資金運用難:アメリカ国債下落で地銀に1兆円規模の含み損が発生

資金運用、難しそうに聞こえますが、企業レベルでも個人レベルでも同じことです。手持ちの現金をどこにどう預けるのか、お金にどれだけ汗して働いてもらうのか、その働きの結果、果実はあるのか、という考えは大企業でも機関投資家でも主婦の家計管理でも発想は同じです。

日経に「地銀の海外運用、含み損1兆円超 6月末、3月末比6倍に 米金利上昇が財務に影」とあります。日本の地方銀行はビジネスとして厳しい環境にあります。貸し出す先が少なく、銀行間の激しい営業争いもあります。与信や貸付では銀行間の差別化がしにくいため業績を上げるのはたやすくありません。まさにレッドオーシャンそのものです。となると、体力の劣る銀行が収益を上げるには運用という手法も選ばざるを得ませんが、とはいえ、株式のようなハイリスクな投資対象一辺倒という訳にもいきません。

地方銀行一覧 全国地方銀行協会HPより

そこで国債が金融機関にとって都合の良い運用先なのであります。都合のよさの一つは含み損があっても満期まで持てば満額償還されるので元本は基本的には安全です。銀行経営にとって含み損の現実化(=決算で赤字を計上すること)が一番堪えるなかで比較的クッションがあるのが国債だったわけです。そしてその国債運用も日本ではなくアメリカなど海外の国債にシフトしていました。ところが金利上昇により国債価格が下落したことで記事のタイトルにあるような1兆円規模の含み損が発生したわけです。

私はカナダの自分の老齢年金の運用のうち投資信託で行っているのが何本かあるのですが、この4-6月の運用成績は酷かったです。もちろんマイナスなのですが、モノによっては2けたマイナス%です。あるいは2期連続マイナスとか目も当てられない成績表です。特にリスクを中位にしている投資信託は概ね国債運用が入っているため、地銀の含み損と同様、我々個人レベルでも含み損が出ているということです。

老齢年金なので放置プレイで、たいして気にも留めていませんが、目先の資金が必要な方には厳しい結果となりました。

先日、あるカナダ人の方と飲んでいた際、「資金運用はどうするか?」という話になり、その方は「GIC(利回り保証の定期預金)だよね」と言うのです。それは投資運用が非常に複雑、不安定となり、よい時、悪い時が必ず周期的にやってくるため素人には安全に対応しにくいというわけです。

カナダのある雑誌に素人さんの投資コラムがありその中にカナダの株式5銘柄を1年前に投資したら散々な結果になったという告白がありました。私は1年前にそのうち4銘柄を所有していましたが、全部、結構前に売却済みでした。ではその差は何なのでしょうか?

会社の栄枯盛衰という話は昔からあり、20年以上前によく言われたのが「会社の寿命は30年」でした。これが徐々に短くなり、今やビジネスの盛りは5年程度にまで短くなりました。そのような中で投資は長期が良いのか、短期でもよいのか、というのは投資家のポジション次第です。どちらが良いということは言えません。但し、何十年も同じ銘柄を抱きかかえていてもあまり意味はないと思います。つまりアクティブな投資家としてはセンスはないと思います。

会社の栄枯盛衰が仮に5年だとすれば株価の波動もそれ以下のサイクルに収まります。そして個別の株価は各企業の業績もありますが、業界、経済界、国、世界というより大きな環境の中で波動を繰り返すものです。とすればどれだけ業績が良い会社でも株価がずっと右肩上がりかといえばそんなことはまずないのです。

例えばトヨタの長期の株価チャートを見ると株価は何度かの波動があります。一度目が2000年4月、次に07年2月、次が15年3月、最後が22年1月に高値を付けています。同社のその周期は概ね7年です。ある程度成熟した企業のチャートを20-30年単位で見ると波動が出ていることはよくあります。これを理解していれば自分が今どこにいるのかほぼ一目瞭然なのです。このような分析と冷静な視線で大局を見ることは投資にとって重要なのです。

失敗する投資とはあるbelief(信念)が強すぎることだと考えています。believeは信じるという意味であるように何を根拠に信じているのか案外論理性がなく、個人の気持ちのバイアスが入り込みすぎて失敗するわけです。この株はもっと上がると思い続けて売り時を外すのと同じです。

投資信託の運用詳細表を見ると結構な頻度で売買を繰り返しているのがわかると思います。ずっと同じ銘柄を抱きしめている投信はありません。

唯一、私が長期で抱き抱えているのは安く買った配当株です。以前にもご紹介したと思いますが、北米には驚くような配当性向を提示する銘柄が結構あります。決して極小の怪しい会社ではありませんが、総じて実業会社というより特殊で安定した権益を有するような会社が多いと思います。それらの表面利回りは10%以上なのですが、株を安く買っていれば実際の配当性向はもっとあるわけで、持っているだけで元本を7-8年で回収できてしまうのです。そしてそういう銘柄はネットで銘柄を探しても出てきません。

資金をどう運用するか、わかっていれば苦労しないし、私が大言壮語を述べるつもりもありません。ただ、中学2年生から今日に至るまで常に市場と寄り添い、数多くの失敗も経てきた中で資金運用ほど奥深いものはないし、今でも日々数多くの経験を積ませてもらった学びとして最後に一言。

数多くある投資対象から自分の性格にあった銘柄や投資対象を見つけ、背伸びをし過ぎず楽しむこと

分かり切っているけれどこの鉄則だけは忘れてはいけないと思います。そうすれば「休むも運用」という言葉の意味も理解できるようになるでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月27日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。