エスカレーションするロシア・ウクライナ戦争:核使用の可能性は?

野口 修司

少しガス抜きになったか。ロシア国内強硬派の突き上げもあり、”反狂人”ともいえるプーチンが、首都キーウなどへの連続ミサイル攻撃をやった。民間人の死者が数十人出たという。そこにいたウクライナ人被害者には、本当に同情、哀悼の意を表明したい。

だが、語弊を恐れず言えば、筆者は少し安堵した。

なぜか。

今回何者かに攻撃され、ロシア側の兵站にも悪影響を与えたクリミア大橋への攻撃。もともと巨大な国土を持つが、不凍港が殆どない。だから軍事・通商で必要な要衝、ロシア(ソ連)にとって、数世紀に渡り、地政学的に必要なクリミア半島にかかる超重要なインフラだ。

2014年不当に占領して、ほぼ誰も認めないロシア領という主張を後押しするため橋の建設を強行、完成時、橋を大型車両を運転して、自分の業績を誇示。その時は一応上手くいったプー本人の精神的な支えでもあった。当時の不法なクリミア併合は米始め国際社会は、ほぼなにもできなかった。遅ればせながら実施した日本の経済制裁なども、殆どなんの意味がない。その結果、プーチンにとって「成功例」として記憶に残り、今回2月のウクライナ本土攻撃に踏み切らせた1因にもなった。

いろいろな意味で象徴的な橋だったので、今回の攻撃成功は、軍事的な損失と同じか、それ以上にプーチン本人に対する打撃になった。

クリミア橋攻撃は、英米諜報の支援で、ウクラ寄りロシア人の協力も得たウクラ特殊部隊の実行という説が、一番信頼できる。映像情報やウクラ兵器レベルからドローンではない。あの炎からいうとミサイルはあり得ない。燃料満載トラックと自律性がないリモコン利用の高性能爆薬搭載無人ボート利用の可能性が高い。ただ橋への攻撃は、橋げたに爆薬を仕掛けるのが普通。すぐに修復できるくらいの軽い損害だったが、橋の壊れ方をみると、橋げたではなく、橋表面が破壊され、落下したようにみえる。水面から橋脚を攻撃するボートはなかった可能性もある。

詳細は別論だが、プーチンに蹂躙され併合された2014年から幾つもあったクリミアのロシア要衝攻撃計画の1つだ。誰がやったか後日明確になるが、その結果、プーによる核使用の可能性が侵略以降一番高まった。

今回のウクライナへのミサイル攻撃はかなり前から準備していたもので、タイミング的には橋攻撃の報復にみえる。プーチン自身も言っているが、他方、「報復ではない」という説もある。かなり前から今回のミサイルによるインフラ攻撃には準備に時間がかかる。報復のようにみえるが、違うという見方だ。米諜報の公式見解なのでかなり信用できる。いずれにしても、核使用の可能性がかなり減少したため、筆者の少しの安堵につながった。

ロシアから報復のミサイル攻撃を受けた現場 ゼレンスキー大統領Fbより

バイデンの発言は戦略か?失言か?

プーチンによる核使用可能性。バイデン個人の計算された個人的な戦略か、以前も「台湾問題」でも飛び出したが、例によっての老害失言か。1960年代「キューバ危機」をバイデンが数日前持ち出した。そこでの対応。米ソ水面下での交渉があり、半世紀前には、それが結局功を奏し、2大核大国の全面戦争は回避された。筆者はキューバ国内のソ連製ミサイル基地も訪問取材、公文書も読んだがあるが、本当に危機一髪だった。

今回はこの昔の「キューバ危機」とは違う。水面下の話し合いはないようだ。サリバン安全保障担当官らが、正面からプーチンらに警告シグナルを送る。より実務的、現実的な交渉ボールを投げている。バイデン発言は、米国得意の多層からなる交渉手法、警告の1つだ。水面下でのキッシンジャー利用も、その1つだった。

後日、バイデンは、プーチンが核を使う可能性はほぼないだろうと言った。少し前「キューバ危機」を持ち出した「同じ口」で述べた。今回の民間人を狙ったミサイル攻撃で、ここに書いた通り、一応の報復が出来たので、収まった部分もある。米からの警告が強く効果的で、ロシア外相も「国家存亡の危機」とハードルを上げた言い方にした。一応の米の作戦勝ちと言える。

米国・NATOの対応は?

万が一のプーチンの核使用。その時の米NATOの対応。NATOへの放射能攻撃と看做して、ウクライナ領内のロシア軍殲滅が開始される。(これがプーチンに宣告された警告とみられる)世界中を巻き込みたいウクライナは喜ぶ。ただし、核使用は絶対になく、NATO米軍による攻撃は全て通常兵器になる。

いつもの米国得意のContingency planが数十あるが、上記が一番可能性が高かった。核を使用しないということで、一応、本当に一応だが、核戦争の可能性を最小限にする。

上記のように、今回の首都など辺り構わずのミサイル攻撃で、プーチンによる対ウクライナへの核使用の可能性は、現時点ではゼロに近くなった。

対中政策と中間選挙、数々の国内問題を抱える米としては、そろそろある程度のところでの停戦を望んでいる。一番望むシナリオは、プーチンが露国内からの動きで自滅することだ。じわじわと真綿で首を締めて地球上から抹殺したい。中国などへの警告になる。しかし「言論・報道の自由」に関してはロシアは中国に勝るので、中国はあまり痛いとは思わないかもしれない。

まだまだロシア国民のレベルが、プーチン追放レベルまで達していない。昔のナチスとの戦い、情報統制、言論・報道の自由制限、プー個人の人気を一気に上げた「テロとの戦い」、偉大なる「大ロシア」構想などなど、プーチンを支持する多数の要因がある。多少楽観的な西側報道を中心にみて、劣勢と思うだろうが、繰り返すがロシア(人)はまだまだ手強い。

怒る人も多いだろうが、イーロン・マスクの提案に近い形。つまり、最終的にはウクライが決めること。しかし、彼らが納得しないクリミアなどを諦めてもらうことが、1つの現実的な停戦への道なのかも知れない。非常に残念で口惜しいことだ。

2月の戦争開始時。日本の専門家の一部は、「合理的ではないので、ウクライナへの攻撃はないだろう」と言っていた。小生は米諜報などから情報を得ていたので「間違いなく侵略はある」と言った。さらに、日本にいる”専門家”は、このウクライナ危機は「米が空売りで儲けるためにやる(元外務省職員)」「米国が戦争を煽っている(元NHK記者)」「米国が戦争をいざなっている(元TBS記者)」など、いま振り返り、それから現実になにが起きたかを検証すれば、「思い込み」を言ったことが理解できるはずだ。ビジネスもあるのかも知れない。ネットや人が書いたものを元に「決めつけ」を言わないで欲しい。

筆者のように、中東を含む欧米を中心とした当事者、関係者に「直接」取材、議論して発言して欲しい。日本の視聴者・読者は世界をあまり知らないので、その「思い込み」を信じて、結果的に日本の国益を損なう。

さすがにこの戦争の落としどころは、現時点で誰も予想できない。言えることはプーチンとウクライナなど全ての当事者が納得する和平は、当分、いや永遠にあり得ない。

そして米国はウクライナ側を支援すると言っても、同盟国ではないし、米国自身の中間選挙など国内問題も山積。海外のことにあまりリソースが割けない。一部の日本人は誤解、拘っているが、もともと「世界の警察官」などではない。筆者は40年言った来た。さらに一番の仮想敵の中国への対策も、まだまだ充分ではない。

米国はウクライナに対して防空システムもさらに提供した。国防予算の余裕はまだあるが、対中国に必要な部分が非常に大きい。さらに米国内でインフレに苦しむ国民の血税も、ウクラ支援に増額して使っている。予想を上回る兵器提供で、本来自国で抱えるべきストック量、中国対策に使う在庫も足りなくなる可能性も出ている。雑駁にいうと、日本も含む民主主義に価値観を置く親米勢力、それに対抗する地球上半分以上を占める反米・反民主主義勢力の戦いだ。だからギリまで米国は動くが、以前ほどの国力も余裕もない。もともと孤立主義国だ。ウクラ支援でやれることには限界がある。

そろそろ米露首脳会談を望む声が強まっている。いままでは、そしてもいまも、テロリストとは話さないという論理で、バイは応じる気はない。やはり、4州とクリミア、少なくとも4州から撤兵するくらなら、会談を真面目に検討するだろう。現時点ではまずない。マリファナ持ち込みで拘束されている米国バスケ女子選手解放につながるなら、という話もあるが、現実的ではない。

ウクライナで起きていることは、自国防衛を米国に殆ど依存している日本にも関係あることだ。これまでのような「他人ごと」を少し止めたらどうだろうか。

一部、日本人がいう「米国は兵器を売って儲かるからいいね」こんな言葉を沢山聞いた。儲けが出るのは事実だが「だから戦争をやる」は、間違いといえる。だが兵器メーカーと米国政府とは違う。極端な逆のケースもあり得るが、職務権限などに関する法律もあり、日本では想像できないくらい、政府と民間企業との距離は離れている。アイクの軍産複合体を誤解している。世界歴史と安全保障の現実を少し勉強するべきだ。

まだまだ目が離せない状況だ。