岸田首相、この危機をどう乗り越えます?:党内の力関係はバラバラに

以前、国葬問題についてこのブログで警備費用を含めて概算でも何でもよいのでさっさと公表すればよいと申し上げたのを覚えていらっしゃる方もいるでしょう。政府は誰が何人来るかわからないので警備費の予想は出来ないと突っぱねていました。

英語でballparkという言葉があります。「大雑把(ballpark)でいくらよ、数字の責任は問わないから」というのは私がビジネスでよく使う表現です。この程度の開示でよかったのに妙に隠そうとしていると思われたことが反発を呼びました。

国葬にかかる警備費用がいくらか想定するには3つ方法があります。似たような前例と今回の規模との比較でこれぐらいというやり方が1つ目です。今回の国葬の3倍の規模だった天皇陛下の即位の礼の警備費が38億円。来られた国賓のレベルも今回の国葬参加予定者に比べ、高かったことを踏まえればざっくり警備費10億円強という数字は3秒で計算できます。

岸田首相 自民党HPより

が、役人仕事は検証を伴うため、下から積み上げる試算もするわけです。これが2つ目の方法ですが、答えは出にくくなります。理由は精度をどこまでにするか担当者の腹積もり次第になるからです。3つめは企業でよく採用する「いくらでやる」という予算の事前設定型です。ない袖は振れないというのが営利企業の考えですが、役所にはそのような発想は基本的にはあまりないかと思います。そんな中、野党や世論からの激しい声に多分政府高官レベルでballparkの数字を決めたのだと思います。ようやく16.6億円という数字を発表しました。

これが岸田首相の責任なのかといえば個人的にはそうとまで言いません。下からの積み上げは政府や役人の標準的なやり方でこれに準拠するのが普通でしょう。「そうじゃない、こうやって数字を出せ」と指示ができる剛腕型トップであれば別でしょう。岸田氏は「聞く力」の方であり、今更、ここを攻めてもしょうがない気もします。

さて、政府は物価高に関して低所得者世帯に5万円の給付、及びガソリン補助金も延長、小麦の売り渡し価格統制も現状価格で継続すると発表しました。日本は政府が国民に対して物価高配慮をする点においてはある意味、うらやましいと思います。バンクーバーでガソリンを入れればリッターあたり223円程度、パンの価格はもう2倍ぐらいになったと思います。欧州の光熱費は尋常ではなく、これからいよいよ秋、冬を迎える中で家庭は戦々恐々としていると思います。その点では日本人は恵まれていると思っています。

かといって政府の予備費が無限にあるわけではありません。この物価高がいつまで続くか予見も出来ません。その中で、よく見ればガソリンや小麦が高いのは円が安いことに起因していることもあるのです。今日の円相場は一時143円台をつける円安が急加速しています。なぜでしょうか?

為替は為替に聞けです。よってこれを論理的に説明してもなかなか難しいところです。では私が為替トレーダーならどの点を見るでしょうか?チャートでしょうか?ファンダメンタルズでしょうか、それとももっと大きなピクチャーでしょうか?

かつて円はスイスフランと共に安全通貨として買われたことがあるのを覚えていらっしゃいますか?理由は世界最大の対外純資産国であるからとされましたが、めっきり聞かなくなりました。今でも対外純資産のステータスは変わっていないのにこれだけ円が売られるのですから市場は薄情なものです。私がみる最大の懸念は地政学的な問題と浮上しない経済、そして資源と食糧問題なのだと思います。

これを言うと日本はそんな脆弱ではないと反発されるでしょう。ただ、為替市場は脆弱かどうか、絶対評価ではなく、相対評価なのです。日本のニュース系のバラエティ番組でも政権に対して厳しい声が突き刺さっています。百田尚樹さんなど「そこまで言うのか?」と驚くような過激発言も飛び出します。つまり目先の山積する問題解決に翻弄され、国をよりよくする方向にほとんど進んでいないのです。

基本的には決められないこと、方針が明白に打ち出せないこと、BOLDで夢がある社会となっていないこと、この3つが岸田政権に重くのしかかっているように見えます。ここに来てようやく旧統一教会問題の話題がメインディッシュから脇役になりつつありますが、しばらくは国葬問題、その後、国防予算GDP比2%の件、更には対中国の日本国政府の姿勢は自民党内が分裂するほどの議論になるかもしれません。憲法改正など全く遠い事象になると思います。

目先の変化球としては9月の党大会での公明党の代表選びがキーかもしれません。山口代表継投論も出る中、自民党が公明党と今後、どう付き合うのか腹をくくる正念場になる気もしています。自民が特に外交的に踏み込めない理由の一つが公明党の存在であります。長期的にみて公明党との連携が正しいのか、私は見直す時期にあると思っています。

もう一つは経済政策に於いて岸田氏が日銀人事でリフレ派主導から離反させるのか、であります。誰が日銀総裁になったとしても金融政策の急変は劇薬になるので慎重に行動を起こすと思いますが、昨日防波堤を波が既に乗り越えていると申し上げたように国債相場が催促相場になっている点で人事異動⇒政策変更思惑⇒イールドカーブコントロール放棄の可能性と市場が捉えると制御が効かなくなります。こんな最悪シナリオが起きた場合、23年3月期に向けて金融機関の手持ち国債の含み損や住宅ローン金利の上昇で一般市民生活に影響が出ることは想定すべきでしょう。こうなれば岸田政権には厳しい痛手となります。

私は自民が一枚岩になれるかかが岸田首相の命運になると思っています。いろいろなものを読む限りどうも党内の力関係が二極化というよりバラバラになっているように見えます。それが幹事長のチカラの問題なのかを含め、最近の世論調査の厳しい結果の本質はどうも違うところにあるように思えてしょうがないのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月7日の記事より転載させていただきました。