ロシアがクリミアを併合後、クリミア大橋が建築されました。道路部分の完成が2018年、鉄道部分が2019年で全長18.1キロのこの橋は欧州で最も長い橋としても知られています。併合に伴うロシアによるインフラ整備の一環であったわけですが、その橋を何者かが破壊しました。道路は海に落ち、走行していた貨車は爆発しました。
これを受けてウクライナのポドリャック大統領報顧問が「これは始まりだ」と述べ、プーチン大統領は調査委員会を設置しているところ見るとウクライナの情報機関が行った可能性は極めて高いのではないかとみています。
プーチン大統領が怒り心頭であることは手に取るようにわかります。ウクライナ側が「始まり」と述べるに対してロシアがどのような対抗措置を取るのでしょうか?個人的にはウクライナにある原発は要注意だと思います。「目には目を」どころか「目には目と鼻を」ぐらい倍返しをするのが大陸的発想であり、プーチン氏の心理状態です。その仕返しは極めて厳しいものになると想定すべきでしょう。
ロシアのその手の組織がどれぐらい凶暴なものかをよく書き綴っているのが今野敏という作家で「曙光の街」から始まるシリーズを読めば小説ながらロシア当局やマフィアがどんなものか雰囲気は非常によくつかめるはずです。
ロシアとしては橋を分断されてしまった以上、地上戦主体から飛び道具戦に切り替える必要が出てきます。つまり、2月から今日までほぼ陸軍が主力の地上戦主体でした。しかし、戦争の戦略には陸海空という3つの組み合わせ、更には近代兵器がそれに加わるとすればまだロシアにはいくらでもやり方は残っています。「虎の尾を踏む」とはこのことで個人的にはどちらかがギブアップするまで続く収拾がつかない最終戦が切って落とされたとみています。
ところでプロのアイスホッケーの試合では試合中、選手同士がしばしば激しい殴り合い、取っ組み合いをします。観客はやんやの喝采でまるでプロレスに変わったような感じなのですが、レフェリーはあるところまであまり介入しません。それはどちらかが倒れるまで、です。つまり、収拾がつかない事態になった時は欧米では成り行きが見えるまで放置するという考え方があります。
とすれば今回はウクライナから手出しをし、ロシアが報復をし、それが泥沼化しても西側諸国はウクライナに軍事支援を一時的にしない可能性があります。それは本格的なバトルになった場合、軍事支援が連合国なり連盟国という意識に変わり、ロシアの標的になりかねないからです。つまり、地上戦で収まっていた時には双方の司令官はそれでも冷静沈着に判断することができたのですが、こうなるとバランス感覚を失うため、下手な動きは禁物になります。
この戦いが始まった当初、私は「ウクライナも『やんちゃ』な国」と申し上げたと思います。その考えは今でももちろん変わっていません。西側諸国がウクライナを支援するのは正義感と国際法違反、人道問題を繰り返すロシアへの非難という立場ですが、そこには思想的背景があまりないのです。
例えば朝鮮戦争では共産主義の南下を防ぐという大義名分のもと、アメリカは必死になって戦いました。が、今回のウクライナ問題は確かにロシアの一方的侵攻であるものの旧宗主国の関係である以上、第三国が深入りしにくい部分はあるのです。(この考え方は将来の台湾問題にも展開されやすいので極めて重要な岐路にあるとも言えます。)
もう1点は中国が16日から共産党大会に入ること、アメリカは中間選挙まであと1か月となり、両国が積極的に介入、制止しにくいことがあります。欧州の首脳陣は完全に分断状態で一枚岩が2,3枚に割れている状態です。つまりEUや欧州はほぼ機能していません。
イーロン・マスク氏が数日前にこの戦争を終わらせる案のアンケート調査を行っています。ゼレンスキー大統領は猛反発していますが、なぜ、マスク氏がこんなことに首を突っ込んだのか、単なる売名行為ではないはずです。彼はこの戦いを終わらせるレフェリーもジャッジも仲裁者も誰もいないことに気が付いています。世界の指導者の誰一人、プーチン氏もゼレンスキー氏も止められないし、むしろ、「関わりたくない」という遠巻きの姿勢に転じているのです。故に、マスク氏はマスク氏のネームバリューを使い、世論を動かそうとしたのだとみています。その姿勢は非常に勇気ある行動であり、正しいと思います。
逆に言えば国連も主要国も無能だとも言えます。
歴史上、無数の戦争が起きました。そのたびに「もう戦争はこりごりだ」と言いながら人間はそれを繰り返すのです。そして今回の特徴は「俺も仲間に加わるぞ」「援軍だ!」とならず、「ちょっと距離を置こう」「口先介入にしておこう」なのです。
これから数か月、世界を震撼させる事態が起きるかもしれません。私がずっと言い続けてた「この秋に起きるかもしれないそれ以上のこと」とはこのことを申し上げていたのです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月9日の記事より転載させていただきました。