佐倉市職員の「持ち家手当」復活条例とその周辺の課題 ①

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2022年8月議会に、佐倉市内の持ち家に在住する市職員に対して「持ち家手当(年間36,000円)」を新設する条例案が上程されました。

本条例改定の目的は「市職員の迅速な災害時参集」とのことで、つまり大災害の折に、すぐに被災地や災害対策本部に駆け付けられる職員を増やすこと、と説明を受けました。

公務員の持ち家手当については、平成21年に総務省が地方自治体に廃止を促す通達を出しました。背景としては、民間における持ち家手当の支給状況の減少などをとらえ、国民に説明がつかない、等があります。

総務省:地方公務員の給与改定等に関する取り扱いについての総務副大臣通知

結果、国家公務員と都道府県職員に対する持ち家手当は全廃され、市町村においても全体の90%以上が廃止し、直近一年でも9市町村が廃止しています。

総務省:地方公務員の自宅に係る住居手当について

今回上程された議案が可決されれば、佐倉市でも一度廃止された持ち家手当を復活させることになります。

はじめに、本案に対する現時点の私の立場を端的にお伝えするなら、

  • 上記目的を前提とした本案(市職員の新たな手当の新設)は、市民に説明がつかないうえに、国の方針にも合致していない。
  • 政策目的と効果が相当程度食い違う。
  • 本案を実施するにあたり、他市との比較において佐倉市に特段の特殊事情はない。

などにより「反対」となります。

一方で、この条例改定議案があがってきた背景には、「災害時の迅速参集」という以外にも、「佐倉市職員の市内定住促進」という、全国の市町村の悲願ともいえる思いが込められている、ともとらえることができます。なお、執行部からそのような説明は受けておりませんが、本案を極力フェアに検討することを目的として、そのあたりの「市町村独自の特殊事情」を説明します。

例えば佐倉市では、一般行政職の職員数は約1,000人。そのうち、市内在住職員と市外とはほぼ半々とのことですから、約500人は市外に住んでいることになります。

仮に全職員が佐倉市に住んでいれば、持ち家所有者なら固定資産税の他、持ち家賃貸にかかわらず市民税も佐倉市に入ることになります。また、佐倉市内での経済活動も増えることになりますから、経済効果もあがる。佐倉市の規模ならば、それらが及ぼす効果は「おおいにある」と言えます。

さらに言えば、そもそも佐倉市の行政サービスは佐倉市民であればこそ「充実させたい」という当事者意識も生まれますし、人脈も形成され、より「血肉の通った行政」ができるようになるというメリットもありそうです。

しかし、市内に住めばトラブル対応などで顔を合わせたくない市民とバッタリ、などということもおきがちなので、本音を言えば「市外に住みたい」と思う職員もいるでしょう。

また、本案の前提にあるとおり、災害対応の他、早朝・夜間のイベント、投票所応援業務などに「駆り出されたくない」という意識から、あえて佐倉市から極力離れた市に住む職員もいるのかもしれません。

その点、居住の自由は憲法22条に規定された揺るがない権利ですから、市職員が市外に住むことは「自由」です。よって市役所がどんなに望んでも、職員の住まいを市内に強制する条例策定は不可能です。

その意味で言えば、法律や国の通達などでがんじがらめにされた佐倉市が、この「市町村特有の問題」を提起するためにあえて国に喧嘩を売った、ある意味「悲痛にして真摯な態度」ととらえることもできなくはないのかもしれません。

そこで今回の連載では、「佐倉市における市職員の持ち家手当復活条例の是非」という議案そのものの検討とあわせ、「当該市に住まない市職員に関する考察」という全国の基礎自治体が抱えるマクロな課題意識とその考察を試み、さらにこの議案審議について、佐倉市議会としてどのように向き合ったか、という「地方議会の在り様」を確認したいと思います。

(続く)