国内留学「年間800万円」は高い?安い?

黒坂岳央です。

岩手県の安比高原に、イギリスで歴史ある高等学校の日本校が開講したというニュースを見た。いわゆるインターナショナルスクールなのだが、他と異なる点としては全寮制という点である。気になるお値段は「年間800万円以上」。一般的な全日制の高等学校の学費と比べると、10倍以上というプライスである。

施設は極めて充実しており、環境としては最高だろう。新たな選択肢として注目が集まっている。「実態として、中国人富裕層向けのスクール。日本人向けではない」という反応も見られたが、今回はあくまで日本人が通わせる想定で論考したい。

はたして国内留学はペイできるか?二人の子を持つ親として国内におけるインターナショナル教育を考えてみた。

shih-wei/iStock

正直、ペイするのか?

まず、この選択肢は「ペイできるかどうか?」という目先の経済的利益の観点だけで判断することは難しいと感じる。

その一方で米国の一流校や、MBAへの進学はペイする可能性は高い。筆者はかつて、外資系企業に勤務していた頃はフロアには多数の海外大学MBAホルダーがいて、特に役職持ちは国籍問わずほとんどMBAホルダーだった。彼らの年収は1,500万、2,000万円くらいだったので、高い学費を支払ってもペイすることは十分可能である。日本でこの状況なので、米国本土ではさらにこの傾向は強まる。

また、たとえ現職を離れて転職しても、MBAはキャリアとともに残るので市場価値は確実に底上げされる。ちなみに脱サラして経営者やフリーランスになると、ビジネス書の執筆家や教育業、セミナー講師などの仕事で教育への投資が活きる可能性があるが、ペイできるかは未知数である。

しかし、これが大学、大学院以前となると判断が難しい。岩手県新設校にかぎらず、一般論として高額なインターナショナルスクールがその後のキャリアや市場価値へ寄与する度合いは、筆者の知る限りMBAには劣ると感じるからだ。だからインターナショナルスクールへの投資についていえば、労働市場で強力なシグナリングとして機能が約束される一流大学院などとは別の観点で考える必要があるだろう。

早期教育はコスト高だが…

自分は過去に教育熱心なママの早期教育の話を聞いて驚いた経験がある。特に英語教育や、グローバル人材育成については凄まじい熱量である。家庭内ではパパとは日本語、ママとは英語だけで24時間会話するとか、教育ママ同士のLineグループで効果のありそうな英語学習法を定期的に会議をしてシェアするなどである。親戚の幼児は、週4回ほぼ毎日幼稚園でネイティブ講師が来て英会話をさせるところに通わせる話も聞く。

なぜ早期教育をするのか? 早い段階で英語を入れると入りやすい、という一般論とは別に理由があると思っている。それは入る「深さ」だ。

これまで、数え切れないほど帰国子女や海外生活経験者を見てきたが、出発した年齢で海外文化やグローバル感覚の入る度合いが違ったように感じた。30歳を超えて海外にいった人は、コアとしての日本人気質は本質的にはほとんど変わらないようにみえた。その一方で、中学生以前の早い段階で親の仕事の都合などで渡米した人は、考え方や価値観、英語もまんま現地のアメリカ人そのもののようになるケースを見てきた。

自分のアイデンティティが完全に固まる前の、早い段階でインターナショナル教育をすることには入る深さが異なるのだろうと思う。そう考えると、おいそれと一家で海外にいける状況にない人がほとんどの中で、この国内留学は選択肢の代替になり得る。端から、我が子を日本を基盤に人生を送らせるつもりのないという人にとっては十分ペイできるのかもしれない。

インターナショナルスクールは、効果が未知数な点もありつつ素晴らしい選択肢の1つだと思う。特にこのスクールは全寮制ということで、まさしく「国内留学」に近い性質があるだろう。もしもこの取組が非常にうまくワークした場合において、さらなるグローバル日本校の呼び水になり得る。多様性、豊富な選択肢の一助になり得るこのニュースに対して、強い引力を感じてしまった次第だ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。