統一教会についての論点整理

池田 信夫

統一教会(世界統一平和家庭連合)をめぐる騒ぎには、おもしろい特徴がある:その全盛期を知らない人ほど、統一教会が「巨悪」だと思い込んで騒ぐことだ。統一教会は文鮮明の死後、分裂し、今は信者6万人程度の零細な新宗教にすぎない。

しかし1990年代の霊感商法や合同結婚式は大規模だった。今ワイドショーに出ているのは、その時期までの「元信者」がほとんどだ。1988年の合同結婚式が、あたかも現在の教団の問題であるかのように延々と語られ、時系列がこちゃごちゃになっているので、ここで整理しておこう。

1.統一教会は安倍元首相暗殺事件に責任はない

今回の騒ぎのきっかけは、安倍元首相の暗殺犯人が「統一教会への恨みが動機だった」と供述した(といわれている)ことだが、そんなことはテロの理由にならない。したがって統一教会は、犯人の妄想には責任を負わない。テロの動機を詮索することは、「騒ぎを起こして統一教会を攻撃させよう」という犯人の目的を実現する結果になる。

2019年に起こったニュージーランドのモスクのテロで、アーダーン首相は白人の犯人をテロリストと呼び、その動機に言及しなかった。イスラム教は、この事件に責任を負わないからだ。アーダーン首相は「何かできることはないか」というトランプ米大統領の問い合わせに対して「ムスリムのコミュニティに同情と愛情を注いでください」と答えた。

https://twitter.com/Pre_Online/status/1494514005230112786?s=20&t=SR15HGvBjzAQg_O3SaNHug

安倍暗殺事件で統一教会を攻撃するのは、モスク爆破事件でイスラム教を攻撃するような倒錯である。問題は教団でも信仰でもなく、銃撃した犯人だけにある。NZのようにテロリストの動機は黙殺することが、模倣犯を防ぐ上でも重要だ。

2.政治家との「接点」に違法性はない

自民党との「接点」をめぐる騒ぎも、お門違いだ。調査の結果、179人に接点があったというが、あったらどうするというのか。日本の法律では、宗教団体の応援を受けても刑事責任も民事責任も問われない。自民党の党規約にも違反しない。

接点があるというなら、公明党と創価学会の接点は明らかだが、それは憲法に定める信教の自由である。逆に国家権力が宗教に介入し、特定の宗教を政治から排除することは許されない。これを政治家が宗教といっさい関係をもたないことが「政教分離」だと誤解している人が多い。

3.統一教会は「反社」ではない

そういうと「創価学会は合法だが、統一教会は反社だから、それとつきあうことが違法だ」という人がいるが、これは誤りである。統一教会が政府や裁判所に「反社会的組織」と認定されたことはない。これは組織暴力団の別名であり、宗教団体に使われた前例はない。

統一教会は違法な団体ではない。2001年の「青春を返せ」訴訟では、詐欺的な布教の方法が違法だと裁判所が認定したが、これも北海道のローカルな話。統一教会の組織としての違法行為ではない。

唯一の刑事事件は2009年の「新世」事件で、当時の会長が辞任したが、ここで裁判所に認定された組織的犯行の責任は有限会社「新世」にあり、統一教会の責任は認定されていない。この当時も統一教会に解散命令を出すべきだという意見があったが、民主党政権は何もしなかった。

「世界統一平和家庭連合」に改称してからは、宗教法人として不法行為が認定されたのは民事の2件だけで、刑事事件はゼロ。2009年の刑事事件を根拠にして、今から裁判所が解散命令を出すことはありえない。

4.安倍氏は統一教会とは距離を置いていた

岸信介と文鮮明の深い関係はよく知られているが、岸が1987年に死去してからは、安倍家との関係はそれほど強くなかった。特に安倍晋三氏は、統一教会が慰安婦問題で反日的な主張を展開したことから、距離を置いていた。秘書はFacebookでこう証言している。

政権としても統一教会の規制を強化し、第2次安倍内閣では消費者契約法を改正し、霊感商法を「不当勧誘」として取り消せる規定を設けた。

唯一の問題は、2021年のUPF(統一教会関連の国連NGO)のシンポジウムにビデオメッセージを寄せたことだ。これについてはUPFジャパンの会長が「トランプが出るなら」という条件で引き受けてもらったと証言している。

このシンポジウムにはトランプも潘基文も文在寅もメッセージを寄せたので、安倍氏の行動がそれほど非常識なものとはいえない。少なくとも、それを理由に暗殺することは絶対に許されない。

5.現行の宗教法人法には不備がある

統一教会に解散命令を出すことは、現行法では不可能である。裁判所が解散命令を出したのは、オウム真理教と明覚寺の2件だけで、役職員が刑事罰を受けたときである。これは必要条件であって、刑事罰を受けた教団がすべて解散命令を受けたわけではない。

ただ宗教法人法には不備がある。これは1945年にGHQが出した神道指令と宗教法人令のなごりで、すべての宗教を同格に扱って国家神道を廃止することが目的だった。

このためすべての宗教法人が非課税で、認証後1年たつと認証を取り消せない。解散させるには、所管官庁が裁判所に申し立てて判決を受けなければならない。これが宗教法人の過剰保護になり、オウムのような反社の隠れ蓑になった。

これを改正すべきだという議論はオウム事件の直後にもあったが、村山内閣は規制を見送り、公明党が政権に入ってから宗教法人法はタブーになってしまった。今回は何も事件が起こっていないが、戦後レジームに聖域を設けないで見直すことは、安倍氏の遺志にも沿うだろう。