5年ぶりに、単著『ウクライナの教訓 反戦平和主義が日本を滅ぼす』(扶桑社発売、育鵬社発行)を上梓した。拙著は主に、この「アゴラ」への寄稿を、上記テーマに沿ってアップデートしたうえ、再構成したものがベースとなっている。拙著への再活用をご快諾くださったアゴラ関係者の皆様に、この場を借りて御礼申し上げたい。
私にとって本書は21冊目の単著となる。扶桑社発売の単著は、これが初めてだが、ちょうど10年前に、山田吉彦教授(東海大学海洋学部)との対談共著『尖閣激突 日本の領土は絶対に守る』を上梓させていただいた。
この10年間、わが国の安全保障環境は悪化の一途を辿ってきた。「日本の領土は絶対に守る」との決意表明は、むしろ今こそ、ふさわしいのかもしれない。
拙著新刊サブタイトルの「反戦平和主義」には「パシフィズム」のルビが振られている。多くの読者にとり、聞き慣れない言葉(英語)であろう。どういう意味なのか。あえて拙著「まえがき」から引こう。
最大の問題は、命と平和の大切さだけが語られる日本の現状だ。昭和、平成、令和と、戦後日本を、そうしたパシフィズム(反戦平和主義、反軍平和主義、護憲平和主義、絶対平和主義)が覆っている。
上記のとおり、なんとも日本語に訳しづらい。ちなみに、定評のある『リーダーズ英和辞典』(研究社)は「反戦論」「平和主義」といった訳語に加えて、「無抵抗主義」とも訳す。詳しくは、拙著新刊に委ねるが、ウクライナ情勢を巡る日本のテレビ番組等における「識者」らの〝妄言〞を思い出せば、この訳語のほうが的確だったかもしれない。
拙著「あとがき」は、数々の「血が流れない日本のドラマ」を指弾したうえで、最後を、こう締めた。
おそらく実際の場面でも、多くの自衛官や海上保安官が躊躇を覚えるのではないか。なんの迷いも、不安もなく撃てるとは思えない。
ロシアによるウクライナ侵略後のいま、強くそう思う。なぜなら、日本の主要メディアでは、いまも「降伏しないウクライナも悪い」といった妄言を流し続けているからである。
もし、日本が同様の侵略を受けたとき、民放の看板報道番組や、NHK「日曜討論」などで、弁護士コメンテーターや大学教授らが、「もちろん侵攻してきた○○が悪いが、降伏しない日本も悪い。自衛隊が武力で抵抗するから、国民の被害が拡大している」と語れば、どうなるか。そうした世論が形成されれば、どうなるか。想像しただけでも恐ろしい。
国民の支持と理解がなければ、自衛隊は戦えない。たとえ憲法典に「自衛隊」と明記されようが、防衛費が倍増しようが、自衛官は発砲を躊躇う。
パシフィズムの蔓延は、日本を滅ぼす。それがウクライナの最大の教訓ではないだろうか。
蛇足ながら、直近の実例を挙げよう。去る9月17日夜、フジテレビ系列で全国放送された超人気シリーズの完全新作SPドラマ『ガリレオ 禁断の魔術』である。
「代議士の大賀仁策(鈴木浩介)」をレールガンで殺害しようとする元教え子「古芝伸吾(村上虹郎)」を、主人公の「帝都大学准教授・湯川学(福山雅治)」が、こう諭す。
君のお父さんは20年前、アメリカで対人地雷の開発に携わった。その事実を知ったとき、純粋に科学者を志していた君にとっては、お父さんと科学、その両方から裏切られた思いだったんだろう。だが、お父さんの人生にはまだ続きがある。アメリカの企業を退職後、お父さんは、暁重工へと転職した。(中略)地雷を開発していた当時、開発者たちは地雷が未来の世界に及ぼす本当の危険を正しく認識していなかった。ところが、ある時、戦場に残された地雷によって両足を吹き飛ばされた子供の姿を目にした。その時、お父さんは自らの大きな過ちに気づき、自分のことを大いに恥じた。その懺悔の気持ちから(以下略)
その上で、「君のお父さん」の「ノート」に。こう書かれていたと明かす。
地雷は核兵器と並んで最低最悪の代物だ。科学は人を救うためのものである。いかなることがあっても、科学技術によって、人を傷つけたり、生命を脅かすことは許されない
……もはや、これ以上の蛇足は不要であろう。
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