私は輸入事業をしているため、代金の支払いで毎月為替が生じます。なので否が応でも為替相場の行方には着目せざるを得ません。また、私の場合、カナダドル/円の為替ですので米ドル/円ベースにカナダドルの特性がプラスとマイナスで作用するため、考えても結局どこかの推測ミスが生じれば全然違った動きになります。
先日カナダが0.75%の利上げをした際に市場が反応しませんでした。ちょうど為替確定をするタイミングでカナダドル高に振れるかと思いきやほぼ無風だったのは既に相場に織り込まれていたということでしょう。結局109.15㌦で決済したのですが、悪くなかったと思います。カナダと日本はアメリカの影で、国力や中道的な体質で似たところがあり、為替が1990年以降、長期のレンジ相場になりやすい傾向があります。
現在は98年、07年、14年に次ぐ円安カナダドル高のサイクルに入っています。私はまだ1カナダドルが80円台半ばだった頃に「これから90円どころか100円を超える」と予想し、その通りになったのはレンジの枠組みでわかりやすい為替の組み合わせだからです。100円を超えると110-115円が節目ですがこれは鉄壁で現在はそこに位置します。
ではこの鉄壁を超えることがあるのか、ですが、これは円の実力、ひいては日本の国力次第だと思います。もしも日本がかつてほどの経済力がないならば円安が突き抜け、新たな落としどころを探すことになります。これは例えばオーストラリアドルと円を組み合わせてもほぼ同じ傾向が見て取れます。
このストーリーは米ドルと円の関係でもいえるし、ユーロとの関係にもなります。ただ為替は米ドルを基軸に動くのでドル以外の為替は「従」の位置づけとなり、本当の意味での国力勝負になります。ユーロ円は今年既に10%程度下落していますが、これがドル円に比べて動きが小さいから大したことないと考えるのは間違いです。あるいはウォン円で見ると2020年初頭から少しずつウォン高円安に転じており、当時からは10%ほど円安だし、対ルーブルはウクライナ侵攻前と比しても7割ぐらい円安になっています。つまり円の独歩安なのですが、真綿で首を絞められている状態とも言えます。
鈴木財務大臣が為替介入の示唆をしました。私は口先介入だろうと思っているし、仮に実弾介入しても失敗するだろうと思っています。介入は相手通貨であるアメリカの了解が必要です。が、今、自国通貨安で苦しんでるのはほぼすべての国であって円だけを介入する理由がありません。また輸入物価を下げたいアメリカ政府として介入してドル安にする意味もありません。仮に力づくで単独でやった場合、外貨をどれだけ使うか、体力勝負でありますが、手持ち外貨の1割を使っても市場が大きすぎることと必ず、円売りを仕掛ける筋が出ることからどれだけ頑張っても3日天下どころか1日しか持たない可能性もあります。確か、前回の実弾介入はそんな感じでした。それと財務省に為替介入の経験者も実戦部隊ももう誰もいません。まさか榊原さんに指南を仰ぐわけにもいかないでしょう。
それとこれだけ円安でも物価が2%ちょっとしか上がらない日本に於いて無理して為替介入する理由もないと思います。150円だろうが180円だろうが耐えるのだと思いますが、確実に言えるのは海外との物価ギャップが大きくなると輸入品、特に食糧の買い負けが起きること、エネルギー源の確保に苦心すること、外国人による不動産の買いあさりが起きやすくなり、物価の問題ではなく、政治社会的問題が生じることは肝に銘じなくていけません。
次に株式市場ですが、昨日はCPIショックと報じられました。消費者物価指数は8.5%から8.3%に下がったのに事前予想が8.1%でそれに届かなかったから失望売りというものです。確かに私も7%台に落ちると思っていたので驚きましたが、前月から改善している点をあまりにも評価していない気がします。ただ、先週申し上げたようにこれでFRBの腹は決まったわけで0.75%の利上げとなり、その次の11月は0.50%の引き上げもありうるというところですがこれは状況次第でしょう。いずれにせよキャッチアップ期間は過ぎたとみています。
面白いのはイーロンマスクやキャシーウッドが利下げを求めるツィッターを出している点でその理由はデフレになると。キャシーは様々なコモディティ価格が大幅に下落する中、先行き景気の不透明感も指摘される中、更なる利上げは経済を壊すという懸念を持っているのでしょう。もちろん、彼女のポジショントークでもありますが、インフレ退治に利上げしか方法がないというのもおかしなものだな、と思っています。経済学はまだまだ成熟度が足りない学問です。
株式市場の当面の問題はオプションの売りの権利が膨らんでおり、将来の株価下落に備えた動きがより強まっている点です。機関投資家は台風に備えているように見えるし、私が市場を見てていても欲しいと思う銘柄は今はほとんどありません。
室内自転車のペロトンは年初来高値の109㌦に対して現在たった9ドル台、話題のベッド バス ビヨンドは8月半ばには28㌦台だったものがひと月後は8ドル強といった具合でアメリカの株価のふらつき具合は尋常ではなく、アナリストの妥当株価計算ほどあてにならないものもないとも言えます。つまり、上記のCPIの予想にしろ、株価アナリストの予想にしろ、人が判断する以上、一定の感情が入るため、信頼に足るとはいえません。それに投資家や一般社会は振り回されているともいえるのでしょう。
結局、日々大きく揺さぶりをかける為替や株式市場と戦うにはある程度の「達観」が必要だと思うのです。専門家がこう言った、みんなが買っているといったことではなく自分でどう思うのか、これを考え、実践することが重要だと思います。間違ったらなぜ、間違えたのか、あまり自分の考えに執着せず、修正、方向転換する柔軟性もある程度必要かと思います。
最後に一点だけ。今は世界経済も政治も世界の枠組みも大きな揺らぎがあり、過去の事例が通じないようなところにあることだけは認識した方がよさそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月15日の記事より転載させていただきました。