ウクライナでの戦争は興味ありません。こう書くと、お前は軍事評論家のくせにとかいわれそうですが、事実です。リアルタイムでの報道に一喜一憂する趣味はありません。それにぼくは軍事ジャーナリストであって、軍事評論家を名乗ったことはありません。
率直に申し上げれば、ウクライナ、ロシア、それに第三国の報道、特に速報が信用できるかどうか分からないからです。執筆者や媒体の主観や思惑も入るし、当局のプロパガンダもあるからです。
ベトナム戦争、湾岸戦争、コソボ空爆、イラク戦争、記者や媒体が以下にトンチキで、プロパガンダに操られた記事を垂れ流していたことか。
そしてそれは政府の都合のいいように利用されてきた。日本の記者が信じていた「ベトナム開放」はインチキだったし、サダム・フセインは大量破壊兵器をもっていなかった。クェートに侵攻したイラク兵が病院で赤ん坊を銃剣で刺殺していた事実もなかった。コソボでも実は国際社会が支持していたKLAがごろつきだったし。
国によってはフェイクで参戦をしたり、我が国含めて多額の戦費、復興費用を負担しました。
「アラブの春」にしても西側メディアは反政府を煽りました。独裁者が倒れれば、民主的な政府ができて目で出しめでたしになると。ところが内戦や原理主義が跋扈することになった。シリア内戦の介入についても同じです。
そういう事実を忘れて、速報に一喜一憂して、物事を決めつけるのは極めて危険であるということです。
そして、多くの書き手はロシアやウクライナに行ったこともなく、継続してこれらの国をウオッチして来たわけでもない。ぼくがどう逆立ちしても小泉悠さんに敵うわけがないわけです。それで訳知り顔で記事を書いたら喜劇でしょう。
不思議なことに上記のような戦争や紛争介入に関して煽ったり、フェイクを垂れ流したニューヨークタイムズやワシントン・ポストはじめとする欧米の主要媒体がその責任を果たしたことがありません。また戦争犯罪人として記者やデスク、経営者が被告席に座ることもない。セルビア人の指導者などが被告席に座らさられて、けれが責任を問われずに、あいも変わらず偏狭報道や、意図的な世論操作を書いている。
だから人々はメディアを信用しなくなって来ていると思います。
この本はそういう視点でのリテラシーのためにおすすめです。
ただ本書では日本の記者クラブ制度による弊害については全く述べていないので、その点は残念に思えました。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。