フランスがスペインからの天然ガスを拒否する理由

ヨーロッパにガスを運ぶパイプライン
出典:エコノミスタ

フランスは原子力発電に依存

ドイツが関心を示しているスペインからのガスパイプラインMidcatを通しての天然ガスの供給にフランスが難色を示している理由は、フランスは電力の供給の70%を原子力発電に依存しているからである。国内に45基の原子力発電所を備えている。更に、フランスは2030年までに小型モジュール炉を普及させる計画だ。

このような事情からフランスはスペインから天然ガスの輸送を受けてドイツや中央ヨーロッパに繋ぐことに関心が薄いということなのである。しかも、その為のつなぎのパイプラインの建設費、それがEUが資金支援するとしても、また環境保護という面においてもフランスは消極的な姿勢だ。

MidCatの供給量は80億立方メートルで、EUで必要とされている需要の僅か2.5%しか満たさないということで、フランスはその為の冒険を敢えてしたくないという姿勢だ。

スペインからイタリア経由でドイツに供給

しかし、EU委員会はロシアに代わる供給先を探さねばならないということで、Midcatをイタリアのジェノバに繋ぎ、そこから中央ヨーロッパ及びドイツに供給するという代替案を検討し始めているという。(8月19日付「エコノミスタ」から引用)。

意外なのは、13年間政権を続けたメルケル前首相がロシアからの天然ガスの供給にほぼ依存し、液化天然ガス(LNG)を天然ガスに転化させる装置を1基も備えていなかったということである。LNGの輸入を避けた理由には環境保護を優先したいというのも理由のひとつとしてあった。

ドイツのショルツ首相はロシアに代わる天然ガスの供給先を早急に見つける必要に迫られている。何しろ、今年のエネルギーコストは昨年比で最低60%の上昇が既に予測されているからだ。その為、今年のドイツの景気の後退は必至だと見られている。

ドイツの景気が低迷するとドイツ向けの輸出が多いスペインも間接的にマイナス影響を受けることになる。

マクロン大統領がアルジェリアにスペインへの天然ガスの供給増を要請

フランスはスペインからの天然ガスの中央ヨーロッパ及びドイツ向けの中継国になることを拒否している一方で、マクロン大統領は今月25日にアルジェリアを訪問する予定だ。その際に遮断されているモロッコを経由してスペインへの天然ガスの供給を再開するように要請する意向だという。

スペインが西サハラ問題でモロッコを支援する方針に方向転換したことで、西サハラを支援しているアルジェリアを憤慨させた。その影響で、アルジェリアからスペイン向けの天然ガスの供給量が減少し、モロッコ経由の供給が中断されている。