エリザベス女王の「葬儀」とその後:チャールズ3世の持ち時間は7年

エリザベス女王の国葬は19日午前11時(現地時間)、ロンドンのウェストミンスター寺院で挙行された。国葬には新国王のチャールズ3世ら王室関係者ら約2000人の参列者のほか、海外からは天皇・皇后両陛下、バイデン米大統領夫妻、マクロン仏大統領夫妻、カナダのトルドー首相夫妻ら多数の要人が参列した。女王は8日、滞在中のスコットランド・バルモラル城で死去した。96歳だった。

ウェストミンスター寺院に運び入れられたエリザベス女王の棺(BBCのスクリーンショットから、2022年9月19日)

エリザベス女王の国葬に参列する新国王チャールズ3世夫妻(BBCのスクリーンショットから)

国葬は1時間15分余り厳かに行われ、その後、女王の棺はロンドン中心を通過し、国民に見送られる中、ウィンザー城に運ばれ、聖ジョージ礼拝堂で最後の追悼の儀が行われた後、昨年4月に死去した夫フィリップ殿下と同様、礼拝堂に納められた。

国葬の前日まで、多くの人々が女王に感謝と弔意を表明するためにテムズ川沿いから女王の棺が安置されたウェストミンスターホールまで7キロ余りの長い列を作った。英メディアではエリザベス・ラインと呼ばれ、100万人以上の国民が集まった。列の中にはオーストラリアやカナダなど海外からきた人々の姿もあった。10数時間も外で待機している人々の規律ある姿は海外でも大きく報道され、話題となった。国葬の日もエリザベス女王の棺を乗せた車を一目見ようと多くの市民が沿道に繰り出した。

父ジョージ6世の急死(1952年2月)を受け、当時王女だったエリザベス2世は女王に即位、その後70年間、公務を行ってきた。女王は21歳の誕生日、「自分はどれぐらい生きるか分からないが、国のために最後まで忠誠を尽くしたい」と述べたといわれる。女王はそれを実行したわけだ。

エリザベス女王は6日、トラス新首相を任命したが、それが最後の公務となった。女王は既に体調が良くなかった。側近が、「新首相の任命はチャールズ皇太子に代行をお願いすれば」と助言した時、エリザベス女王は、「首相の任命は国家元首しかできない」と主張し、公務を優先したという。首相任命式を撮影した写真を見ると、女王の右手が紫色だったことから、女王の健康を懸念する声が聞かれた。その2日後、女王は亡くなった。トラス新首相はエリザベス女王の任期70年間で15人目の首相となった(女王70年間の任期中、7人のローマ教皇、14人の米大統領が入れ替わっている)。

ちなみに、トラス新首相は8日午後、女王の訃報を聞くと、首相官邸(ダウニング街10番地)前で、「エリザベス女王が只今亡くなった。女王の70年間で英国は発展し、繁栄してきた。エリザベス女王はその礎だった」と、女王の功績を称えている。

エリザベス女王の死去、チャールズ皇太子は新国王(チャールズ3世)に即位するとスコットランドやウェールズなど英国全土を訪問し、エリザベス女王の足跡を継承しながらポスト・エリザベス時代をスタートした。

英国の国王は、英国、カナダやオーストラリアを含む英連邦(コモンウェルス)に加盟する15カ国の国家元首を務める。スコットランドの独立問題のほか、オーストラリアでは共和制運動、カナダでも一部で立憲君主制から共和国への移行を主張する動きが出てきている。新国王を取り巻く環境は容易ではない。

チャールズ3世は既に73歳だ。“永遠の皇太子”と揶揄された新国王には新鮮さやダイナミックな印象はない。国民的人気のあったダイアナ妃との離婚は大きなダメージとなったことは間違ない。エリザベス女王は国民から「国の母」として信頼されてきたが、新国王が国民から同様の信頼感を得るのは容易ではない。

英メディアによると、エリザベス女王はその遺書の中で、チャールズ3世は80歳まで国王を勤めた後、ウィリアム皇太子にその座を移譲するように助言したという。それが事実とすれば、チャールズ3世の持ち時間は7年間と限定される。

いずれにしても、欧州の王室ではスキャンダルや腐敗など不祥事が頻繁に報じられ、王室を見る目はどの立憲君主国でも厳しい。エリザベス女王は「開かれた王室」を掲げて国民から受け入れられたが、新国王のチャールズ3世が王室としての伝統、歴史を継承しながら新しい君主制の在り方を切り開くか、注視される。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年9月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。