すべての裁判所が却下している「安倍国葬差し止め仮処分」

市民団体による「国葬差し止め仮処分」申請

安倍晋三元首相の「国葬」に関する閣議決定の取り消しや、関連予算執行の差し止めを求める市民団体メンバーによる仮処分申請は、これまで、東京地裁をはじめ、大阪地裁、横浜地裁、さいたま地裁の各裁判所に対して行われた。

しかし、市民団体による仮処分申請は東京地裁、大阪地裁、横浜地裁、さいたま地裁において、悉く却下されており、仮処分申請を認めた裁判所は皆無である。東京高裁は東京地裁の却下決定に対する抗告も棄却している。

安倍晋三元首相SNSより

裁判所の判断

市民団体による本件仮処分申請の主たる理由は、

  1. 国葬に法的根拠がない
  2. 閣議決定のみによる予算執行は違法である
  3. 国民に弔意を強制し憲法19条の思想・良心の自由を侵害する

というものである。

東京地裁は8月2日、閣議決定がすでに行われているから、「差し止めを求める利益がなく不適法」と判断し、予算執行に関しても「個々の国民に弔意を表すことや喪に服することを強制するとは認められない」として仮処分申請を却下した。また、当事者間に具体的な権利義務関係がないとも指摘した。

東京高裁は8月29日、東京地裁の判断を支持し、市民団体側が主張する閣議決定に対する行政事件訴訟法による執行停止は重大な損害を避けるため緊急の必要がある場合に限られるとして「適用の余地はない」と指摘し、予算執行の差し止めも根拠法がなく、「申し立ての理由がない」として抗告を棄却した。

さいたま地裁も9月5日仮処分却下の決定をした。決定理由は、市民団体のメンバーらに「固有の損害が発生するとは考えにくく、仮処分を認める緊急の必要性があるとも言えない」というものである。

大阪地裁や横浜地裁も9月9日本件仮処分申請を却下した。その理由として、横浜地裁は「重大な損害を避けるために緊急の必要があるとは言えない」などとして、「要件を欠く不適法な申し立てである」と指摘した。大阪地裁は「閣議決定は国民の権利義務に直接影響を与えるものではない」として仮処分を却下した。

不適法な仮処分申請

以上の各裁判所による仮処分却下決定の共通点は、筆者が2022年7月27日付け掲載拙稿「安倍国葬反対の仮処分は却下か?」で指摘した通り、市民団体の個々のメンバーには、仮処分の要件である「被保全権利」が存在しないということである。すなわち、本件「国葬」の差し止めについて、個々のメンバーには法律上保護されるべき具体的な利益や権利が認められないということである。

この点は、東京地裁も「当事者間に具体的な権利義務関係がない」さいたま地裁も「固有の損害は発生しない」と指摘している通りである。上記拙稿でも指摘の通り、仮処分の要件である「当事者適格」自体を欠くとも言えよう。そのうえ、さいたま地裁や横浜地裁は、仮処分を認める緊急の必要性を否定しており、仮処分の要件である「保全の必要性」も否定しているのである。

このように、裁判所は、市民団体による本件仮処分申請について、仮処分の三要件である「当事者適格」「被保全権利」「保全の必要性」をすべて否定しているのであり、本件は法律上不適法な仮処分申請であると言うほかない。仮に、市民団体側に代理人弁護士がついているとすれば、法律専門家としてこのことを重々認識しているはずであり、本件は「訴権の乱用」ともいうべき一定の政治的目的を有する「無理筋」の仮処分申請と言えよう。

「国葬」の法的根拠について

政府が閣議決定した「国葬」の法的根拠については、立憲民主党の岡田克也幹事長は、9月4日NHK日曜討論で、国の儀式であるから、立法、司法、行政の三権の承認が必要であり、本件「国葬」は法的根拠を欠く旨述べている。

しかし、行政権は内閣に属し(憲法65条)、内閣府設置法4条3項33号では「国の儀式」は内閣の所管とされているから、これに基づく「国葬」の閣議決定には法的根拠がある。「国葬」は行政行為(「行政権」)に属し、行政行為には「公定力」があるから、明らかな逸脱がない限り有効であり裁量権が認められるのである。岡田氏の上記見解は形式論に過ぎず相当ではない。

上記各裁判所の仮処分却下決定も、その大前提として、政府の閣議決定に基づく「国葬」の法的根拠を承認していることは明らかである。上記東京地裁も「閣議決定がすでに行われているから、差し止めを求める利益がなく不適法」と指摘しているのである。

なお、裁判所の実務では、仮に、申立人市民団体側に代理人弁護士がついているとすれば、当該代理人弁護士及び相手方国側代理人訟務検事双方が提出した主張と事実と証拠を裁判所合議部が精査し検討したうえで、本件仮処分却下決定がなされたのである。

「安倍国葬」の意義

安倍元首相はとりわけ外交面での功績が大きい。安倍元首相提唱の「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、安全保障と経済発展を含め欧米各国の評価が高い。今や同戦略は世界的意義を有するに至っている。アジア・太平洋地域における軍事大国・中国の際限なき覇権主義・拡張主義を抑制する役割も大きい。また、内政面では、日本の抑止力強化、防衛庁の防衛省への昇格、安保法制、デフレ脱却、雇用拡大、観光立国などの功績も大きい。

「安倍国葬」は、安倍元首相のこれらの功績を正当に評価し、且つ国連をはじめ諸外国からの極めて高い評価に対して日本国としてなすべき重要な外交的儀式である。