若者がお酒離れする理由が納得すぎた

黒坂岳央です。

国税庁「酒のしおり」によると、若者を中心に飲酒機会は減っているようだ。もちろん、若者全員が飲まなくなったという話ではなく、飲む人は飲むし、飲まない人は飲まないというだけの話である。近年では出生率が減っている事実もあり、今後もこのトレンドが続く限り必然的に若い世代の飲酒消費量は減っていくことになる。

若者世代が「お酒を飲まない理由」は度々オンラインで取り上げられるが、そのどれもが正論に感じられる。筆者は若者ではないが、昔からお酒を積極的に飲まないし概ね自身の飲まない理由は同じである。端的に言えば、お酒を飲む理由がない。特にコロナ禍で飲み会自粛により、その傾向は強まったと感じる。本稿ではお酒を飲まない理由を取り上げながら論考したい。

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1. 健康に悪い

端的に言って、お酒は体に悪い。昔は、少量のアルコールは健康に良いと誤解されていた時期もあったが、「酒は百薬の長」という言葉は科学的に完全に否定された。つまりお酒は毒でしかない。これも彼らがお酒を控える理由の1つである。

健康的なメリットが皆無である以上、お酒でなければ得られない理由が必要だ、つまり味がとてつもなくうまいとか、アルコールで酔う感覚が楽しいという要素だ。お菓子は健康的とはいえないが、健康的な食事だけでは得られないおいしさという快楽があるため、多くの人は健康を害してもお菓子を楽しんでいる。問題はお酒にお菓子のような健康以外の付加価値があるか? という点である。もしもこれが否定されると、お酒を飲む理由がなくなってしまう。

筆者は一時期、高級ワインを愛飲していた時期があった。高めのワインを自宅に保管し、何かお祝いごとがあると理由を付けて飲んでいた。だが、買っていた在庫が尽きた段階でもうやめた。今はお酒はほぼ飲まない。理由は値段に見合う価値を感じられないからである。

筆者の場合、ワインがダメなのではなく、自身の舌のレベルが低いためその価値を拾い上げられないのだが、お酒の良し悪しは分かるまで経験を要する。たとえば、ビールは苦いが、経験を重ねるとこの苦さをおいしいと感じるようになる。

だが、「苦さになれるまでコストをかけて苦しさに耐えることに何のメリットがあるのか?」と考えて敬遠する人がいても不思議ではない。このような価値観から、「お酒の味や楽しさは値段に見合わない」と感じている人もいるのではないだろうか。

2. 翌日に響く

お酒を飲むと、翌朝に響く。かなり少量に抑えれば大丈夫なのだが、飲み会などの席では周りに合わせてそれなりに飲まないといけない空気がある。その結果、翌日のコンディションに大きく影響してしまうという理由で、お酒を控える意見も若者に見られた。

酒を飲んだ日は、頭が使い物にならなくなるのは仕方がないと思う。お酒を飲んだ後に仕事や勉強、運動に励む人は多くはなく、大抵の場合は生産的な活動は諦めざるをえないためダラダラ過ごすことになる。問題はそのコンディションの悪化が、翌日以降まで続いてしまうことにあるだろう。

まず、深酒をすると起床時間は遅くなりがちだ。下手をするとお昼頃になる人もいる。飲み会のセッティングは、金曜日の夕方が多いため、土曜日の午前中は潰れる可能性が出てくる。アルコールの分解が完了するまで、頭痛や吐き気に襲われることすらある。これはあまりにもネガティブである。

一時の気分の高まりの代償が、待ちに待った休日の半日が潰れるというダメージではあまりにも甚大すぎるために到底メリットに見合わないだろう。

3. 酔っ払いの相手が面倒くさい

最後に取り上げられがちな意見としては、酔っ払いの相手をするのが面倒くさいというものである。特に会社の人間関係で上司やクライアントなど、立場上、絶対に逆らえない相手が酔っ払うと手に負えなくなる。

筆者も若い頃に何度もお酒で嫌な経験をした。酔っ払った上司から、しつこく仕事の愚痴や説教を受けたり、酔っ払った同僚同士でケンカが始まるのを仲裁したりするのがとても骨が折れた。

本来、飲み会はオフィスでは聞けない胸襟を開けた話を聞くことに最大のメリットがあるはずなのに、ムダな労をかけてまで上司から叱られたり、同僚のケンカの仲裁をしたり、面倒くさく絡まれるのを上手にあしらったりすることに時間を使うことに何ら生産的なメリットがない。立場が弱いと更にその傾向は強まる。

1から3の理由を取り上げたが、結局のところ「お酒を飲むデメリット>メリット」という構図がひっくり返らない限り、積極的に愛飲する人は増えないのではないだろうか。

世の中にはあまりにも多く、そして魅力的な代替商品が存在する。飲食や嗜好品の選択肢は多く、食以外の娯楽も多い。お酒でなければ得られないメリットを見つけることは難しい。唯一、あるとすればそれは愛飲者同士で酒を片手に語らい合うことだろう。

だが、その母数が減っている今、価値観の多様性が広がる中でお酒が両者をつなぐきっかけを失いつつあるように思う。酒飲みには寂しいと感じる時代かも知れないが、可処分時間を様々な商品サービスが奪い合う昨今、時間もコストも高くなりがちなお酒は相対的に選ばれづらい立ち位置にいるように思える。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。