デジタル化による健康維持や重症化予防に投資できない日本という国

スマートウオッチで心房細動を見つける

Nature Medicine誌に「Smartphone-based screening for atrial fibrillation: a pragmatic randomized clinical trial」というタイトルの論文が掲載されている。3年前のNew England Journal of Medicine誌に「Large-Scale Assessment of a Smartwatch to Identify Atrial Fibrillation」という論文で心房細動を見つける手段としてスマートウオッチが有用であることを示唆する報告されていたが、今回の論文はそれを臨床試験として証明したものだ。

65歳前後の心房細動の既往歴のない5551名を2群に分け(2860人と2691人)、半年間片方の群の人にスマートウオッチを装着して脈の規則性をモニタリングして、その後、群を入れ替えてもう一方の群の人にスマートウオッチを装着してモニタリングする方法だ。途中で入れ替えることで、グループ間の偏りがないことを確認したものだ。

細かい数字は省くが、スマートウオッチでモニターした群では、心房細動の診断率が約2倍に上がっている。全体の5551人でざっくり計算すると、スマートウオッチを利用していない人では40名、スマートウオッチを装着した群では85名が新たに心房細動と診断された。論文では半年間の経過観察であるので、1万人を1年間スマートウオッチで観察すると仮定すると、144名対306名の差となり、人口1万人に換算すると、年間166名の心房細動患者がスマートウオッチ検診で見つかる計算となる。また、65歳以上は同じ頻度で心房細動に罹患すると仮定すると、日本の高齢者は3600万人であるので、毎年約60万人の心房細動患者をスマートウオッチで見つけることができると推測される。

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要介護人口を抑えるはずだ

心房細動そのものより、これによって生じた血栓が脳に飛び、脳梗塞を起こすとさらに大変である。脳梗塞は治療が速やかに行われると、後遺症を残さないまで回復可能であるが、治療開始が遅れると麻痺を起こし、要介護状態になることが少なくない。すでに広く使われ始めているスマートウオッチを活用すれば、心房細動を早く見つけ、血栓が予防でき、寝たきりを含め要介護の人を減らすことができるはずだ。介護される人も大変だが、介護する側の肉体的・精神的負担も大きい。

超高齢社会を迎えている日本こそ、このようなデジタル化による健康維持や重症化予防が必要だが、国は無策だ。10-20年遅れの情報で判断しているコロナ対策が国の地盤低下の象徴だ。要介護人口が減れば、医療福祉費は減り、家族の負担も減り、労働人口は維持できる。こんな単純なことに投資できない日本という国は悲劇だ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年9月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。