バイデンの対中政策の本気度を試す「台湾政策法」

米上院外交委員会は14日、「台湾政策法」(以下、法案)を17対5で可決した。提案者が「1979年の台湾関係法以来、最も包括的な対台湾政策の再構築になる」と述べる超党派法案は、今後、上下両院で審議されるが、バイデン大統領は、激論の末一部表現の緩和までした法案への懸念から沈黙している

反対5名は民主党4名と共和党1名。この中に香港問題で連邦退職金投資理事会による中国企業株への投資中止を提案したヴァン・ホーレン(民主党)や、新型コロナの武漢流出論者ランド・ポール(共和党)といった対中強硬派が含まれる所以は、法案の中身が余りに刺激的だからだ。

台湾総統府は15日、「同法案は米国上下両院の討論と審査などのプロセスを経る必要がある」ので「政府関連機関はその発展を注視する」とし、「台湾の立場は、圧力に屈服せず、支持を得ても暴走しない」と極めて冷静な声明を出した。そのことが却って、この法案の踏み込んだ内容を物語る。

一方の中国は6月に法案が提出された際、もしワシントンが中国の利益を損なうような行動を取れば、「断固とした対抗措置を取らざるを得ない」と強く反発していた(9月15日「Reuters」)。

バイデン大統領 Barks_japan/iStock

法案の中身

法案には、①台湾への安全保障支援として4年間で45億ドルを確保すること ②台湾の非NATO同盟国(non-NATO ally)に指定し、防衛、貿易、安全保障協力の面で便宜を与えること ③国際機関や多国間貿易体制への台湾参加を支援すること、などが含まれている(「The Hill」)。

まずは多岐にわたる目次から見てみる(本稿は全て拙訳)。

1項 短いタイトル、目次
2項 結論
3項 定義

タイトルI-米国の対台湾政策
101項 政策の宣言
102項 台湾政府への対応
103項 台湾の主権の象徴
104項 駐米台湾代表処への名称変更
105項 AIT所長の上院承認の除外

タイトルⅡ-米国と台湾の間の強化された防衛パートナーシップの実施
201項 台湾関係法の改正
202項 台湾防衛に関する米国の戦略の予測的立案と年次見直し
203項 共同評価
204項 台湾安全保障支援構想
205項 対抗介入能力の定義に関する要件
206項 包括的な訓練プログラム
207項 軍事計画メカニズム
208項 台湾の民生防衛と回復力のニーズの評価
209項 台湾のための余剰防衛物資の移転の優先順位付け
210項 対外軍事販売プログラムによる台湾への売却の迅速化
211項 中華人民共和国(以下、CCP)の台湾に対する武力に対応するための政府全体の抑止力対策
212項 台湾に対する年間戦争準備金備蓄の追加と支援の増加
213項 台湾を非NATOの主要同盟国に指定

タイトルⅢ- CCPの侵略と影響力の行使への対処
301項 台湾を標的とした影響力作戦と情報作戦に対応するための戦略
302項 CCPによる、台湾を支援する国や団体を標的とした経済的強制に対抗するための戦略

タイトルⅣ-国際組織への台湾の参加
401項 台湾の国際機関への参加
402項 米州開発銀行への台湾の参加
403項 台湾の米州開発銀行への参加計画
404項 米州開発銀行における台湾の加盟国としての地位に関する報告書
405項 国連総会決議2758の明確化

タイトルV-米国と台湾の間の開発及び経済協力の強化
501項 調査結果
502項 台湾との自由貿易協定、IPEFの枠組みとCBPの事前手続きに関する議会の見解

タイトルⅥ-台湾との米国の教育・交流プログラムの支援
601項 略称
602項 調査結果
603項 目的
604項 定義
605項 台湾フェローシッププログラム
606項 報告および監査
607項 政府機関の職員として勤務する台湾人研究者
608項 資金調達
609項 米国による台湾との教育・交流プログラムの支援

タイトルⅦ-雑則
701項 二国間及び多国間のハイレベルなフォーラムや演習への台湾の関係者の招聘
702項 台湾旅行法に関する報告
703項 台湾に関する米国の政策弱体化の禁止

タイトルVIII-両岸の安定のための制裁措置
801項 定義
802項 CCPの台湾に影響を与える活動に関する決定
803項 CCP政府の台湾での業務に関連する職員に対する制裁措置の適用
804項 CCPの金融機関に対する制裁措置の発動
805項 制裁対象のCCP金融機関に対する特殊な金融通信の提供に関する制裁措置の発動
806項 CCPの天然採掘産業に対する制裁措置の発動
807項 追加制裁
808項 制裁措置の説明
809項 実施、規制、罰則
810項 例外、免除
811項 終了

タイトルⅨ-施工規則
901項 解釈規則

タイトルⅡ-201項の台湾関係法の改正内容(⇒で説明)。

台湾関係法第3301条 議会の結論と政策宣言
(b) 政策  (1)~(4)省略
(5) 台湾に防衛的性格の武器および人民解放軍の侵略行為を抑止するのに役立つ武器を提供すること。⇒太字部を追加
(6) 台湾の人々の安全や社会的・経済的体制を危うくするような武力または他の形態の強制に訴えることに抵抗する(米国の能力を維持する)こと。⇒()部を削除

第3302条 台湾に関する米国の政策の実施
(a) 防衛用品および防衛サービス

本タイトル第3301条に定める政策を推進するため、米国は、台湾が(十分な自衛能力を維持)人民解放軍による強制または侵略行為を拒否し抑止するための戦略を実施できるようにするために必要な量の防衛用品および防衛サービスを台湾に提供する。⇒()部を削除し、太字部を追加

第3303条 法律および国際協定の台湾への適用⇒(e)項を追加
(a)~(d)省略
(e) 解釈規則-本法のいかなる条項も、CCPへの外交的承認における大統領の行動も、台湾の人々と米国の間に外交関係がないことも、米国が台湾を正式に承認していないことも、そして関連するいかなる状況も、台湾に関する米国の利益を促進または保護するために必要な大統領または米国政府機関のその他の合法的行動(米国と台湾の間の安全保障協力を強化し、人民解放軍による台湾への武力行使を抑止するための行動など)の法的または実務的障害になると解釈されない。

タイトルⅡ-213項の台湾の非NATO同盟国指定に関する記述は以下。

213項 台湾を主要な非NATO同盟国(NON-NATO ALLY)として指定する。
1961年対外援助法(22 U.S.C. 2321k)の第517条を改正し、末尾に以下を追加する。
(c)追加指定
(1) 一般に、台湾は、この法律、武器輸出管理法(22 U.S.C. 2751 et seq)、合衆国法典第10編2350aの目的上、主要なnon-NATO allyとして指定されている。
(2) 省略

関連して、212項「戦争準備金の年間備蓄量の増加および台湾への支援」に以下の項目がある。

(a) 省略
(b) 設立 – 1961年対外援助法(22 U.S.C. 2321h)514条に従い、大統領は台湾のために主に軍需品からなる戦争準備備蓄を設けることができる。
(c) 台湾を防衛物資の受領資格を有する他の同盟国に含める。-1961年対外援助法(22 U.S.C. 2311 et seq)のII部2章を以下により修正する。
(1) 514条(c)(2) (22 U.S.C. 2321h(c)(2)) で、「タイ」の後に「台湾」を挿入する。
(2) 516条(c)(2) (22 U.S.C. 2321j(c)(2)) で、「南方及び南東方面の主要な非NATO同盟国」の後に「台湾」を挿入する。

1961年対外援助法(22 U.S.C. 2321j)「余剰防衛物品の譲渡権限」の(c)「譲渡条件」の文言は以下の通りなので、台湾はフィリピンやタイなどと同じ様に米国の主要な非NATO同盟国として位置づけられ、米国の余剰防衛物資を無償で提供を受けることができることになる。

(c) 譲渡条件
(1) 相手国負担なし
余剰の防衛物資は、本条に基づき、受領国に無償で譲渡することができる。

(2) 優先度
法律の他の条項にかかわらず、NATO の南側および南東側の側面にある北大西洋条約機構 (NATO) の加盟国、およびそのような南側および南東側の側面にある主要な非 NATO 同盟国および台湾(*新たに挿入)への、この項に基づく余剰の防衛物品の引き渡し。フィリピンは、そのような余剰の防衛物資をその他の国に引き渡すよりも、実行可能な最大限の優先権を与えられる。

結語

先に訪台したペロシ下院議長(民主党)が台湾を「key ally」(重要な同盟国と称したことが、この法案で裏付けられた格好だ。が、共和党唯一の反対者ランド・ポールの「この法案は戦略を明確にするための動きであり、『一つの中国』政策を覆す可能性がある」といった批判論もある(9月14日「Politico)。

他方、故安倍元総理は3月31日、米シンクタンク「ウィルソンセンター」のオンラインのインタビューで日米の台湾防衛政策について問われ、以下の様に答えていた。

・・まずはそのような事態をいかに防ぐかということを議論することが必要です。そのためには、日米両国が強い態度で対処するという姿勢を示せば、当然、中国も躊躇し、動きを控えるでしょう。日米両国がただ傍観しているだけで何もしないという姿勢では、中国が統一を実現するために軍事力の行使に踏み切る可能性が出てきます。だからこそ、自分たちの立場を明確に示す必要があるということで、国民的なコンセンサスを得なければならない。

前掲「Politico」も、民主党内にも米国が長年の「戦略的曖昧」政策を放棄し、「侵略から台北を軍事的に守る」と宣言すべきだとする積極派がいると書く。法案を提案したメネンデス(民主党)とグラハム(共和党)が6月12日の法案提出前に、このインタビューを聞いていたかどうかは知らぬ。

が、いずれにせよこの刺激的な中身の通り、米議会が超党派で中国による台湾侵略阻止に取り組んでいることは日本にとっても頼もしい。外交の師・岡崎久彦に倣い「台湾有事は日本有事」が持論だった故安倍元総理も、バイデンが躊躇なく法案に署名することを草葉の陰で念じているのではなかろうか。