簡単ではない海外の事業:国内では王者のニトリがアメリカから撤退

ニトリがアメリカから23年4月までに撤退することを発表しました。2012年に設立して約10年でギブアップとなり、国内では王者の貫禄すらあるニトリも白旗を上げることになりました。専門家に言わせればニトリがそもそもアメリカで勝負できる素地がなかったとされます。スウェーデンのイケヤや経営難に陥っているベッドバス&ビヨンドなど競合は多く、店舗規模の圧倒的差異で勝負できるものではなかったということになります。

ニトリHPより

個人的には北米で厳しい勝負となっている無印良品の行方も気になるところです。モールにあるMUJIの看板の大きさに対して店の中は比較的閑散としています。いわゆる雑貨に対して価格付けが中途半端すぎるのがイマイチ受けない理由の一つ。もう一つはデザインや使い勝手がどうしても北米のテイストに合わないようです。そもそもMUJIはNO FRILLという意味、つまり余計なコストをかけないことでよい商品を安く提供するがコンセプトだったはずです。事実、会社の名前も良品計画という名で日本的な「良いものを安くお届けする」はずでしたがどうもマーケットを外しているように感じるのです。

アメリカに進出して花が咲かないBtoCの日本企業は枚挙にいとまがありません。このところその行方が注目されるのがメルカリでしょう。何年たってもアメリカ事業が軌道に乗りません。同社の山田進太郎社長は決算の度にアメリカ市場への本気度を見せますが、今だ雲が晴れることはありません。

私はカナダに進出する日本の一流企業の動向を長年、見てきましたが、成功したビジネスは極めて限定されるといってよいかと思います。商社は揃っていますが、資源関連や食糧の買い付け側が主体で日本市場という強力な買い手がいる故に事業は安定してます。ではそれ以外は、といえば唸るしかないのです。

原発のウエステチングハウスは東芝にとって鬼門でありましたが、それを買い取ったのはカナダの投資会社、ブルックフィールドでその取得額は1㌦でした。が、そのブルックフィールドが最近カナダのウラン採掘の最大手、カメコ社に49%の株式を1兆1600億円で売却しました。1ドルで購入して1兆円以上で売却できる付加価値のつけ方はどうしたらできるのでしょうか?東芝はなぜ、失敗したのか、東芝だけの問題ではないような気がします。

北米に進出する日本企業は概ね肩に力が入っています。北米市場をじっくり調査し、万全の体制で日本人がガチガチの管理体制を敷きます。ただ、間違えはここにあるのです。ズバリ申し上げると北米ビジネスを日本に居住する日本人が成功に導くのはくじに当たるぐらいの勝率だと申し上げてよいでしょう。バンクーバーに進出したゲーム関連の上場企業はほぼ全社あっという間の撤退でした。理由はゲームのコンセプトが違い過ぎるのです。言い換えれば日本を北米に持ってき過ぎるな、ということかと思います。

ではお前はカナダでどうやって足場を築いたのか、と質問がありそうです。答えは表舞台は全部、カナダ人で固めて私たちは管理に徹したのです。理由は英語もろくにできず、人脈もなく、カナダ人の顧客を唸らせる知恵もありません。「勉強させてください!」。これが私のとった戦略です。但し、ガッツだけは見せました。絶対に負けないでカナダのビジネス方式を吸収し、本社の承諾はカナダの方式に合わせて絶対に取るといった現地のチームの輪を守ることに徹したわけです。

駐在員はどこを見て仕事をするか、という話題はよく耳にするでしょう。本社と自分たちと同格の日本企業との付き合いです。これで花を咲かせるのは絶対に無理。それらの姿勢を180度転換し、よりローカル化を進めることが重要です。また、日本企業の社員は専門分野以外の知識が少なく、経験値も少ないです。私がカナダで不動産開発をしながらアメリカのワシントン州でゴルフ場の運営とシアトルの日本食レストランの経営も任されていた時、非常に幅広い知識を獲得してそれが最終的に不動産開発のアイディアに繋がっていったのです。経験値を層状に増やす、これが勝ち抜くポイントだと思います。

ユニクロはかつて英国に進出し一旦撤退しました。再度、海外に賭け、アジアでは成長をしたものの欧米は引き続き苦戦します。NYには旗艦店をオープンし、ようやくそのブランドネームが知れ渡り、客が付き始めた長い苦労がその背景にあります。同社でへこたれず、高い授業料を払い、学んだのは柳井正氏その人です。故に今、海外では破竹の勢いとなっているとも言えます。

私は北米ビジネスはそれなりに理解し、経験値も積んできています。故にどんなビジネスでも立ち上げられるし、それなりの成果は出せるのです。一旦、そのツボを押さえると割とやりやすいのも北米ビジネスかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月16日の記事より転載させていただきました。