「マイナンバーカードと健康保険証を紐づける」と河野大臣が久々に張り切った記者会見をしていたのを見て、「なんだかんだ言いながら風穴を開けられる数少ない閣僚」だと改めて思いました。他の閣僚は何か起きた時に対応する受け身の姿勢に徹します。ではなぜ、河野大臣はいろいろブレイクスルーができるのか、と言えば常日頃から「なぜ?」の思想を持っているからでしょう。「日本の不思議」を自分の許される範囲で少しつずつ改善している、そんな風に見えます。岸田首相が河野氏をデジタル大臣に抜擢し、政府側に戻したのも他に適材者がいないから故の人事だったと理解しています。
さて、このマイナンバーカード、先々には運転免許証も兼ねる予定でそうなればカードの普及率は現在の5割程度から一気に100%近くとなるはずで1968年の佐藤内閣時代に源流がある国民背番号制度構想から55年近くたってようやく終着点が見えてきたとも言えます。
国民背番号制度が激しい議論となり、とん挫したのは「管理社会」への抵抗でした。これは言わば「国家から捕捉されない自由」とも言えます。1968年当時ならばまだ社会制度は緩々で多少悪さをしても「見つからなければ大丈夫」の時代でした。税金なんて払わないのが当たり前です。それは日本の歴史で平民が大名や藩からこっぴどく吸い上げられてきた反動とも言えます。江戸時代の徳川管理社会は大名の体力を弱らせ、余裕を与えない政策が主力でした。参勤交代もその一つです。その為に各藩でも武士は食えず、普段は農民のような生活でした。藩は商人から借金をし、農民は搾り上げられるという税に関する悪いトラウマを作ったわけです。その反動が江戸が終わって100年後に「反旗を翻した」といったら大げさでしょうか?
当時の議論では「俺の名前は山田太郎だ。変な番号で振り分けられるのは囚人扱いだ」という飛躍した意見がごく普通に正当化されていたのです。
今でも「管理社会」という言葉には大半の国民が抵抗を示すでしょう。が、残念ながらもう我々は管理の網からは抜け出せないのです。例えば最近、ひき逃げ犯や殺人犯が比較的早く捕まるのは何故でしょうか?捜査当局の能力も上がりましたが、それ以上に情報網の発達で我々は何処にいても見つかるのです。被害者からすれば素晴らしいと思うでしょう。それは管理社会を一面で支持してわけです。
私が成田空港で出国する際、自動搭乗手続きに自動荷物預け入れ機を使います。成田で機械にパスポートを掲げるだけで予約が確認され瞬時に搭乗券が発行されます。個人情報はパスポートだけで確実に水平展開されています。出入国審査は顔認証です。このデータはもちろん、法務省管轄のどこかでビックデータとしてお宝になっています。
ならば当然、税務当局もその管理はより近代的な技術を駆使したものになります。以前、日本の税務の大御所先生と話をしていた際、「近いうちに脱税は完全捕捉されます。仮に今、税金を払わなくても死んだら全部丸見えになるので脱税じゃなくて税の繰り延べみたいなもの」と言われて「ついにそこまで来たのか?」と感慨深いものを感じました。コロナ禍で国の支援金がずいぶん不正利用されたのですが、「わかりっこない」と高をくくった連中がごっそり見つかりつつあるのです。
私は昨年建築した物件の一つに政府主導のグリーンエコポイントが適用できたのでそのポイントをありがたく頂戴し、全部物品と交換しました。ところが建物完成後、一部の仕様が対象外となり、事務局から「ポイントをつけ過ぎたのでその分、現金で返せ」と請求書が来ました。ほう、しっかりしているなと思ったのですが、海外にいたこともあり、すっかり忘れていたら先日、日本にいた時にうまい具合に書留の督促状がきました。「なるほど、きちんと捕捉して、法人コードで紐づけした取り立てだから逃げられないな」と妙に納得して翌日、お支払いしておきました。
マイナンバーカードは今後、国民にとって「管理される嫌な存在」から「なくてはならぬもの」に姿を変えるはずです。「俺は絶対に嫌だ」と奇妙に突っ張ってももう、意味はないと思います。そこまで管理されたくないならマンションから一歩も出ることすらできません。なぜなら外には監視カメラだらけです。いやそれだけではありません。皆さんの使っているパソコンやスマホの個人情報は基本的には「善意のシェア」がされています。50年前のようにパソコンもなく監視カメラがない時代ではないのです。
明治時代になってから2-30年間、世の中はその変化についていけませんでした。それと同じで世代替わりと共にゆっくり「当たり前化」が進むのでしょう。「管理社会」になっても悪いことをしなければ何も気にならない、と割り切るしかないのでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月17日の記事より転載させていただきました。