今月12日、公正取引委員会は「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関するガイドライン検討会」を開催すると発表した(同委員会報道発表資料参照)。
「気候変動問題への対応として、我が国(が)、2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指すことを宣言し、次いで2021年4月、温室効果ガスの削減目標を明らかにした。」(同資料)
これを受けて、民間事業者や事業者団体の自発的取り組みが仮に何らかの競争制限を生じさせる場合であっても、必要に応じて独占禁止法の射程外に置くことで、上記目標の効果的な実現を可能にしようというのがその狙いである。言い換えれば、競争政策と環境政策の適切な調整を行い、独占禁止法の適用において、事業者にとって予測可能な形で一定の線引きをしようというのである。
ここ数年、欧州を中心として同種の動きが加速化しており(例えば、藤村朋弘「脱炭素に向けた企業間連携は独禁法違反か? グリーンと競争法をめぐる新たな指針づくり、日本でも検討はじまる」参照)、日本はこれに追随する形だ。「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連のアジェンダとして採択されたのが2015年であり、現在その折り返し地点にあることを考えれば、やや出遅れた感があるが、必ず通る道である。まずはその成果を期待したい。
環境保護に資する競争制限的な取り組みを独占禁止法上どう扱うかは今に始まった話ではなく、例えば、レジ袋の有料化に係る競争制限については十数年前の公正取引委員会の相談事例として登場している。環境対策のために特定顔料の使用を自粛する取り組みも随分と前に相談事例として取り上げられている。
「競合企業との共同研究開発や設備共有など」が念頭に置かれる(日本経済新聞2022年10月13日ウェブ記事)ようなので、やや大掛かりなガイドラインになるかもしれないが、「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」はすでに存在する。一から作り上げるものではなく、これまで存在してきた各種ガイドラインや相談事例等をまとめ直し、先行する欧州等の例を意識しつつ、必要な部分を新規に加えるといったものに(おそらく)なるだろう。
独占禁止法は事業者を、ただ闇雲に競争をさせることを狙いとするものではない。かつては独占禁止法の例外を認めると、例外が例外でなくなり「骨抜き」にされるとの危惧から、頑なにこの種の議論を拒む学者も少なくなかった(その必要があれば法規制で対応すればよいとする)が、今では皆無である。
昭和の時代には、そもそも「大企業は悪」とする風潮さえあった。持続可能な社会の形成に対する事業者や事業者団体の役割を考えれば、競争制限的な共同行為、団体の決定を杓子定規に悪性視するのは思考停止である。とはいえ、環境保護という「ラベル」が貼られれば何もかも免罪としてしまうのであれば、このラベルを隠れ蓑に不必要な競争制限が横行してしまう危険を招く。だからこそのガイドラインなのである。
競争制限の程度(どのくらいのインパクトがあるのか)、性質(どれだけ競争要素として重要か)と、競争を制限する目的の合理性(必要性)、そのために用いられる手段としての相当性(他に選び得る手段はあるか等)などを総合的に勘案して、個別事例を評価するというフレームワークが示され、その中で具体的な考慮要素が列挙される。そこまでは大して悩むことはない。抽象論ではなく、具体的考慮要素の提示、想定事例をどれだけ充実させるか、がポイントだ。
公正取引委員会によれば検討会は3回開かれる予定で、3回目は12月初頭とのことである。スピード感はあるが、時間をかけて下準備が済んでいるが故の短期開催なのであろう。