少し前に文科省が”教員のメンタルヘルス”に本腰を入れる旨の報道がありました。
一見真っ当な取り組みに見えますが、筆者は実効性のある対策とは到底思えないのです。記事にちょっとツッコミを入れますと、
「教育委員会に委託して2023~25年度の3年間で調査研究を行う」
文科省が直接行わないのか? 3年間悠長に調査研究している間に、精神疾患の教員はさらに増えないか?
「文科省は12年度教員の精神疾患休職の原因分析を実施…残業時間の多さや保護者対応の難しさが精神の不調につながっていると結論付け、同省はこれまで毎年、メンタル対策や働き方改革を教委に通知…」
不調の原因とされた「残業時間の多さや保護者対応の難しさ」をクリアするため、文科省・教委はこれまで何を実施し、その効果はどうだったのか? また、10年間も実施したのに再調査するのは、いまだに正確な原因分析ができていないのか?
「想定される対策…ストレスのセルフチェック、管理職による教員の状況把握、オンライン面談体制の整備、カウンセラーの配置―など」
オンライン相談以外既に行われているものばかりだが、そもそもチェックや相談といった対症療法だけで教員の精神疾患は減るのか?
このように記事を読む限りとても期待できるような内容ではなく、文科省が教員の勤務実態や精神疾患の原因を正確に把握できるのか危惧されます。
2年ほど前の記事ですが、教員の精神疾患が増える要因を、諸富氏がわかりやすく述べています。
筆者も同意できる点が多く、
- 文書作成・処理、調査・報告、時間外・校外の仕事(交通指導・事故対応、校外補導、外部の苦情処理等)など、あいまいな職務範囲の拡大による超過勤務(サービス残業)の増加(①多忙化・ブラック化)
- 教員のキャパを越えた個性あふれる児童生徒への個別対応(➁学級経営、子ども対応の困難さ)
- 急速にSNSという武器を手に入れた保護者の要求や抗議に、教員(特に経験の浅い若手)が対応しきれないケースの増加(③保護者対応の難しさ)
- 上記1・3なども影響して管理職・上司に余裕がなく、部下への支援・アドバイスより注意・指導が増え、教員が信頼や相談しづらい環境(④同僚や管理職との人間関係の難しさ)
が、教員がバーンアウトしてしまう主な要因と考えます。
上記2・3は、単純に効率化合理化ができる問題ではありませんが、1については主に役割の問題であり、制度改革が可能です。そして超過勤務が増加する最大の原因が、半世紀にわたって続いている「給特法(公務員給与の+4%を一律支給する代わりに残業手当を支給しない制度)」です。この法律がある限り、政府(文科省)・自治体は人件費を心配する必要がありませんから、教員のタダ働きもなくなりません。
これまでに給特法の廃止・大改正が何度か俎上にあがりましたが、実現できなかったのは以下の要因が大きいと思われます。
- 教師の仕事は明確な終わりがなく、元来サービス残業が常態化しやすい
- 残業手当を支給せずにすむため、文科省も教育委員会も教師の責任感・熱意に甘え、サービス残業に目をつむりがちになる
- 給特法を長年放置したため、本来支給されるべき残業代が膨れ上がり、予算内では到底支払えない額になっている
そんな中、先日文科大臣から「給特法の法制的な枠組みを見直す」という発言があったのです。
教員の長時間労働の要因「給特法」にメス 勤務実態踏まえ「見直し」と文部科学大臣【福井】
教育現場の人間としては、本当に実効性のある法改正ができるのか、半信半疑ですが、現給特法を問題視する動きは大きくなりつつあるようです。
筆者も3年以上前から、教員の勤務条件・職場環境の悪化について警鐘を鳴らしています。
筆者は、教員の精神疾患➝休職者・退職者を減らすためには、現行の給特法を廃止するのと同時に、本来の職務外にまで広がった教員の仕事を精査・スリム化し、法制化するしかないと考えます。
ただ、すぐ法改正等に着手できたとしても、現実にはある程度年数がかかってしまうことは否めません。しかしゴール(目標達成)が明確になれば、移行期間は「何としても対症療法等で乗り切ろう!」とモチベーションは上がるはずです。
政府(文科省)が教育の青写真をしっかり描き、
教育予算の増額→増員・給与改善と職務の精選→教員の労働環境改善(魅力ある職業へ)→教採の倍率増加→教員の質的向上→子供・保護者・社会の信頼度アップ→教員のモチベーションアップ
というような流れができれば、おのずと教員の精神疾患・休職は減っていくのではないでしょうか?
いずれにしても、日常的にはストレスを解消・発散するための対症療法は必要です。筆者の新刊本も少しでも人助けに貢献できればうれしい限りです。
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