父が死んで33年が経ちました。もう、全てが時効ですから、そろそろ話してもいいでしょう。
かつて元帥と呼ばれた自民党衆議院議員の木村武雄。その息子の莞爾(かんじ)は、父と中国との関係について著者に口を開く。本書は戦後、日本が中国の手の平で踊らされ続けてきた歴史を白眉の下にさらす。
廖承志(りょう しょうし)による対日工作として、キーマンとなる日本の政治家・松村謙三への細かな気配り、著書「複合汚染」で有名な作家の有吉佐和子や公明党などの関係者が果たした役割についても詳述。そして対日関係を有利に進めるために、バレエ団訪日やパンダのランラン、カンカンの贈呈など、あらゆる手段を中国共産党は活用してきた。
著者はこれを日中友好侵略史と呼ぶが、中国側から見れば国際社会で生き残るための懸命の外交努力である。それを著者は、緻密な戦略を練る中国に対して、日本は準備することなく外交交渉に引きずり込まれる外交後進国として描く。
今日の日中関係を蝕む惨状を著者は日中友好絶対主義と呼び、その源流を「田中角栄の政治家としての『功名心』、そして大平正芳の戦前からの『贖罪意識』」とする。
日中国交回復後の50年を振り返ることは、同時に断交した日台史に想いを馳せることである。著者は同時並行で、日本と台湾が国交を断絶する経緯についても関係者への取材を通して明らかにした。
日中国交回復に向けて日本が前のめりになるということは、同時に台湾との断交が結論ありきで当時の日本政府によって想定されていたことを意味する。
そんな中で、台湾を説得する汚れ仕事をベテラン衆議院議員・椎名悦三郎や、党職員の松本彧彦(あやひこ)が引き受け、出口戦略なきまま台湾に乗り込む。評者は松本氏本人から直接聞く機会があったが、空港から台北市内中心部に向かうために乗り込んだ車列が怒り狂うデモ隊に襲われた時の状況は、正に危機一髪で迫真の一言だ。
台湾独立勢力が政治工作する舞台を日本は提供してはいけない。
中国外務省はこう述べ、台湾と日本を牽制した。今月27日に予定されている、安倍晋三元総理の国葬へ台湾が代表派遣を検討していることについての明確な警告である。これからの50年も、これまでの50年同様に日本は中国に舐められ続けるのか。
今月29日は日中国交回復50周年である。近い将来に「日中友好侵略史」を「日中友好征服史」としないため、岸田総理と私たち日本人は自らにその覚悟が問わねばならない。
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