首相の私邸住まいも禁止に
北朝鮮が9日、弾道ミサイル2発を発射し、今年は25回、9月下旬以降では7回計12発という高頻度に達しています。9日は青森上空を通過し、太平洋に落下しました。精度が上がっており、その気になれば、日本を核攻撃できる能力を持ったと考えておくべきです。
政府は全国瞬時警報システム「Jアラート」を通じて、警戒と避難を呼びかけました。内閣官房の国民保護ポータルサイトには「弾道ミサイル落下時の行動について」の呼びかけが載っております。「地下か建物に中に避難して下さい」「危険物には近寄らないで」などです。
北が発射してから10秒程度で日本に落下、つまり瞬時のできごとですから間に合いますか。そもそも退避できる地下施設があるのかどうか。全国で9.4万か所が退避施設に指定されています。肝心の地下施設は1%といいますから、有事の際に役にたたないでしょう。
米軍基地がある日本を核攻撃すれば、北は核の報復を受け、国は崩壊必至です。「だからまさか核攻撃には踏み切るまい。脅しだけだろう」と考えるのがこれまででした。それが「まさか」ではすまない時代になりました。
プーチン露大統領が自暴自棄に陥れば、核使用がありえます。金正恩も同じような人物でしょう。金正恩が「日本などに核攻撃をしかけるぞ」と脅しただけで、日本はパニックに陥ります。なにしろ地下シェルター施設が整備が進んでいる海外の国に比べ、日本はほぼゼロなのです。
「東京都はミサイルの落下に備えるために、地下鉄駅105か所を避難施設として指定した」とか、5年ほど前には「内閣官房、総務省消防庁、国交省、防衛省は地下鉄駅のシェルター化の検討を極秘に始めた」との記事が流れました。こんな当たり前のことが「極秘」とはそもそもおかしい。
もっとおかしいのは、核有事の際の首相官邸、自衛隊の中央司令指揮所が地下シェルター化されているのか不明なのです。首相官邸の地下2階には、危機管理センターがあり、災害時、重大事故時に使用されています。とはいえ単なる会議室で、地下シェルター化された施設ではないでしょう。
防衛省の地下3階には、100坪程度の中央指揮所があるとかの情報があります。備えはゼロではないにせよ、長期間にわたる有事の際の指揮所にするには規模は小さすぎる。自衛隊OBが「自衛隊もシェルターの準備を」という情報を発信しているくらいですから本格的なものではないでしょう。
財務省(旧大蔵省)の元事務次官の話では「大規模な地下シェルターを構築するには巨額の財政資金がいる。当然、予算要求がなされるはずなのに、そうした計画を聞いたことはない」とのことです。密かに官房機密費を使用としても、何百億もの資金をひねり出せない。
東京には大深度の地下鉄駅がいくつかあります。大江戸線の六本木駅、東中野駅、千代田線国会議事堂前駅などは地下40メートル前後の深さです。これらの地下鉄工事の際に、政府・防衛機能を移せる大規模なシェルターを同時に構築しておけばよかった。そんな話は聞いたことがありません。
単に地下鉄駅に安全な空間があったとしても、通信施設、居住空間、医療設備、食料・飲料水の備蓄、発電施設など様々な備えをしておかないと、なんの役にも立ちません。
北朝鮮には、10か所あまりの地下官邸があり、トンネルでつながっているそうです。金正恩は転々と居所をかえているのとかの情報です。隣接する韓国も当然、地下シェルターを備えている。米国もウェストバージニア州の地下に巨大な地下シェルターがあります。
プーチン露大統領は「核戦争に備え、政府幹部らとロシア南東部のシェルターに移動した」(英紙)との報道もありました。ウクライナで露軍に抵抗したアゾフ大隊が籠ったが製鉄所には、地下5階のシェルターがあり、会議室、居住空間、診療所、発電施設、宿泊施設が整っていました。
ミサイル発射で「Jアラート」で国民に警戒を促すまえに、政府のやるべきことは有事の際に、政府機能、防衛機能、敵地攻撃能力を統括する本格的な地下施設を持つことです。
防衛予算をGDP比で2%に引き上げ、防衛力を強化しても、司令機能が失われれば、何の役にも立たなくなる。敵は当然、そこをついてくる。
新聞、テレビなどのメディアはそうした問題提起をしていません。国会で自民党タカ派が強硬に主張してもよさそうなのに、そうした動きがありません。まず議員団でも組み、主要国の地下シェルターの現状を民間施設を含めて視察にいったらどうなのでしょう。
「まさか核攻撃は受けないだろう」「万一の時は、米軍が守ってくれるだろう」という安易な考えではいけません。反撃能力を維持できる有事体制を構築、準備しておくのが必須です。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。