田原総一朗です。
9月19日は「敬老の日」だった。「敬ってもらおう」などという思いは、僕の場合まったくないが、「老い」について考えさせられる時期ではある。
厚生労働省は、9月15日時点で、全国の100歳以上の高齢者が、過去最多の9万526人だと発表した。9万人を超えるのは初めてだという。女性が8万161人と9割近く、男性は1万365人。最高齢は115歳の女性の方だ。
これまで多くの日本人は、「20年学んで40年働き、残りの15年を年金で暮らす」という人生設計を持っていた。寿命が延びることは悪いことではないが、その設計を書き直す必要が出てくる。定年後の長い人生、どう資金繰りをして、どう暮らし、どう楽しむのか。
日本人の寿命はどんどん延びているのに、設計の「書き直し」が、まったく追いついていない気がする。長くなる「人生」をどう考えるのか――。そんな壮大なテーマで、元外交官で作家の佐藤優さんと3度にわたって、かなり深く話をした。
佐藤さんは僕より20歳も年下だが、心から尊敬する人物だ。膨大な読書量にもとづく知性と教養、外交官として培った行動力、そして、飛びぬけた胆力がある方だと思う。
対話を重ねていくと、思いがけない共通項も見つかった。佐藤さんが「国策捜査」により外交官を辞めざるを得なくなったのは、42歳のとき。僕が「東京12チャンネル(現テレビ東京)」を辞めることになったのも42歳のことだった。当時雑誌に連載していた原発問題のルポが局の上層部で問題になり、辞めるしかなかったのだ。
佐藤さんも僕も、辞めたくて辞めたのではない。しかし、今振り返ってみれば、辞めたからこそ、佐藤さんはベストセラー作家として、僕もジャーナリストとして、第二の道を今も歩んでいられるのだ。今考えてみると大きな転機だった。
「宗教」についても聞いた。佐藤さんは同志社大学神学部出身の敬虔なプロテスタントだ。僕は宗教に強い関心を持ちながらも、特定の宗教の信者になることはなかった。「宗教の信者になる人とならない人がいるのは、どういうわけなのだろう?」そんな僕の素朴な捉えどころのない質問にも、佐藤さんは真摯に答えてくれた。
そして人生の終わり方については……。僕は遺産など最低限のこと以外、「終活はしない」と言い切っている。生涯現役で仕事をする、現役のまま逝きたい。対して佐藤さんは、「残りの人生でやっておきたい10のリストをつくる」ことを自分もすると同時に、読者にも勧めている。
残された時間をどうするか。佐藤さんは著作や神学論文を仕上げ、また「若い人たちの教育に力を注ぎたい」という希望を語った。僕はジャーナリストとして闘い続ける。そして僕たちに共通するのは、「今の戦争を止める。日本に戦争をさせない」という強い想いだった。
こんなふたりの対話が、一冊の本になった。そのタイトルもまたすごい。『人生は天国か、それとも地獄か』(白秋社刊)9月29日発売。お手に取っていただけたら幸いです。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2022年10月4日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。