萩生田光一政調会長の安全保障政策

衆議院予算委員会で質問に立つ萩生田委員

閣僚側から自民党に萩生田光一議員が戻ってきました。閣僚時代には内閣の方針に縛られ慎重な言葉しか聞けませんでしたが、政調会長として自民党をリードする役職に就任した今、あの「萩生田節」が戻ってきました。私はこれを待っていました。

その萩生田委員の衆議院予算委員会質疑(2022年10月17日)から、今回は安全保障政策に関する質疑を中心に、注目の自民党安全保障政策を確認してまいります。

データは衆議院インターネット審議中継アーカイブの動画から、筆者自身で文字起こしの上要約しました。

はじめに、「日本をめぐる安全保障環境を自民党がどのように認識しているのか」がよくわかる部分を確認します。次に「萩生田語録」を通して、自民党の安全保障政策の重点ポイントを確認してまいります。

(なお、萩生田委員も閣僚も、終始「です」・「ます」で結ぶ丁寧な言葉で語っていましたが、本稿では判別の観点から、質疑応答の言葉は「である」・「だ」という結びに変更しました。)

萩生田氏 NHKより ASKA/iStock

安全保障環境認識

  • 米国は先週バイデン政権の国家安全保障戦略を発表し、「もっとも差し迫った課題は、権威主義的な大国による国際平和と安定に対する挑戦だ」と明記した。
  • ロシアのウクライナ侵略によって、世界の安全保障環境が一変した。
  • これは決して対岸の火事ではない。アジアにおいても台湾海峡の緊張が高まる中、(中国によってわが国の)EEZに5発のミサイルが撃ち込まれ、極めて危険な挑発行為だ。
  • 「台湾有事は日本有事である」(安倍元総理)を、中国自らが証明した。
  • 北朝鮮はかつてない頻度でミサイル発射を繰り返し、先日は我が国の領域を飛び越えるミサイル発射という暴挙を行うなど、その挑発行為はまさにエスカレートしている。

中国への配慮や「他国を刺激しない」という“理由”からでしょうか、従来わが国は危機の認識を明瞭にしてきませんでした。そのため、本年2月に安全保障環境が激変しても、日本は「太平の眠り」から醒めないままですが、少なくとも政権与党は十分に危機感を持って対処に当たっていることが、この予算委員会における環境認識からわかりました。

次に萩生田政調会長の言葉から、どのような安全保障政策の課題があるのかを確認してまいります。

萩生田語録(予算委員会10月17日)

「安倍総理がご存命ならどうされていただろうか」
北朝鮮のミサイル発射が相次ぎ、先般は、わが国の領域を飛び越えるという暴挙もあった。長年、政治行動を共にしてきたものとして、率直に申し上げ「安倍総理がご存命ならどうされていただろうか」と思わない日はない。

筆者コメント(以下筆者):率直に過ぎます。国家の安危に直面している日本、次のリーダー候補は萩生田さんです。

「悲観して立ち止まるのではなく、可能性を信じて前を向いて進むべきだ」
安倍元総理の「悲観して立ち止まるのではなく、可能性を信じて前を向いて進むべきだ」こんな発言があった。ハッと目の覚める思いがした。安倍元総理の国政にかけた強い思いを、我々はしっかり継承しながらこの国の将来に責任のある行動をとって行く。

筆者:次のリーダー候補の萩生田さんが覚醒して、嬉しく思います。

「撃つなら撃つぞ」
中国・北朝鮮の危険な挑発行為に対し、必要なのは言葉でなく抑止力、「撃つなら撃つぞ」という能力を明確に示すことでわが国へのミサイル攻撃を抑止する、これこそがわが国の平和を守り、国民の命と暮らしを守る道である、そう確信している。

筆者:同意です。ウクライナの奮闘に学ぶならば、日本は米国の核抑止に頼るばかりではなく、自らが抑止力を持つ自助努力も重要です。

「約束したことは必ず実行しなくてはならない」
自民党は先般の参議院選挙で、NATO諸国と同様のGDP比2%以上を念頭に5年以内に防衛力の抜本的強化を進めると、国民に公約した。「約束したことは必ず実行しなくてはならない」。国民の命と平和な暮らし、領土領海領空は断固として守りぬく、これは政治の重い責任である。

「水増しではだめだ」
「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は中身の議論よりも「財源をどうするか」また「(海保予算含むかなど)どうすれば見た目の金額を増やすことができるのか」ばかり考えているようにすら見えてしまうが、私は総理、「水増しではだめだ」と思う。水増しでは国民の生命財産を守ることはできない。

「真面目に積み上げたらむしろGDP比2%では足りないのではないか」
中国はこの30年で軍事費を40倍に増やした。国民の命と平和な暮らしを守るため、どういう防衛力が必要か、私は「真面目に積み上げたらむしろGDP比2%では足りないのではないか」ということをかねてから申し上げてきた。

筆者:同意します。更に言えば、GDPの成長自体が停滞すれば、相対的な力はあっというまに引き離されてしまうでしょう。力強い経済成長策もまた、安全保障政策そのものでしょう。

「日本版FMS制度」
装備移転を積極的に進めていくことも有志国の安全保障上の利益になるだけでなく、国内防衛産業の基盤強化につながる。装備移転は安全保障上の防衛政策の一環として、制服組が国の前面に立つのが世界の常識。例えば米国はFMS制度で、国が装備を買い取って、作戦指揮の運用と装備をセットで世界に展開している。わが国でも国が前面に立って、有志国との安全保障に資する観点から装備移転を進める、「日本版FMS制度」いかがか。

筆者:全く同感です。

「デュアル・ユース技術こそが今やイノベーションの源泉だ」
軍事技術は近年加速度的に進化。中国は国家戦略として民間の技術や資源を軍事に積極的に取り込んでいる。米国も2015年からDIU、“Defense Innovation Unit”を創設し、民間のスタートアップ企業の先端技術の取り込みを積極的に行っている。こうした「デュアル・ユース技術こそが今やイノベーションの源泉だ」。

筆者:かつて「八木アンテナ」は日本では不遇でしたが、価値を見出した米英によってそのレーダー精度を高めることに貢献しました。結果日本のレーダー技術の遅れは戦局に強く影響しました。現代日本も改めてイノベーションが国家存亡に与える影響について強く認識するべきでしょう。

「戦わずして負けてしまう」
自衛隊員の処遇改善や施設の改善などについても目を向ける必要がる。高価な装備品もそれらを使いこなしているからこそ有効な防衛力になる。自衛隊員に十分な能力を発揮してもらうために、その処遇改善は不可欠だ。施設の強靭化についても同様で、自衛隊施設の多くが老朽化し、自然災害にも脆弱で、何より相手の攻撃に対する防護性も低い。これでは「戦わずして負けてしまう」

「防衛力を大きく見せて抑止力を高める、発想の転換をすべきだ」
戦後わが国は自国の防衛力を抑制的に小さく見せてきたが、現在のような安全保障環境においては、「防衛力を大きく見せて抑止力を高める」ことが最も重要である。「発想の転換をすべきだ」
日清講和条約の時、伊藤博文は窓の外の海峡が見える側に李鴻章を座らせ「海峡に並ぶ軍艦」を見せて、それが日本の意思であることを清国に伝えたという。
今「わが国に進攻しようとしてもそれは困難であると思わせる力」を持ち、それを目に見える形で国内外に示すことが重要だ。

筆者:「イカつい紳士」に喧嘩を売る人は確率的には少ないでしょう。

番外編:(「教育関連」での発言)

「要はやるかやらないか」
「要はやるかやらないか」だ。(資料ボードを指して)この資料を見てもわかるように、「地方への人流が、東京が吸い上げたら困る」、といって始めたが、全然変わっていない。東京に来る地方の出身者、大学の出身者は全く変わっていない。規制前と規制後は変わっていない(大学定員の23区規制見直しについて)。

「私やめまくってきましたからね」
誰かが始めたことをやめるというのは勇気が要るが、「私やめまくってきましたからね」。やっぱり正すべきはしっかり正す、それが時に私は閣僚の責任だ(萩生田文部科学大臣(当時)は、入試制度改革で混乱が予想される変更計画を中止した)。

質問が浮き上がらせた日本の課題

萩生田委員の今回の質疑で、環境認識に加えて、以下のような「未対応状態の課題」が明確化されました。

課題1:「海上自衛隊と海上保安庁の相互連携体制の欠如」

萩生田委員質問:(海保を)防衛予算にカウントするのであれば、能力をしっかり高めていくことが必要だが、

  1. 海保と自衛隊は武力攻撃事態における相互連携の共同訓練を行ったことはあるのか?
  2. 防衛大臣が海上保安庁を統制する訓練を行ったことはあるのか?
  3. 統制の要領というのは定まっていのか?

浜田防衛大臣回答:

  1. 海上自衛隊と海上保安庁は、武力攻撃事態を想定した共同訓練を実施したことはない。
  2. (防衛大臣が海上保安庁を統制する)そのような訓練も実施していない。
  3. 統制要領については具体的には確立されていない。

筆者:関心が予算にばかり集まっていますが、この質疑によって、現実の防衛体制には大きな課題が存在することが国民に対して可視化されました。

課題2:「自衛隊の低い抗堪性問題と防衛産業の苦境」

萩生田委員指摘:

  1. 自衛隊施設の(耐震化改修など)環境整備はすぐ着手すべきだ。
  2. 調達契約の利益率の大幅改善など、国内防衛産業への抜本的な支援策をとるべきだ。

浜田防衛大臣回答:

  1. 防衛産業は厳しい現状にあると認識している。
  2. 国内防衛生産の技術基盤維持強化のための抜本的な対策を検討している。

筆者:防衛産業の厳しい現実を防衛省は認識していながら、喫緊の課題に対して現状は「対策の検討」しかできていないという現実が浮き彫りになりました。

課題3:デュアル・ユース(民間技術)活用取り組みの欠如

萩生田委員指摘:デュアル・ユース、すなわち民間技術の取り込みを拡大して行くべきだ。

浜田防衛大臣回答:防衛省独自の投資拡充に加え、政府研究開発事業の成果を防衛分野で活用して行くことも重要だ。平素から関係府省との連携を一層強化すべきと考えている。現在、科学技術予算による研究開発プロジェクトへの参画等、その連携のあり方について、関係府省と議論をしている。

筆者:質問に対して、的外れな回答で済ましてしまいました。先程レーダー開発時の愚行には触れましたが現代日本も改めてイノベーションと安全保障の関係を強く認識するべきでしょう。

課題4:「防衛能力の見せ方と抑止力の考え方」が不明瞭

萩生田委員指摘:「わが国に進攻しようとしてもそれは困難であると思わせる力」を持ち、それを目に見える形で国内外に示すことが重要だ。

岸田総理・浜田防衛大臣回答:未回答

筆者:かつて戦艦と大砲の大きさや数が抑止力の象徴だった時代に、日本は「戦艦大和」と「戦艦武蔵」という決戦兵器を“隠密裏”に建造しました。しかし抑止力の観点からは、むしろ誇示して英米に戦争を思いとどまらせるという選択肢があったかもしれません。そのような「武力の裏付けを持った外交戦略」が現代日本にあるのかどうか、不明なままだったのは残念でした。

むすび

メディアと野党に引きずられ、巨大な危機を目の前にしても旧統一教会問題でもめる絶望的な国会運営にあって、自民党が「国民の命と暮らし・領土領海領空を守る決意」を表明したことは、画期的なできごとでした。

また萩生田委員の質問で、「喫緊の課題でありながら、未対応のままである各種課題」が顕在化したことも意義深いものでした。

なお、予算委員会における萩生田委員の質疑の全容にご関心がある場合には、下記別稿をご参照ください。

衆議院予算委員会、萩生田光一委員質疑 (2022年10月17日午前9:00~9:50)|田村和広|note