一国の予算に匹敵する東京都の政策形成プロセスをハックする

自治体と国は対等の関係

政策を世の中にいきわたらせるには、国だけではなく、自治体との協力が不可欠であることはこれまで(※)も伝えてきたとおりです。
第31回:自治体と一緒に政策を進めるコツ―予算のプロセス―
第33回:自治体職員、議員、首長の政策への関わりを理解する。―自治体と協働して政策を実現するコツ―

国が上で、地方自治体はそれに従う組織と勘違いされている方も多いかもしれませんが、それは違います。

国と地方は上下関係ではなくて、対等な関係なのです。

戦前にさかのぼれば、都道府県知事は、国の官僚が任命されて派遣されていたこともありましたし、平成の中頃までは自治体の首長を国の一機関として国の指揮下に置く制度(機関委任事務制度)もありました。

この上下関係を対等な関係へのシフトさせたのが、平成5年~11年頃に行われた第一次地方分権改革です。機関委任事務制度が廃止されたり、国が持っていた権限を都道府県や市町村に移す権限移譲などが行われました。

現在でもこの国と地方の対等な関係は受け継がれています。制度設計の実務においてもそのことは常に意識されています。

官僚が法律を立案するときにも、「都道府県(市町村)は○○を行わなければならない」というような、都道府県に一方的に義務を課すような規定を課すことはとても難しく、「○○するよう努めなければいけない」という努力義務規定(簡単に言えば、強制はできないがやってほしい、というような意味合いです)を自治体に課すことでさえも、相当ハードルが高いです。

それでも自治体に何かをやってもらうルールをつくろうとすれば、その必要性をしっかりと説明し、地方自治を所管する総務省の了解を得ることが必要になりますし、地方自治体の代表である団体との協議も必要です。

国が「自治体で事業をやる場合には補助を出します」として新しく作った予算についても、その予算(補助金)を使って事業を行うかどうかは自治体の判断に任されているので、丁寧なコミュニケーションが求められます。

このように、自治体とのコミュニケーションは政策実現に大きく関わるのです。

K2_keyleter/iStock

北欧諸国に匹敵する予算規模を持つ東京都を理解する

国と並び立つ権限を持つように制度改正がされてきた自治体ですが、自治体といっても様々で、特に予算規模には大きな違いがあります。

自治体の収入の中心は地方税です。皆さんが何気なく支払っている税金の中には、国に納めている国税と、都道府県と市町村に収めている地方税の2種類があります。

住民税などは、給与明細で天引きされているものですね。住民税は天引きされた後、こちらは地方税として、地方自治体の収入となります。これら自治体の収入となる地方税ですが、一定の計算のもと、地方税だけでは自治体に必要なサービスを賄えないと判断される場合に、国税の財源から、国が自治体に配分する税金があります。地方交付税です。

参考:総務省HP。わかりやすく簡略化しているので正確に知りたい方はこちらをどうぞ

いわば、自治体の経営が自前の収入で確保できない場合に国から配られるお金が地方交付税です。地方交付税を受け取ることで国にある意味で依存する形となってしまいますが、この地方交付税を受けていない都道府県が一つだけあります。そうです、東京都です。

東京都は、普通交付税(地方交付税のうち全国一律の基準により配分されるもの)を、昭和29年に交付税の制度ができて以来ずっと受けていない、「金持ち」自治体です。

2022年の予算総額は15.4兆円ですが、これは北欧のノルウェー(20.4兆円)やスウェーデン(14.3兆円)に匹敵する規模です。

一自治体だけで、他国の予算に匹敵する規模の事業を運営しているわけですから、政策に関わる人たちにとっても東京都との関係は重要になることは想像がつくのではないでしょうか。

自治体では新しい事業を実施しようとするときに、他の自治体の先進事例を参考にして導入することがよくあります。東京都はその豊富な税収を背景として、新規事業の実現例も多く、2022年には568件もの新しい事業を開始しています。

東京都で始まった政策が他の地域に波及するということも十分にありうるのです。今回は東京都の政策形成プロセスを解き明かしていきます。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年9月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。