インスブルック大学の政治学者でロシア問題専門家として著名なゲルハルト・マンゴット教授は16日、オーストリア国営放送(ORF)の夜のニュース番組でインタビューに答え、ウクライナ戦争の動向について語った。
マンゴット教授は、「ロシア軍は今後もウクライナの重要インフラへのロケット攻撃を続けるだろう。これらの攻撃で新たな難民の波が引き起こされる。プーチン大統領はウクライナに圧力をかける一方、バルカン半島経由で多くの難民が殺到し、その対応に苦しむ欧州連合(EU)にさらにウクライナ人難民を殺到させて圧力をかける狙いがあるはずだ」と述べた。
軍事大国ロシアがウクライナに侵攻した直後、ウクライナ国民の間にはロシアに対して恐怖感が強かったが、戦争が7カ月半に及び、ウクライナ軍が奪われた領土を奪い返すなど、攻勢をかける一方、ロシア軍側の体たらくぶりがみられると、ウクライナ軍、国民の間には「ロシア、もはや恐れずにあらず」という思いが強まってきた。そこでプーチン氏はウクライナ全土にインフラ、民間人をターゲットにミサイル攻撃を命令し、「ロシア軍はいつでも、どこでも攻撃できることを誇示し、ウクライナ側に『ロシアはやはり怖い』といった思いを取り戻したいのだ」という。
プーチン氏がここにきてミサイル攻撃に戦略を変えた背景には「国内の右翼のナショナリストから『戦争の遂行で躊躇し過ぎている』と圧力を受けてきたからだ」という。
ウクライナ側には大きなダメージが生じている。ウクライナ国内の電力、水道などのインフラが破壊されることで、通常の経済活動がさらに難しくなる一方、厳冬をまぢかに控え、ウクライナから西側に避難する国民が増えることが予想される。ロシア軍のウクライナ侵攻以来、既に700万人以上が避難している。国民がさらに国外に避難するならば、労働力不足などが一層深刻となり、ウクライナ経済は大きなダメージを受けるのは必至だ。
マンゴット教授は、「ウクライナ経済は今年既に35%縮小している、ロシア軍のインフラへの攻撃、それに伴う損害と労働者不足はウクライナの国民経済に打撃を与える」と指摘。
にもかかわらず、ウクライナ側の士気は依然、非常に高い。「ウクライナ人の90%以上が、ロシアへの領土譲歩に反対している」という。ロシア軍の前進は、主に傭兵がロシアのために戦っているバフムート周辺地域に限られ、ほぼ完全に停止しており、代わりにウクライナ軍の前進が続いている。マンゴット教授は、「ロシア側のミサイル攻撃でウクライナ側の祖国防衛というモラルが崩れるとは思わない」という。
それではプーチン大統領の権力基盤に揺れが見られるかという質問に対し、マンゴット教授は、「ロシア軍が壊滅的な敗北を喫しない限り、プーチンの地位が危険にさらされることはない。プーチン大統領がウクライナ東部・南部の4州を併合させたということは、プーチンはウクライナ側と交渉する考えがないことを示している。ウクライナ側もプーチン大統領のロシアとは如何なる交渉にも応じる考えはない。現時点では、ロシアとウクライナ間の停戦交渉の可能性はない」と指摘、「戦争はしばらく続くだろう」と予想している。プーチン氏が大量破壊兵器(核兵器)を使用する可能性については、「現時点ではない」と見ている。
なお、ウクライナのイェルマーク大統領府長官によると、ロシア軍が17日、首都キーウを自爆ドローンで攻撃した。ウクライナ側の発表によると、ドローンはイラン製だという。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。