五輪の元組織委員会理事、高橋治之容疑者が逮捕されました。併せて贈賄側のAOKI側も3名が逮捕されています。この話、ここまでは思ったほどお茶の間の話題にならなかった気がします。粛々と展開し、ついに逮捕に至ったということでしょうか?
高橋治之氏の弟、高橋治則氏の名前を聞いてはっと思う方は大したものです。あのイ・アイ・イ・インターナショナルの社長としてリゾート開発の帝王、バブルの象徴とも揶揄され、その後、治則氏は逮捕され、会社もバブル崩壊とともに4700億円余りの負債を抱え破産しました。そして長銀の破綻原因ともなりました。治則氏は逮捕に絡み裁判を進めていましたが、最高裁で審理されている間に病死しています。
弟の治則氏は治之氏と共に慶應でしたが、高校の時に事件に巻き込まれ慶應の高校を退学処分になるなど若い時から波乱万丈の人生でありました。私もバブル時代に不動産業務に携わっていた中で当時のイ・アイ・イは「別世界」という印象を持ち続けていました。やり手であるけれどグレーな感じも常に付きまとっていた、それが当時の記憶です。
ある意味、治則氏は好き勝手やりたい放題だった点に於いて男の本懐だったのかもしれません。びっくりすることに城山三郎の「男の本懐」の主人公である浜口雄幸元首相はこの高橋家の母方の親せきに当たります。そういう意味では「本懐」の血統が代々伝わっていたのでしょうか?
では話を戻して今回逮捕された高橋治之氏の件ですが、逮捕要件は5100万円の賄賂をAOKI側から受け取った疑いです。月々50-100万円の「コンサル費」を東京地検特捜部が賄賂と断定したわけです。ただ、これはとりあえず逮捕して深掘りするための東京地検の常套作戦で取り調べを進める中でそれとは別に2億3000万円が渡り、うち1億円がステーキレストランに使われたとされる件を本丸にするのではないかと思います。
高橋氏はグルメとして知られ、電通役員時代からサイドビジネスでフランス料理店を経営し、電通のビルの中で経営していました。その後、話題になったステーキ店を六本木に出したわけですが、これが当たらなかったようでその赤字補填の資金が必要だったと想像しています。
高橋氏の個人資産がどれぐらいあるのか存じ上げませんが、ご自宅の写真からはそれだけでも資産価値は十分にありそうです。もしかしたら借金の抵当に入っているのかもしれません。そのような記事は見つけられませんでしたが、登記簿を取れば一発でわかります。
男のロマンとは何でしょうか? できる男ほど色恋権力金銭欲が強くなると言われています。男はそもそも一国一城を築きたいという想いがある程度あるものです。普通にお勤めの方はそんなのは夢の夢となって諦めるのですが、高橋氏ぐらいになると手が届くのです。そしてある程度の年齢になってから求めるものとはビジネス的に儲かるかどうか、という主眼ではなく、見栄や人の衆目を集めたいという名声欲が強くなります。
「今度、俺の店にこいや」といえば、呼ばれた人は豪勢な店に圧倒され、美しい女性店員の丁寧なサービスに「あの人はすごい」と思うわけで、人心を奪うことも可能になるのです。やはり逮捕された日大の田中元理事長も奥さん経営のちゃんこ料理の店があり、主に接待で使われていたとされました。その点ではこの2つの事件は一国一城という似ている背景がありそうです。
男のロマンにはこれほど突っ張らないケースもあります。藤田嗣治の大ファンだった私の元上司は「俺は会社を定年退職したら小さな喫茶店を開き、好きな絵を壁にかけて1日中眺めていたい。客が1日10人しか入らなくてもいいから自分のお気に入りの客とコーヒーを片手に駄話をしたい」と何度もつぶやいていました。
この上司も仕事ができる上司でしたがグレーなところをギリギリで歩み、逮捕こそされなかったものの連日地検に呼ばれ続け大変な人生となりました。結局、喫茶店も夢に終わったと後日談で本人から聞いています。
ロマンとは結局背伸びをしやすくなるのかもしれません。その背伸びも地に足がついておらず、分不相応になると収拾がつかなくなるということかと思います。女性は堅実でこのようなリスクをとらない傾向が強いと思います。そもそも収賄事件は過去を遡ってもほぼ男性による事件です。そこまでしてでも人の上に立ちたいという野心があるとも言えるのでしょう。
高橋氏は78歳です。電通専務、五輪理事とある意味最高レベルの人生を送ってきた中で最後に晩節を汚すことになりました。高橋氏は地検に呼び出され、そこで逮捕状を突き付けられました。その後、「これだけ功績のある私を逮捕するのか?」と啖呵を切ったとされます。
捜査はこれから本格化します。これだけ功績があれば何をしても許されるのか、という甘えはある意味、先にお亡くなりになった治則氏に通じるものがあります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月18日の記事より転載させていただきました。