9月6日、政府は安倍元首相の国葬の費用について、総額16億5千万円程度となることを示しました。当初は、2億4940万円を公表していましたが、大きく上回ることが明らかになったのです。情報が明らかになるにつれて、岸田内閣の支持率が下落し始めています。政府は最初から包み隠さず国民に提示すべきだったように思います。
このような中、再び聞こえてくるのが「政治とお金」のあり方です。本稿では、改めて「政治とお金」について各国の状況を踏まえながら考えてみたいと思います。
政治家は国民目線に立つべきでは
2021年10月31日の衆議院選挙後に「満額」が振り込まれたことにより「文書通信交通滞在費」を巡る問題は、連日メディアで報道されました。しかし、結果的には名称が「調査研究広報滞在費」に変わっただけで問題点は先送りされました。
政治家は批判の声があがっても、自らが不利になるシステムに変更することは考えられないのでしょう。国民は政策の熱い議論を期待していますが簡単ではないようです。そういえば、臨時会で一回も出席しない新人議員がいたのも記憶に新しいところです。
文通費の由来は終戦直後の1947年にさかのぼります。「通信費」とは、国会議員が公務に関する書類などを無料で郵送できる制度を設けるように、GHQ(連合国軍総司令部)の指示を受けて制度化されました。当時は議員宿舎が整備されていませんでしたので、地方出身者の宿泊手当や交通費を手当していた日当を包含し「滞在雑費」として支給されました。
今年で戦後77年が経過しました。衆議院議員宿舎、参議院宿舎は国会近くに整備され、都心の一等地にありながら、民間とはかけ離れた家賃の安さ(近隣相場の2割程度)に批判が集まっています。日本維新の会の鈴木宗男議員は、衆議院決算行政監視委員会(2007年4月23日)にて「家賃が月9万2127円という安さが問題だ」と発言しています。
本来、国会議員のために提供されている議員宿舎が、議員以外の他人に使われている実態も明らかになっています。これらの負担はすべて血税によってまかなわれています。戦後まもない時期から、名称を変えながら脈々と受け継がれる「文通費」。領収書も使途公開も必要のない魔法のお金です。本当に必要なのでしょうか。
世界と比較する日本の政治
ここで、日本の政治を取り巻く環境について考えます。
【議員報酬ランキング】
1位 シンガポール:88万8428ドル(約9,772万円)
2位 ナイジェリア:48万0000ドル(約5,280万円)
3位 日本:27万4000ドル(約3014万円)
4位 ニュージーランド:19万6300ドル(2,159万円)
5位 アメリカ:17万4000ドル(1,914万円)
6位 オーストラリア:14万1300ドル(1,554万円)
7位 イタリア:14万3352ドル(1,576万円)
8位 ドイツ:13万3279ドル(1,466万円)
9位 カナダ:13万0710ドル(1,437万円)
10位 オーストリア:11万7903ドル(1,296万円)
(出典・参照)LOVEMONEY.COM「This is what politicians get paid around the world」。調査時期(2019年)は1ドル=110円であることから同水準で算出。
日本はかなり優遇されていることがわかります。改正国会議員歳費法が適用されて2割がカットされていますがそれでも高い水準です。手当を含めると世界1位の水準です。
【国会議員数比較】
1位 中国:2,975人
2位 イギリス:1,425人
3位 イタリア:949人
4位 フランス:925人
5位 エジプト:892人
6位 ドイツ:807人
7位 インド:779人
8位 タイ:737人
9位 日本:707人
10位 北朝鮮:687人
(出典・参照)IPU(Inter-Parliamentary Union,2020)https://www.ipu.org/
各国の国会及び国家議会における就任議席数(議員数)の比較です。議席定数に対する空席分は含みません。二院制の場合は両院(上院・下院)を合計しました。
【国会議員1人に対する人口割合】
1位 インド:1,771.51
2位 ハイチ:1,140.25
3位 米国:618.17
4位 パキスタン:499.76
5位 インドネシア:475.69
6位 中国:474.26
7位 バングラデシュ:470.54
8位 ナイジェリア:439.53
9位 ブラジル:357.84
10位 フィリピン:331.06
20位 日本:177.99
(出典・参照)IPU(Inter-Parliamentary Union,2020)https://www.ipu.org/
国会議員1人当たり人口を算出しました。各国の総人口を国会議員総数で割った、国会議員1人に対する人口割合を順位付けしました。数値が少ないほど人口に対する国会議員数が多いことになります。日本の場合は国民の意思を政治に反映しやすいとも言えますが、実際はどうでしょうか。反映できているのでしょうか。
データから見えること
日本とアメリカをくらべた場合、報酬は日本の方が高額です。しかし、議員1人あたりの立法経費(報酬+経費)はアメリカの方が高額です。
アメリカの場合は、議員の仕事に対する対価として報酬が存在します。立法経費、選挙費用などを厳密に分けています。日本ではそのあたりの区分が曖昧です。議員報酬から政治活動費を捻出したり、私設秘書の給与に当てたりなど緩いのです。
アメリカの議員手当は、請求してから費用を支払います。すべて使途明細書の提出がなければ1セントも支払いがされない後払い方式です。一方、日本では全国会議員一律です。「払いきり」ですので、アメリカと比較するとかなり不透明といえます。
議員は国の代表ですから、相応の報酬があることは理解できます。しかし、税金によって支払われる以上、議員の仕事に見合うかどうかを国民1人ひとりが注視しなければなりません。今後、「政治とお金」に関する議論は深まるのでしょうか。