1. 家計の支出も減少している
前回は、長期時系列データで家計の収支や可処分所得の変化を可視化してみました。
家計の収入や支出、可処分所得も、労働者の平均給与と同じように1997年をピークにして減少してしまっている事がわかりました。近年でやや増加傾向で、やっと1997年の水準を回復できたかどうかという状況です。
今回は、家計の支出面の変化に着目してみましょう。
図1は2人以上の勤労者世帯について、支出の詳細を積み上げたグラフです。
支出の総額としてはやはり1997年をピークにして減少してしまっています。
収入が2011年頃から増加傾向だったのに対して、支出は横ばいが続いています。ボリュームの大きいところでは、食料がやや減少し、交通・通信がやや増加しています。
非消費支出が横ばいで、その他の消費支出が大きく減少しているようです。
それ以外はほとんど横ばい傾向が続いているように見えますね。
日本 家計 実支出 月額
1997年→2017年 単位:万円
45.6 → 41.2 (-4.4) 実支出
35.8 → 31.3 (-4.5) 消費支出
9.8 → 9.9 (+0.1) 非消費支出
1997年の状況から比べると、実支出が4.4万円減り、消費支出が4.5万円減少しているにもかかわらず、税金や社会保障負担などの非消費支出はむしろ0.1万円増加しています。
対象世帯の変化(平均値)については次の通りです。
世帯人員: 3.53人 → 3.35人
有業人員: 1.66人 → 1.73人
世帯主の年齢: 45.8歳 → 49.0歳
少子化や核家族化が進み世帯人員はやや減っていますね。その分で消費が減っているという影響もあるかもしれません。程度で言えば世帯人員の減少は5%程です。
1997年の消費支出が35.8万円でしたのでその5%の1.8万円分くらいは、世帯人員数の減少によるものと考えても良いかもしれませんね。
一方で、有業人員はむしろ増加しています。共働き世帯が増えた事を意味していると思います。
実際に2000年から2021年の変化では、共働き世帯は平均で39.1%→54.2%と大幅に増加しています。(参考記事: なぜ家計は消費を減らすのか?)
また、世帯主の年齢が上がっていますので、全体的に世帯の少子高齢化が進んでいる事がわかりますね。ただし、平均年齢が上がっているのに、世帯主収入が減っているというのは何とも悲しい現実です。
1997年から2017年での世帯主収入(月平均)は、48.7万円→42.0万円と6.7万円も減少しています。平均年齢は上がっているのに、収入がこれだけ減っているわけです。。。
日本の男性労働者は各世代で平均給与が減少しているのも特徴ですね。(参考記事: 豊かになれない日本の労働者)
2. どんな消費が減っている?
積上グラフだと各項目の具体的な変化がわかりにくいので、詳細項目ごとの推移グラフを見てみましょう。
図2が家計の支出の詳細項目ごとの推移です。
1990年代までは、労働者の給与水準も上昇傾向でしたが、支出についても同じように各項目で増加傾向が続いていたようです。ほとんどの項目で、1990年代から停滞しているか、減少している状況のようです。
その中でも、交通・通信は上昇傾向を続けていますね。やや減少しているのが食料、大きく減少しているのがその他の消費支出です。あまり目立ちませんが、被服および履物もかなり減少している事がわかりますね。
非消費支出は全体としては横ばいですが、2005年あたりから増加傾向が続いています。
3. 余力を削る家計
もう少し数値的に変化を可視化してみましょう。
日本経済のピークである1997年と2017年の変化について、まとめたグラフです。
「その他の消費支出」の減少が突出しているのが印象的ですね。減少している項目は、「食料」、「住居」、「家具・家事用品」、「被服及び履物」、「教養娯楽」、「その他の消費支出」です。
具体的な変化は次の通りです。
日本 家計 消費支出 月額
1997年→2017年 単位:万円
35.8 → 31.3 (-4.5) 消費支出
8.0 → 7.5 (-0.5) 食料
2.4 → 1.9 (-0.5) 住居
2.1 → 2.1 (+0.0) 光熱・水道
1.3 → 1.1 (-0.2) 家具・家事用品
2.0 → 1.3 (-0.7) 被服及び履物
4.2 → 4.9 (+0.7) 交通・通信
1.9 → 1.9 (+0.0) 教育
3.4 → 3.1 (-0.3) 教養娯楽
9.5 → 6.4 (-3.1) その他の消費支出
少し補足の必要な項目がありそうですね。
「住居」は「家賃・地代」、「設備修繕・維持」の合計値となります。おそらく賃貸等で暮らしている世帯の家賃・地代を全世帯で平均している数値と思われます。
また、持家の場合のローン返済(土地家屋借金返済)は、「実支出」に含まれません。実際には持家率が向上し、ローン返済額が増えているのも日本の家計の特徴です。(参考記事: なぜ家計は消費を減らすのか?)
持家率が増加したため、住居費の平均値が下がったという事もあるかもしれませんね。
最も支出額の減っている「その他の消費支出」にはいったい何が含まれているのでしょうか?
少し細かく項目を見てみましょう(総務省統計局ホームページ: 家計調査 収支項目分類一覧より)。
・諸雑費: 理美容サービス、理美容用品、身の回り用品、たばこ など
・こづかい(使途不明):世帯主こづかい、他のこづかい
・交際費: 贈与金、他の交際費、住宅関係負担費 など
・仕送り金
こづかいや交際費が含まれているようです。
以前の記事でこれらが極端に減少していることも取り上げました。特に2000年から2021年の変化では、平均でこづかいが29,429円→8,733円(-20,694円)、交際費が27,482円→13,412円(-14,070円)と大幅に減少しています。
この結果を見る限りでは、減少しているのはより生活を豊かにするものばかりですね。逆に光熱費は変わりませんし、保健医療はやや増加、もはや生活必需品と言える携帯電話が含まれる交通・通信はむしろ増えています。
生活に必須のものは支出を維持したり増やしたりしていますが、食料を含めて切り詰められるものはできる限り切り詰めていく、という傾向が見えてくるのではないでしょうか。
ちなみに、非消費支出は何かというと、次のもので構成されます。
・直接税: 勤労所得税、個人住民税、他の税(贈与税、自動車税など)
・社会保険料: 公的年金保険料、健康保険料、介護保険料、他の社会保険料
・他の非消費支出: 滞納金・延滞金、慰謝料、弁償金・示談金・罰金 など
これらの非消費支出も、その多くの算出基準となる所得が減っているにもかかわらず微増しているわけです。
家計の支出を見ると、よりリアルに現役世代の困窮が見えてくると思います。とにかく、家計はどの世代でも収入そのものが下がっているわけですね。そして、負担の割合が増す非消費支出や生活必須の支出を支払い、ローンを抱えながらも、可能な限りその他の支出を切り詰めている様子がわかります。
日本の家計から「ゆとり」や「余裕」が失われているようにも見受けられます。
まずは働く人の収入が増えるという事が大切なのではないでしょうか?
男性でも非正規雇用が増え雇用が不安定化する中で、将来への不安からも支出を切り詰めているという側面もあるかもしれません。(参考記事: 非正規労働ばかり増える日本)
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年8月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。