「キガリ改正」とダイキンが進出する中国の途上国解除

中国は広い国土に多くの民族が混在している上、未だ貧しいから独裁体制でないと治められないとの、北京の主張を代弁するかのような論がある。筆者に言わせれば、それなら小さく分かれれば良いのであって、武力で侵略したチベット、内モンゴル、新疆ウイグルなどの自治区や、香港・マカオなどを分離独立すれば済むし、さらに台湾を統一しようなどとはとんでもない話だ。

改めてこんなこと書くのは、米上院が9月21日、「キガリ改正」を69vs27で可決して138番目の批准国になり、同じ日に共和党上院議員二人が「中国は発展途上国ではなく、国連やその他の政府間組織でそのように扱われるべきでない」と宣言するよう提案したからだ。この提案も上院を96vs0の全会一致で通過した。それは中国の途上国指定の解除を提案するよう国務長官に求めており、11月の次回モントリオール議定書会議の前に国連に提出される予定だ。

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キガリ改正とは、16年10月にルワンダの首都キガリで開催されたモントリオール議定書締約国会議で、代替フロンHFC(ハイドロフルオロカーボン)の生産・消費量の段階的な削減などが197の全締約国によって合意された改正のこと。

オゾン層を破壊するCFC(クロロフルオロカーボン)やHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)の代替として冷媒に使われているHFCは、オゾン層は破壊しないが、温暖化への影響度がCO2の最大1万倍以上と高いため、削減が求められている。

そのモントリオール議定書第5条には、合意時の経済状況などを基に区分けした発展途上国と非途上国とで異なる3通りの基準がある。即ち、先進国は11年〜13年のHFC消費量を基準に、24年までに40%、36年までに85%を漸減、中国やブラジルを含むグループは20年〜22年を基準に、35年までに30%、45年までに80%を漸減、インドや中東諸国などのグループは37年までに20%、47年までに85%漸減するといった具合。

バイデンは21日、キガリ改正の「批准により、我々は米国で技術を革新し製造することで、将来のクリーン・テクノロジー市場をリードできる。批准は、製造業の雇用拡大に拍車をかけ、米国の競争力を強化し、気候危機と戦うための世界的な努力を前進させる」とし「3.3万人の国内製造業の雇用、年48億ドルの輸出増、年125億ドルの経済生産増を見込めるようになる」と声明した

中国は昨年6月に122番目のキガリ改正批准国となったが、2ヵ月前の4月17日、米国の気候皇帝ジョン・ケリー大統領特使が上海で中国の謝振華特使と会談し、両国は気候危機に取り組むため相互にまた他の国々と「協力することを約束」したと共同声明した。その前日、マクロン・メルケルと会談した習近平は「気候変動への対応は人類共通の大義であり、地政学の交渉材料や他国を攻撃する対象、貿易障壁の口実にしてはならない」と述べた。

バイデンも就任直後の21年1月27日、HFCを段階的に削減するキガリ改正批准の同意を上院に求める大統領令を出した。保守派グループの米国税制改革協会と米国資本形成協議会及びフリーダムワークスは、更に遡る18年6月の時点で、トランプ政権に対し「米国が協定を批准しないことは雇用と富を犠牲にし、海外市場に販売する米国メーカーの能力を制限する」と主張する書簡を出していた。

この書簡は、キガリ改正の批准によって、空調・暖房・冷蔵業界における米国の市場シェアが25%拡大し、125億ドルの経済生産高を生み出し、11万3000人もの直接・間接雇用の創出につながると指摘しているので、バイデンが声明した125億ドルはこの数字と同じだが、3.3万人の雇用創出は控えめだ。製造業の直接雇用分だけかも知れぬ。

代替フロンのHFCを代替する冷媒は、水や空気(水冷や空冷)、アンモニア、そしてCO2(二酸化炭素)などで、「自然冷媒」と呼ばれる。が、前記の米国の主張にいう生産増や雇用増の根拠となるような「自然冷媒」に関する他国に先んじる技術やノウハウが、米国で既に確立されているのかどうかは、読む限りの報道には見あたらない。

が、もはや発展途上国でないことが明らかな中国を、途上国グループに留めた目下の議定書第5条では、先述の共和党上院議員二人のいう様に「既存のHFC市場で中国に不当な優位性を与えることになり、さらに中国が2040年代まで生産を続け、HFC市場を凌駕することを可能にする」だろう。途上国解除は当然で、広くて貧乏だというなら、分離独立して分ければ良い。

その中国の広東省恵州市に空調機大手のダイキン工業が、24年10月をめどに300億円を投じて住宅用空調機の工場を建設すると報じられた(9月9日の日刊工業)。本年10月には同市の工業団地に大金空調(恵州)を資本金315億円で設立する。投資を全て資本金で賄うのは、現地子会社の資本を厚くして借入金返済負担を軽減する、立ち上げ期のPLに配慮したもの、即ち、早期の黒字化を目指す施策と思われる。

記事に拠れば、中国でのダイキンの空調事業売上高は、22年3月期が4247億円で前期比129.6%、23年3月期は4500億円と同106%を見込む。推定シェアは業務用空調機で約50%とトップだ。住宅用では壁掛けの量販用タイプでなく、利益率の高い中・高級のマルチエアコンに注力するという。

だが前述の通り中国も昨年6月にキガリ改正を批准した。それへのダイキンの対策を日刊工業が8月5日に報じている。記事は、キガリ改正によるHFC不足が「経営問題であるにもかかわらず、多くの経営者が問題を認識していない」との日本冷媒・環境保全機構専務理事の警鐘を書いている。

対策としてダイキンが「使用済み冷媒を回収して再生し、再び機器に入れる循環システムの構築を目指す」と報じている。記事は「再生冷媒は繰り返し使ってもキガリ改正の生産・消費量にカウントされない。冷媒の循環が定着して再生冷媒の供給量が増えると、24年以降のHFC不足を回避できる」と続き、「ダイキンは6月、北九州市や住友不動産、竹中工務店、冷媒再生業者などと連携し、循環を支えるデジタルシステムの開発にも着手した」とする。

また「キガリ改正が要求する生産・消費量に十分に対応できる冷媒は開発されておらず、将来、再生冷媒の価値が高まる」が、「空調や冷凍・冷蔵庫の点検によって、・・HFCを大気中に漏らさず、再生して使えば気候変動対策や資源循環にも貢献する」として、前出専務理事の「空調や冷凍・冷蔵庫の適切な管理は、企業の社会的な責任だ」と言で記事を結んでいる。

だがダイキンが関係企業と連携して進める、再生冷媒の循環を支えるデジタルシステム開発は、業務用の空調には使えるかも知れぬが、中国で注力する住宅用マルチエアコンにも有効なのだろうか。同社HPも「ニーズの多様性に応える冷媒を提供しつつ、冷媒の再生および再利用を実行し、冷媒のサーキュラーエコノミーの実現をめざします」とするが。

報道を読む限りの素人考えでは、将来使えなくなるHFCの再利用を繰り返すより、「自然冷媒」のパフォーマンスを挙げる研究が本筋のようにも思うし、その前に「今、中国か」とも思う。さらに途上国解除が現実となれば、HFC削減の大幅なスピードアップが求められる。承知の上だろうが、成り行きに注目だ。