岸田首相が安倍さんのような大宰相になれない理由

あの事件から一か月半がたったいま、岸田首相の安全運転路線は、うまくいっているように見えたが、反対派を図に乗らした結果、旧統一教会問題でのリーダーシップ回避から水が漏れて支持率の大幅低下に見舞われている。

そこで、安倍さんならどうしただろうということも考え、また、来週、発売の「安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか-地球儀を俯瞰した世界最高の政治家」の一部から引用しつつ、岸田さんの進むべき道を論じたい。

 

 

 

岸田首相と安倍元首相 岸田首相Fbより

安倍さんが亡くなって、世界中からその実績を称賛する声が引き続き届く一方、国内では、国会での追悼演説がもたついたり、国葬の実施に反対する人がいたりします。

捜査の不手際もあって、事件への謎は深まるばかりだし、統一教会問題を梃子に犯行を義挙であるような取り上げ方をする悪質マスコミにはあきれるばかりです。原敬暗殺事件、5・15事件、2・26事件のときと同じですし、そうした態度が昭和日本における憲政主義の衰退と戦争への道へ導いたことを忘れたようです。

国葬や国会での追悼演説は、岸田内閣の処理がもたついたという印象です。葬儀のあり方については、岸田総理が方向づけをもっと早くにいうべきでした。ところが、政府がなにもいわないので、保守派から国葬にすべきという声が上がり、国葬を決定したわけですが、これでは、いかにも要求に抵抗できずに受け入れたように見えました。

政府は最初に、「歴代首相で最長の在職期間をつとめ、功績が国際的にも評価され、しかも、暗殺されて亡くなったのだから、過去、最高級の弔いをするのが当然だが、具体的な形については、法的な問題も含めて検討をしたうえで決めたい」というべきでした。

そして、吉田茂元首相の前例にならって国葬と呼ぶが、具体的な根拠法令がないので、官公庁などの休業はしないとかすればよかったのです。

追悼演説も、野党から出すとすれば、誰がするのか、過去に誹謗中傷などしたことがない適任者はいるのかといった議論を経て、落とし込めばよかったのでないでしょうか。

しかし、野党も本当に愚かだと思います。私は以前から、野党はポスト安倍の安倍ロス現象につけ込むべきだと主張してきました。小泉退陣のあと、安倍さんも含めて後継者たちは、物足りなく見えて、政権を失いました。どうせ、安倍後継政権は外交などで安倍さんほどの成果は上げられないのだから、安倍さんを半ば持ち上げて後継政権攻撃に使うべきでした。

ところが、安倍退陣後もモリカケなどタネに安倍批判ばかり続けるものだから、岸田政権の大衆迎合路線の前になすすべもないのです。池田勇人首相が浅沼稲次郎氏への見事な追悼演説で人気急上昇した故事を思い出し、岸田首相が真似できないような安倍さんの美点を誉め称えればいいのにと不思議に思います。「アベガー病」が野党をむしばんでいるのです。

私は安倍外交を野党も正当に評価して、「日本のドゴール」として扱いつつ、批判すべきところや発展させるべき方向を議論すればいいのにと思います。

国葬反対など、世界各国からVIPが来て賛辞を連ねるのを聞かされたら、色あせるのは目に見えているのです。英国で労働党が復調したのは、トニー・ブレアがマーガレット・サッチャーの功績はそれとして認めた上で、必要な方向修正や顧みられなかった問題に取り組んだからではないでしょうか。

旧統一教会については、何の取り締まりも対策もせず甘やかしただけの民主党政権と比べても、安倍元首相は、政界全体のなかで、抑制された適切な関係であって、批判に値しないということをこれまでの投稿で証明し俗論を論破したつもりですし、また、そのあたりのより細かい分析も書くつもりです。

一方、私もあの教団が日本に酷く困った影響を与えていると思います。とくに、日本人からお金を集めて、それを海外で、北朝鮮に媚びたかたちでの南北統一という日本の国益にならない目的に使っているのこそ最大の問題だと思います。

しかし、安倍元首相を殺した側でないのですから、社会問題を引き起こしている団体に対しての対処について、一般論として方針を議論し、そのなかで、問題を引き起こしているような勢力を政治の世界から適切に排除するなかで処理すべきです。

いま、私が岸田自民党総裁の立場なら、とりあえず、旧統一教会の関連団体とのあらゆる接触は仮の措置として停止し、さまざまな団体との関係についての、一般的な方針を決定した上で、それに従うといいます。

岸田さんも党のリーダーなのですから、個々の政治家がマスコミの攻撃に右往左往させられるような状況を放置しては、鼎の軽重がとわれます。安倍さんが党内の信頼を勝ち得たのは、自分がいちばん非難の矢面に立つ勇気を持っていたからだと思うのです。

そのあたりが、安倍さんと岸田さんの器の違いなのでしょう。しかし、当分、選挙もないし時間はあります。岸田さんも慌てず、堂々と信念をもって政策を実行に移し、大宰相への道を歩んで欲しいと思います。

*「家系図でわかる日本の上流階級」では、岸田家と安倍家の一族の歴史のなかで両宰相を論じています。