キューバから著名スポーツ選手がまたひとり国を離れた

カストロはスポーツ国家として世界に誇示しようとした

キューバのカストロ政権時代は社会主義国家として繁栄していることを故意に示すのにスポーツの育成に力を入れていた。それによってキューバの民主政治のない、産業の発展もない、独裁国家としての存在をベールで隠そうとしたのである。

キューバ出身の選手が世界のスポーツ競技で優秀な成績を収めればキューバは社会主義国として繁栄していることを示す良い手段だとカストロ第一書記長は考えたのであった。彼のスポーツ振興のマーケティングはソ連その後ベネズエラがキューバの経済を支えるパトロンとして存在していた時までは順調に運ばれていた。

ところが、ソ連が崩壊し、ベネズエラの原油価格の下落で経済的にキューバを支えられなくなると、国の経済を支える産業の育成を怠って来たキューバは一挙に国家経済は後退して行った。

現在のキューバは外貨を稼ぐ手段と言えば観光産業と医療団の世界派遣の2つの軸しかなく、それはキューバ経済を支えるには全く不十分である。

その影響で外貨は常に不足し、大半の食糧を輸入に依存しているキューバでは十分にそれを輸入できなくなっている。しかも、それにコロナのパンデミックが影響してか観光業は大きく後退している。

スポーツ選手が続々と外国に亡命

現在のキューバは食料を始めあらゆるものを手に入れるのに長蛇の列に並ばねばならない。嘗ては優秀なスポーツ選手は優遇されていた。しかし、今では家族がその日の食事にありつけたかといったことまで彼らは気にせねばならなくなっている。それ故にタイム記録を更新することなど考える余裕はなくなっている。

例えば、野球では強いキューバも選手が米国やメキシコに亡命するようになっている。陸上選手でも同じことが言える。

今年7月にスイスで開催された陸上選手権でポルトガルのスポーツクラブベンフィカからライニエル・メナ選手が100メートルで9秒99を記録し、続く200メートルでも19秒63と良い記録を達成。この陸上200メートルの記録は世界3位に入る記録である。実はこの選手、キューバを代表する陸上選手であった。が、昨年ポルトガルに亡命した。

メナ選手はキューバでは世界のライバル選手との競い合う機会もなくなり、彼のチーフコーチであったホセ・アルベルト・サンチェス氏も同じような理由からキューバを去った。その後釜として新しいコーチが充てられたが、一人の優秀なコーチのもとで練習を積んでいると、新しく優秀なコーチに指導してもらってもうまく記録は伸びないでいた。

そこで、メナ選手の頭の中ではポルトガルの名門クラブベンフィカに移籍することを考えるようになっていた。というのも、このクラブにはキューバから移籍した選手が他にもいて歓迎されているからだ。ポルトガルに移籍する場合、既にキューバ代表選手を辞退していたのでそれほどの困難はなかったという。しかも、これまでキューバから選手を受け入れているベンフィカがその為の後押しをしてくれたからだぞうだ。

食べ物を手に入れることを考える必要もなくトレーニングに集中できる

メナ選手が語っているのは、ポルトガルでは家も提供してくれたし、練習に必要な食べ物も容易に手に入る。医療部門やマッサージ療法についても特別に用意してくれている。選手が必要とするものを24時間体制で提供できるシステムになっているという。

このような行き届いたサービスが享受できているので記録の更新を間接的に助けてくれていると彼は指摘している。それがまたメンタルの面でも自らの記録の更新に集中できるようになっているという。キューバにいたのでは、このようなことは想像もできなかったことだと指摘している。

また彼のコーチ指導をすることになったアナ・オリベイラ氏は彼がキューバでトレーニングしていたシステムを尊重してくれているそうだ。