昨年来、超過死亡が話題になっている。9月16日に厚生労働省から、2021年の人口動態統計の確定数が公表された。昨年は、前年を67,101人上回る死亡数であった。東日本大震災のあった2011年でさえ、前年を上回った死亡数が56,054人であることからしても、この数値は衝撃的である。
第3波から第5波とコロナの流行が途絶えることがなかった2021年の状況からは、この死亡数の増加の原因はコロナによる感染死が考えやすい。実際、超過死亡を集計している国立感染症研究所(感染研)からは、超過死亡の原因はコロナによる感染死の増加と医療の逼迫が考えられると発表されている。
しかし、コロナによる死者の増加が超過死亡の原因とすると、コロナの流行がすでに始まっていた2020年に、世界各国では超過死亡が観察されたのに、日本では前年と比較してかえって死亡数が減少したことを説明しにくい。しかも、人口動態統計によると、2021年のコロナによる死亡者数は16,766人で、超過死亡数の67,101人とは大きな乖離がある。PCR検査が普及した2021年では、5万人を超える未診断の死者がいたとは考えられない。
今年になっても、超過死亡の増加は続いている。図1は、1月から6月末までのコロナ感染による死亡と超過死亡の累積数を示す。コロナによる死亡が12,195人に対して、超過死亡数は41,919人で2021年と同様、超過死亡はコロナによる感染死を大きく上回る。
昨年観察された超過死亡では、最初に超過死亡が観察された2021年4月18日以降の8週間の累積超過死亡は15,380人であった。一方、今年になって最初に超過死亡が観察されたのは2022年2月6日の週であったが、その後8週間の累積超過死亡は、29,941人で、昨年の2倍に達する。
医療の逼迫でがんや交通事故の患者が十分な治療を受けられずに、死亡数が増加した可能性も指摘されている。しかし、人口動態統計によれば、悪性新生物、不慮の事故による死亡数の増加は、前年と比較して、それぞれ3120人、222人にすぎない。
感染研のダッシュボードを使えば、全死亡だけでなく死因別の超過死亡も調べることができる。それによると、全死亡による超過死亡がみられた時期に一致して、「新型コロナウイルス感染症以外の原因」で超過死亡が観察されている。つまり、感染研も、コロナによる感染死以外に超過死亡の原因があることを認めているのだ。
筆者は、これまでも、わが国で観察された超過死亡の原因として、ワクチン接種後の死亡の可能性を論じている。
図2には、ワクチン接種の開始時期と超過死亡が観察された時期との関連を示す。昨年の4月から9月にかけて観察された超過死亡は一旦治まるも、今年になって再び2月から3月にかけて観察されている。
医療従事者を対象にわが国で初回接種が開始されたのは、昨年の2月17日であるが、超過死亡が観察されるようになったのは、それから9週後の4月18日の週からである。追加接種として、3回目接種が開始されたのは、昨年の12月1日であるが、10週後の今年の2月6日の週から超過死亡が観察されるようになった。
4回目接種は、5月25日から開始されたので、8月に入ると10週を迎えることになる。全国の人口動態統計はまだ発表されていないが、すでに各自治体の8月の死亡数が速報されている。それによると、東京都や政令指定都市である名古屋市、京都市、福岡市の8月の死亡数は、前年の同月と比較して、19.9%、24.5%、27.3%、28.4%と軒並みに増加しており、8月から3度目の超過死亡が生じている可能性が高い。このように、ワクチン接種開始と超過死亡の発生する間隔には、再現性が見られる。
このように、再現性をもって、ワクチン接種から10週前後に、超過死亡が観察される時期が始まっており、ワクチンの接種開始と超過死亡発生との時間的関連は明白である。
しかし、2022年2月18日に開催された第76回厚生科学審議会で、感染研の鈴木基感染症疫学センター長は、超過死亡の原因として、ワクチン接種の関与を明確に否定した。その根拠として、1)超過死亡はワクチン接種の増加に先立って発生していること、2)海外からワクチン接種が超過死亡の原因とする論文の発表がないことを挙げている。
しかし、今年の2月〜3月に観察された超過死亡は、追加接種が増加した時期に一致しており、鈴木氏の主張は当たらない。死亡リスクが高い高齢者の接種は一般接種に先行しており、死亡数とワクチンの総接種回数は、必ずしも相関するものではない。
鈴村泰氏は、昨年4月にワクチン接種を受けた高齢者は、特別養護老人ホームの入所者が多く、高齢者の中でも、4月は他の月と比較して、突出してワクチン接種後の死亡発生率が高かったことを指摘している。さらに、超過死亡の原因は決して1つに絞る必要はない。超過死亡の発生に先行して、第4波の流行が始まっており、先行した死亡数の増加はコロナ感染による死亡による可能性も考えられる。以上の点を考慮すると鈴木氏が主張する1)の理由で、ワクチンの関与を否定することはできない。
2)についても、ニュージランドから、ワクチンの追加接種後に生じた超過死亡に関する論文が発表されている。ニュージランドは、総人口508万人の小国であるが、コロナの感染状況については日本との共通点が多い。日本と同じく、2020年は前年と比較して死亡数が減少し、超過死亡がみられなかった数少ない国である。
ニュージランドのゼロコロナ戦略は、高い評価を得ていたが、2021年に入るとコロナの蔓延が始まり、今年7月には、コロナの感染者数は150万人、死者は1700人に達している。この結果、積極的なワクチン接種政策が採用され、2022年9月末における2回目までのワクチン接種率は81%、追加接種率も68%とほぼわが国と同率である。
図3には、ニュージランドにおけるワクチンの累積接種率と累積超過死亡との関係を示すが、12月の追加接種開始後に超過死亡の増加が始まり、2月末には400人に達している。これは、追加接種10万回あたり16人に相当する。
累積接種率と累積超過死亡とには、有意な正の相関がみられた。興味深いことに初回接種では、累積接種率と超過死亡とに関連は見られなかった。さらに、超過死亡の増加は、追加接種率が高い30歳以上の全ての年代で確認されたが、追加接種率が低い30歳未満の年代では見られなかった。この結果から論文の筆者は、追加接種の導入と超過死亡の発生とは関連は明白であると結論づけている。
次に、日本における累積追加接種率と累積超過死亡との関係を図4に示す。3回目累積接種率と累積超過死亡数の間には、ニュージランドで観察されたのと同様に、相関係数0.99と極めて強い正の相関が見られた。
日本、ニュージランドともに初回接種後と比較して、3回目の追加接種後の超過死亡の増加が著しい。日本では、4回目の追加接種後に、超過死亡の増加が一部の政令都市で観察されており、今後の超過死亡の動きに目が離せない。
追加接種後の情報が出そろった現在、国民の関心が高い超過死亡について、感染研が新たな見解を示す時期が来たと思われる。