「学歴」というアメリカの断層

民主党は「大卒の党」

近年、アメリカの分断は進行しているだけではなく、悪化の一途を辿っているが、その中でもアメリカ社会に横たわる学歴という断層がくっきり見えてきている。

その断層を垣間見るきっかけを作ったのが連邦政府の学生ローン返済を一部帳消しにするというバイデン政権の決定だ。中間選挙まで残り100日をきったタイミングで、「大卒」という特定の集団をターゲットにした措置は、いかにこの層が民主党にとって重要であるかを物語っている。

大卒というのは民主党の最も信頼たる支持者でもある。過去二回の大統領選にて、大卒の民主党支持率は6割近くを記録し、修士号以上となるとその数字は7割近くとなる。保守系のNPOが実施した調査によると、米軍士官学校を除いたリベラルアーツ系学部を要する大学の教授のうち12人に1人が民主党員として有権者登録をしているとのことだ。

実際、その数字が事実であることを筆者は肌感覚で体感した。筆者は2020年1月から5月まで米国北部の大学に留学していた。ちょうど、その時期は民主党大統領候補を決める予備選の過渡期となっていたことから、キャンパス内ではでバーニー・サンダースやエリザベス・ウオーレンなどの左派系候補の選挙活動が活発に行われた印象がある。また、授業の冒頭に教授がスクリーンの画面上に「民主党予備選では誰に投票するか?」というアンケートを映し出し、それに回答することで出席を確認するという一幕もあった。ちなみにそのアンケートでは圧倒的多数でサンダースが勝利した。

筆者は、リベラル色が色濃いキャンパス内でも共和党支持者の学生と交流もあったが、彼らはなんだか肩身が狭そうだった。それほど、米国大学は民主党の支持基盤として根強いのかと思い知らされた。

ハーバード大学 janniswerner/iStock

エリートの党だった共和党

一方、共和党の場合は民主党の逆で非大卒、つまり高卒の支持率が上がってきているという現状がある。これはエリート階級が拠り所としていた共和党の歴史を考えると興味深い変遷である。

共和党は党史史上初めて大統領に就任し、奴隷解放宣言を発布したエイブラムハム・リンカーンに代表されるように反奴隷制を旗印に誕生したという一面がある。一方、米国の工業、貿易の中心地となっていた北部の利権を守るための有産階級も結党に大きく貢献した。そして、南北戦争が集結し、奴隷制に依拠していた南部から北部に富が移行することで北部を拠点とする共和党が有産階級を代表するというイメージが強くなり始めた。

共和党が有産階級の党であることをはっきりさせたのが、民主党のフランクリン・ローズベルトの大統領就任だった。ニューディール政策を通じてそれまでのアメリカ社会で根付いていなかった社会保障を充実させることで、民主党は南北戦争以前から南部の人種差物主義者が牛耳っていた党から弱者に寄り添い、利権をばらまくことで万人受けする政党に脱皮した。

だが、ルーズベルトは政治的打算から有産階級を攻撃し、公共事業を推進することで私企業を圧迫してしまったりしたことから、ビジネス界のエリートたちを共和党を半永久的に追いやった。実際、ニューディール政策に最も批判的だったのがこの層であった。

それから、半世紀近くアメリカのエリートは共和党の有力な支持者となった。戦後の大卒が支持する政党は多くの場合は共和党であった。

入れ替わる二大政党の支持層

しかし、冷戦終結後、共和党、民主党共に支持層が大きく入れ替わった。1992年の調査によれば、高卒の50%が民主党支持、41%が共和党支持だった。だが、それから30年近く経た2016年には、共和党が高卒の59%の支持を獲得し、民主党の高卒支持の約二倍の数字を記録した。

冒頭でも言及したように、一時期は共和党の支持基盤だった大卒は民主党に逃げた。上記のような支持層の大移動が起っているかを説明するのには新たな論考を書く必要があるし、識者の間でも論争がなされている真っ最中である。

だが、確実に言えることとして米国大学のリベラル化、そこから生み出されるエリートの存在が二大政党の支持基盤を塗り替えるのに一役買っていることである。そして、社会と激しく乖離した米国大学内の文化がアメリカの分断を悪化させる重大要素のひとつとなることは説明するまでもない。