボリバルの剣を就任式に持ち出す許可を与えなかった。ところが、ドゥケ氏からペトロ氏に大統領の権限が委譲されるや否や大統領に成った後者はその権限においてその剣を就任式にもって来るように軍人に命じたのである。

ペトロ氏がボリバルの剣を就任式で披露した理由は、同氏によると、ボリバルの剣は正義の象徴であり、正義が存在するようになった時点で初めてその役目を終えたということで剣はさやに収めるられるということなのである。

ケースに収められていたこの剣が貴賓席の前を通過した時に出席者は起立して敬意を表した。ところが、起立するのを拒否した数人の中にスペイン国王フェリペ6世がいる。その理由は恐らく、ボリバル氏は独立運動においてスペイン軍を捕虜にするのではなく虐殺したという前科があるからであろう。ボリバル氏は独立運動の解放者とされてはいるが、戦いで敗者を捕虜にすることはせず虐殺することを常としていた。その中に多くのスペインの兵士がいた。

フェリペ国王が起立しなかったことをスペイン連立政府のポデーモスは早速批判した。スペイン連立政権には皮肉にも2つの政府が存在しているということは良く承知されたことだ。社会労働党とポデーモスの政権内での対立を鮮明にするのがポピュリズム政党ポデーモスの常なる姿勢である。一方の社会労働党はこれまで国王擁護派であったが、サンチェス政権下では国王への擁護を鮮明にしないことで良く知られている。

今回も国王が起立しなかったことは取るに足らないことであるという声明を同党の官房長官は述べただけであった。国王の姿勢を支持する声明は発表していない。ジャーナリストの中には、サンチェス首相はスペインが共和国になって最初の大統領に成りたがっていると以前皮肉った者もいた。

しかし、問題となったこのボリバルの剣は偽造物だと評価している専門家が多くいる。実際、ボリバルは戦闘の功労者に自らの剣を良く与えていたとされている。そしてそれを受け取った者はそれを人に贈るのに良く模造していたと言われている。だから、ペトロ氏が持ち出した剣が本物だと裏付けるものは何もない。

唯一残っているゲリラ組織との和平協定は?

コロンビアでの右派政権の政治は遂に限界に到達。過半数以上の国民は左派のペトロ大統領に新しい政治を期待している。

国民の40%が貧困者という不平等の改善や資源とそれに関連した品目の輸出が経済の48%を占めている中で、産業構造の改革とその発展を図らねばならない。更に、コロンビア革命軍(FARC)が解散されたあと、現在も存続しているゲリラ組織民族解放軍(ELN)との和平協定も実現させることも期待されている。

米国は左派政権に不安を示している

まれまで南米において米国が最も信頼して来たコロンビアに左派政権が誕生したということで、米国政府はこの政権がどのような変化を見せるか強い関心を示している。

何しろ、コロンビアはコカインの最大生産国である。その大半が米国に向けられている。それを阻止すべく、これまで米国とコロンビアの両政府が協力してその撲滅に活動して来た。その為の資金も米国が提供している。

左派政権が誕生したことによって、コロンビア政府がこれまでのように米国と協力する姿勢を示すか否か米国はそれに強い関心を寄せている。