絵画で1位、小説で星新一賞:AI作品をどう考えるか

関谷 信之

AIが描いた絵画が、美術品評会で1位を受賞。

画像生成AI「Midjourney」の描いた絵が美術品評会で1位を取ってしまい人間のアーティストが激怒 – GIGAZINE

アメリカ・コロンビア州で、こんなニュースが話題となりました。作品を「提出」したのは、ジェイソン・アレン氏。ゲーム会社の経営者であり、アーティストではありません。芸術コンペに応募するのも初めて、とのこと。

氏は、画像生成AI「Midjourney」に900枚の絵画を描かせ、3枚を出品。うち一枚が受賞しました。作品制作に要した時間は、わずか80時間。当然ですが、他のアーティストから

「ロボットをオリンピックに出場させるようなもの」
「マラソンで、ランボルギーニを運転してフィニッシュラインに到達した」

など、怒りの声があがっています。

AIが活用されるのは、絵画分野だけではありません。文芸では、AIを用いて執筆した小説が「星新一賞」を受賞し、音楽では、自分の作風をAIに学ばせ作曲する「AIトラックジェネレーター」などのサービスが出現。AIが、様々な芸術分野を席巻しつつあるのです。

今回は、AIによる「作品」について考察します。

筆者がMidjourneyにて生成した画像サンプル(受賞作ではありません)

画像生成AIとはどのようなものなのか

ジェイソン・アレン氏が用いた画像生成AIとはどのようなものなのか。一言で言うと、

「テキスト(単語・文章)を入力すると、それに沿って画像を生成するソフトウェア」

となります。

たとえば、「“ドラえもん”のような“のび太”」と入力すると、「髪がありメガネをかけたドラえもん?」のような画像が生成されます。このような単純なテキストだと、稚拙なものになりがちです(生成された画像がグロテスクだったため掲載は控えます)。

作品の質を上げるには、入力するテキストを増やし、具体化するなどの工夫をする必要があります。たとえば、

「アントニ・ガウディのサグラダ・ファミリア、カサ・ミラ、パラオ・グエル、またはザハ・ハディドの国際文化芸術センターのような作風の未来的な建築物」

といったふうに。未来的なサグラダファミリア(のような)画像が生成されます。

Midjourneyにて生成した「未来的なサグラダファミリア(のような)画像」

やってみると非常に面白く、そのせいか、画像生成AI「Midjourney」のサイトは、ユーザーが生成した画像が数多く投稿され、「祭り」状態が続いています。

画像生成AIは、膨大な数の作品画像をネットから収集し、それを分析し、パターンとして覚え、ユーザーの指示に基づく作風で作品を生成します。収集、分析、パターン化。この手順は、他のAIも同様です。

文章執筆AIとはどのようなものなのか

文章執筆AIも、ネットからデータを収集し、「ある言葉が別の言葉の近くに現れる確率」を学習します。

2022年3月、株式会社ELYZAが、キーワードを入力し、記事を執筆させるサービス「ELYZA Pencil」を一般公開しました。デモサイトで、「プレゼント、価格、誕生日」と入力すると、数秒で以下のような記事が生成されます。

誕生日プレゼントの予算はいくら?

働く女性に、誕生日プレゼントの予算について聞いた。最も多かった回答は「5000~1万円未満」で、全体の約4割を占めた。以下、「3000~5000円未満」「10000~20000円未満」と続いた。
文章執筆AI「ELYZA Pencil」にて生成

タイトル、記事とも違和感はありません。同社は、ホワイトカラー業務の10%以上がAIを用いて代替できる可能性がある、といいます。ビジネス分野で実証実験が進む一方、文芸分野では、すでに賞を受賞する作品が出現しています。

星新一賞を受賞するAI

2022年2月の第9回 「星新一賞」(一般部門優秀賞)を、執筆に一部AIを使った作品が受賞しました。作者 葦沢かもめ氏が用いたのは、自身の過去作品「600編」を学習させた文章執筆AIです。

特筆すべきは、氏が受賞作以外にも小説「100編」を、わずか「3週間」でAIに執筆させ、投稿したことです。

星新一賞(プレスリリースより)

うまくて速い

受賞するほどの高いレベル。100編を3週間で生成する速度。

質、量とも、人間では太刀打ちできないかのように思えるAI。一方、気になることがあります。「個性」です。作家の個性は、AIで作った作品に反映されているのか。葦沢氏は以下のように述べます。

「自動的に生成させているとはいえ、私の文章が出発点になっているので、私の個性は受け継がれているのかなと思います」
3週間で101篇小説を書いて、AIを利用した小説で史上初めて星新一賞に入選した話|葦沢かもめ|note

自分の個性、すなわち作風やスタイル。これが反映され、しかも「速くて」「高い品質」の作品が生成できる。今後、作品作りにAIを活用する人は増えていくことでしょう。

では、AIを用いて、他者の「作風」の作品を作ることは許されるのでしょうか?

法律上「作風」の模倣は問題なし

文章執筆AI(に用いられる言語モデルGPT3)は8年間かけて、ネット上から様々な文章を収集しました。冒頭の画像生成AI「Midjourney」も、数十億の画像をネットから収集しています。AIは、既に多くの作風を「学習」しているのです。

まったくの素人が、文章執筆AIを用い、「村上春樹 風」の文章を執筆することは問題無いのでしょうか?

(自分の作風が「学習」され、しかも「模倣」されるなんて認められない)

そう考える作家も多いのでは。

そもそも、作家の「作風」とはどのように構築されたのか。言い換えると「作家たち」は何から学んだのか?「他者」です。多くの他者(先人)から学び、技術を獲得し、自分の作風を構築しているはず。感動した絵をトレースした、という画家も多いことでしょう。つまり、AIも人間も、他者から学ぶ、という点では違いはありません。

そういったことも背景にあるのでしょうか。法律上は、AIが「学習」に他者の作品を利用すること、そして、他者の「作風」や「スタイル」が似た作品を作ることは、著作権侵害に該当しない、としています。

「作風」の権利とは

ビジネスにおいて、AIの活用は魅力的です。たとえば、昨今、苦境が伝えられているアニメ制作会社で、背景や群衆(モブキャラ)などが、自動生成可能となれば、大幅に工数が削減できるはずです。

一方、作家としては複雑でしょう。参考にはしたい。素材としては使いたい。けれど、自身の作風で、他者に粗製乱造されるのは避けたい。

今後、作風の権利をどのように考えるかが、議論になるのではないでしょうか。