マイナンバーカードを実現せよ(屋山 太郎)

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会長・政治評論家 屋山 太郎

マイナンバーカードに運転免許証や健康保険証も統合されると言う。2015年にマイナカードが発行された時に、国はあらゆる身分証明書を統合するとしていたが、ほとんど進まなかった。今度は河野太郎デジタル担当大臣が「2024年秋までに完結させる」とのご命令である。前回、国の方針を無視した省庁は、どのように立ち回るのか。

今から50年も前、私はスイスのジュネーブに特派員として駐在を命じられた。空港で「労働ナンバー(番号を付与された労働許可証)をくれ」というと、10分もかからず交付された。このナンバーを示せば、たちどころに健康保険には入れるし、身元保証にもなる。あらゆる禁止区域にも入れたし、警察に厄介になった時にはこのカード1枚で釈放された。

スイスから帰国した時、土光敏夫さんがやっていた“土光臨調”に入って手伝え、と言う。行政改革には仕事と所轄がはっきりしているカード事業はうってつけである。国交省の「運輸局」と厚労省の「保険局」を一括りにして、国に1つの「ナンバー局」を設ければ、何百人もの役人をより生産的な部署に配置できるし、役人の数を減らせるかもしれない。

こういう場合、スイスの仕組みを調べたことがあるが、国会議員が「ナンバー化」のアイデアを出すとする。すると役人がどこの課所を廃止すればどうなるかの知恵を出してくれる。議会で多数を得れば構想は即、法律となる。

日本の場合はまず自省の権益を減らしたくないとの思惑が働くから役所は「改革」と聞いただけで反対する。日本の国会議員は改革自体に興味はなく、競合政党にポイントを与えないため、議会の日程調整などで抵抗する。要するに国民のために果実を生み出そうとするのではなく、果実を生ませないために議員も官僚も働いているのである。

ジュネーブの新聞には州の局長や課長ポストの求人広告が載っていたが、業務は①~④、月給はいくら、と条件がはっきりしている。ここに採用されて入ってきた人が、自ら仕事を増やすはずがない。政策は全て議員が考え出すのである。

当時、スイスの小学校に子供を2人入学させた。学習用具や教科書などは全て学校に置いていくようになっている。自ら運ぶ本やノートは実に軽い。日本の子供の荷物が重い習慣は体に良くないことは確かだ。何年も前から指摘されているのに、なぜ直さないのか。

クラスのサイズは15人で、先生によっては3つのテーブルを準備し、学習程度に合わせ三種の授業をやっているクラスもあった。帰国にあたって日本の小学校も少人数になると聞いて楽しみにしていたが、30人だった(当時)。フランスもそうだが、3歳までが保育園で、6歳で小学校に行くまでが幼稚園。なぜ日本では幼保の一元化ができないのか。

財務省の局長に「官僚が嫌いなのか」と本気で問われたことがあった。私が嫌っているのは「何でも俺にやらせろ」という増長だ。

(令和4年10月19日付静岡新聞「論壇」より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年10月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。