8月12日、デジタル副大臣、行政改革、規制改革担当副大臣を退任しました。
官民融合のまったく新しい組織体であるデジタル庁で、日本の社会システムのデジタル化という、いまのこの国に最も必要で困難な事業に取り組もうとする、志高い職員たちと仕事が出来たことを嬉しく、誇らしく思っています。
また、これまでの行政で決めたルールや働き方を変えていく規制改革と行政改革は、より良い未来のために必要な仕事でありながらも、多くの抵抗や困難と向き合う地道な仕事です。内閣府で各省と調整しながら制度改正のきっかけを作り、着実に日本を前に進める職員たちの姿に、私も多くを学びました。
その他にもPPP(官民連携)/PFI(民間資金等活用事業)や個人情報保護、サイバーセキュリティを一体で担当しました。
わずか10ヶ月間ではありましたが、その間の成果を振り返ることでデジタル庁と規制改革、行政改革の進捗を共有できればと思います。
昨年、ワクチン補佐官の仕事をやってみて痛感したのは、この国のインフラが非常に傷んで、時代遅れになっているということです。道路や電気のように日々使うものは定期的にメンテナンスされますが、もっと深いところにあり気づきづらいことから、古いままになっているものが3つあると私は考えています。
1つ目は社会制度です。この国の法律の多くがインターネット以前に作られており、技術の進展や社会の成熟に合わなくなってきています。しかし、改正するにも一つ一つ国会を通していては時間も労力もかかり過ぎて、全くスピードが上がらないという課題があります。
2つ目は、国と地方のガバナンスです。これまで日本は住民に近い行政機関がそれぞれにきめ細やかな行政サービスをする方が望ましいという考えのもと、地方分権を進めてきました。しかし、その結果、保育所や介護事業所が行政に提出する書類が自治体ごとにフォーマットが異なったり、行政システムがバラバラなため現金給付に時間がかかったりと、不便なことが多く起こっています。テクノロジーが進展したことにより、国が共通的にサービスを提供した方がいいものが多くなってきているのです。
3つ目は、リソースです。社会課題が多様化し、行政の仕事は難しくなっているのに、官僚の働き方はアナログなままで、人員を減らし続けていました。政治家が、政策を実現するための行政官のリソースを考えて来なかったので、負荷が過剰になり、ミスや退職希望者が増え、ますます現場の負担が重くなっています。
この3つのインフラを作り直さない限り、デジタル化や経済成長が進まないのは、この30年が物語っています。ですので、デジタル化と規制改革と行政改革を一体で行える体制にすべきだと提言し、今回、牧島大臣のもとにそれが実現されたことは非常によかったと思っています。
デジタル庁
デジタル庁はその中で、デジタル政策、そして社会全体のデジタル化を進める上で、必要な権限と能力のある組織をつくるということで設立されました。
しかし、就任した当時のデジタル庁は、その1ヶ月前に創設されたばかりで、入れ物だけできたものの、既存の省庁から過去の仕事と担当者が集まり、とりあえず動いているような状態で、想像以上に混乱していました。起業したばかりのスタートアップと例えられがちですが、創業1ヶ月で創業社長不在、役員のほとんどは他と兼任で中途採用の従業員が500人という状況で、同じ志の仲間と起業するような民間のスタートアップとは事情が違います。
このユニークな組織に最適な設計図を書いて、働きやすい枠組みを作ること、情報がフラットに行き渡るよう動線を整理することが最初の仕事でした。
まずは、担当業務の見える化、管理職の兼務の整理から始め、オールハンズや1on1を定期的に行うことをルール化し、現場の課題がタイムリーに上がってくるような仕組みへ転換を進めました。
本来は、9月をめどにデジタル庁全体の戦略を再整理した上で、人員に対して多すぎるプロジェクトの見直しと、不足する人員の対応についても手をつける予定でしたが、この後は、浅沼デジタル監が新しい大臣やチームと一緒に進めてくれるものと期待しています。
政策面については、政府全体のデジタル政策を取りまとめた「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を、この10ヶ月で2回出しました。ポイントは、緊急事態に対する行政の非効率や脆弱性が顕在化したことを受け、とにかくデジタルを最大限活用し、この国のさまざまな課題を解決できるよう、システムの整備と同時に、規制改革にも取り組むとしたことです。
まずは、今までは全国の自治体がバラバラに整備してきたシステムを、国が共通のクラウド基盤としてガバメントクラウドを構築し、自治体の主な業務システムをクラウドへ移し、自治体がその上で必要なサービスを提供したり、民間事業者と連携できるようにします。
私自身が構築に携わったワクチンの接種記録システムと接種証明アプリは、ガバメントクラウドの先行的な取り組みであり、代表的な成果となりました。この国でほぼ初めて全ての自治体が同じクラウド上に住民のデータを載せ、そしてそのデータベースの中に、いつ、どこで、何のワクチンを打ったか記録していく。スマートフォンで接種証明が出せるアプリケーションを後からつくり、データベースに接続することで、二カ月程度という短期間で追加のサービスを提供することができました。先日、さらに新しい機能を加え、コンビニの電子端末から接種証明を取得することもできるようになりました。
準公共分野のデジタル化も一歩前へ進めることができました。
医療分野では、全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DXに取り組むことを政府の方針として決めました。
診療報酬改定DXを例に挙げると、現在は、個々の病院がシステムをそれぞれに持っているため、定期的に行われる診療報酬改定の際には、各病院にシステムエンジニアが診療報酬の新しい報酬価格を書きかえに行っています。これからは国が診療報酬改定のデータベースをつくり、そこに病院のシステムを接続するだけで済み、それぞれの病院で改修する必要はなくなります。
こども分野も先行して進めることができました。
虐待や貧困が非常に大きな社会問題として取り沙汰されているものの、実は目に見えづらい課題で、学校や福祉に関するデータは自治体がそれぞれ持ち、さらに部局ごとに管理している傾向があり、課題解決に活用しづらい現状があります。副大臣着任早々、関連省庁との副大臣会合PTを設定して私が座長に就任し、議論を進めて来ました。せっかくのデータを分析できる仕組みを提供しようということで、全国7つの自治体で先行的に実証事業を行い、来年度にこの成果が出てきますが、これが可能になると、今まで発見できなかった困窮家庭や虐待に遭っている子供を見つけ出し、予防的にアプローチすることができます。
経済成長、特に多くの民間企業に関連するところについては、民間でバラバラに収集され、囲い込まれているデータを、皆が使いやすい環境を作ることもデジタル庁の役割です。
代表的な成果としては、企業間の取引のグローバルな標準仕様である「Peppol」をベースに、会計系システム事業者と連携し、日本国内における請求の標準仕様を作りました。これにより、企業間で異なる会計システムを使っていても、お互いの請求をデジタル完結・自動化できるようになります。
今後、受発注のデータについても共通基盤を構築できれば、全産業の情報のやりとりが円滑化され、企業も個人もスムーズにビジネスができるようになります。
デジタル臨調
最も大きな成果として、ここ数年間、私自身が練ってきた構想でもあった「デジタル臨時行政調査会」(デジタル臨調)を立ち上げ、3年間で一気に、デジタル政策、規制改革、行政改革を一体的に進めるための議論の場を作りました。これはこの国の構造をデジタル化に適合した社会構造へと大きく変えることにつながると思います。
実際の業務を担う事務局をデジタル庁におき、これまで、4万件以上ある法律や政省令、地方に向けた通知・通達及びガイドラインを全て洗い出しました。目視や書面など、7つに項目分けして改正していくのですが、これらを「アナログ規制」と口走ったら多くのメディアがそのように報道し、定着してしまったのは良い思い出の一つです。既に、1万件の法律や政省令から5000条項、3万件の通知・通達及びガイドラインから15000条項も見つかっています。
来年から法改正を進めていくのですが、既に法令だけで約300本、改正の必要性が見えています。また、素晴らしいことに、追加で2000条項が各省庁の現場から自主的に提案されてきています。改革すべき規制を持っている側の省庁からこれを改革しましょうという提案が出てきたということで、官僚の皆さんの意識の変化を感じます。在任中で最も嬉しかったことの一つかもしれません。
もう一つ、デジタル臨調チームの成果で、成長産業を生み出す新しい取り組みを来年からスタートするのが、テクノロジーマップの整備と技術カタログの構築です。
実証事業を省庁横断で、デジタル臨調が責任を持って進めていこうとするもので、アナログな手段を乗り越えられる新しい技術として挙がってきたものを国が認定し、新規参入しやすい環境を作ります。これも現場から出てきた良いアイディアを実現することができた、思い出に残る良い仕事の一つです。
さらに、規制改革関係府省庁連絡会議という、組織横断で情報を共有して連携することで規制改革を加速する組織を立ち上げ、議長に就任しました。政府の規制・制度改革の取り組みは、規制のサンドボックス制度や3類型ある国家戦略特区制度、グレーゾーン解消制度、新事業特例制度など複数ありますが、国民や企業にとって、窓口や情報が分散して、制度が使いづらい側面があります。改革を加速するためにも、この会議で、関係府省庁の連携を強化し、国民・企業にとって分かりやすく使いやすい窓口の整備ができると思います。
個別の規制改革では、多くのことを実現しましたが、なんといってもこの20年近く実現できなかった、オンライン診療とオンライン服薬指導を恒久化できたことは大きな成果でした。
ここに書ききれなかった取り組みや、これから成果が出てくるものも多くあり、このタイミングで副大臣を退任するのは、名残惜しいのが正直なところです。ただ、政治家の政府における役職というのは、通常1年、長くても数年であり、10年20年と携わることはできません。ですから、政府に入る政治家の役割は、これまでの組織では意思決定できないような大きな方針を決めたり、構造的な問題を解決し続けられる組織や仕組みを作ることだと考えています。
そういう点では、今回、牧島大臣、山田政務官や職員の皆さん、多くの協力者のおかげで、達成することができました。そして何より、地元の支援者の皆さんの応援、事務所メンバーの支えがあり、全力で政府の仕事に取り組むことができました。本当にありがとうございました。今回携わった政策分野はいずれもライフワークにしている分野なので、党に戻っても、引き続き取り組んでいきたいと思います。
編集部より:この記事は、衆議院議員、小林史明氏(広島7区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2022年8月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は小林史明オフィシャルブログをご覧ください。