1. 社会支出って何だろう?
前回は、各国の所得格差(ジニ係数)や貧困率についてフォーカスしてみました。
日本は先進国で再分配後の所得格差が比較的大きく、貧困率が高い国になります。また、貧困の深さを表す貧困ギャップもかなり高く、極端に所得の低い層が多数存在する事になります。
本来税や給付などの再分配は、このような格差や貧困を是正するためにも必要となりますね。
今回は、再分配として支出される「社会支出(Social Expenditure)」についてフォーカスしてみたいと思います。
社会保障などの再分配は、高齢者への支援ばかりと考えられがちですが、貧困層への給付や、子育て世代への手当なども含まれます。
社会支出は大きく、お金としての給付である現金給付(Cash benefits)と、モノやサービスとしての現物給付(Benefits in kind)に分かれるそうです。
それらを金額に換算して合算したものが社会支出という理解になると思います。
社会支出は次の区分に分かれます。
高齢、遺族、障害・業務災害・傷病、保健、家族、積極的労働市場政策、失業、住宅、その他
区分 | 現金給付 | 現物給付 |
高齢 (Old age) |
年金 (Pension) 早期退職年金 (Early retirement pension) その他 |
介護・ホームヘルプサービス (Residential care/Home-help services) その他 |
遺族 (Survivors) |
遺族年金 (Pension) その他 |
埋葬費 (Funeral expenses) その他 |
障害・業務災害・傷病 (Incapacity related) |
障害年金 (Disability pensions) 年金(業務災害) (Pensions(occupational injury and disease)) 休業給付 (Paid sick leave) その他 |
介護・ホームヘルプサービス (Residential care/Home-help services) 機能回復支援 (Rehabilitation service) その他 |
保健 (Health) |
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家族 (Family) |
家族手当 (Family allowance) 出産・育児休業 (Maternity and parental leave) その他 |
就学前教育・保育 (Early childhood education and care) ホームヘルプ・施設 (Home help / Accommodation) その他 |
積極的労働市場政策 (Active labor market programmes) |
公的雇用サービス (Public employment service and Administration) 訓練 (Training) ジョブローテーション/ジョブシェアリング (Job Rotation and Job sharing) 雇用奨励金 (Employment Incentives) 就労支援 (Supported Employment and Rehabilitation) 直接的雇用創出 (Direct Job Creation) 就労奨励金 (Start-up Incentives) |
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失業 (Unemployment) |
失業給付・退職手当 (Unemployment compensation / severance pay) 労働市場自由による早期退職 (Early retirement for labour market reasons) |
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住宅 (Housing) |
住宅扶助 (Housing assistance) その他 |
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その他 (Other special policy areas) |
所得補助 (Income maintenance) その他 |
社会扶助 (Social assistance) その他 |
生活保護は一定の要件を満たす人に対して、上記に当てはまる支援を総合的に提供しているものと思われます。
日本の生活保護は捕捉率が2割程度だったり、他国と比較して少ないなどと言う指摘もあるようですので、そのあたりとの関係性も見えてくるかもしれません。
2. 日本の社会支出は増えている?
それでは、日本の社会支出に関するデータを見ていきましょう。
図1は日本の社会支出の推移をグラフ化したものです。
社会支出は増加傾向が続き、直近では120兆円を超える規模となります。1990年と比較して倍以上に増加しています。
その中で、ボリュームが大きいのが、「高齢」と「保健」ですね。
「遺族」「障害・業務災害・傷病」「家族」も比較的規模が大きい社会支出になるようです。いずれも2015年以降は微増です。
図2が社会支出の対GDP比をグラフ化したものです。
その時々の経済規模(GDP)に対する社会支出の割合となります。
やはり日本は高齢化に伴って「高齢」の割合が増えていますね。保健の割合も増えています。
ただし、2010年あたりから横ばい傾向である事がわかります。
日本の社会支出は長期的には増加傾向ですが、近年ではやや停滞気味であることが言えそうですね。
3. 日本の社会支出は多いのか?
日本の社会支出の水準は、他国と比較するとどの程度のレベルなのでしょうか?
OECDのデータでは、各国の対GDP比の詳細データが公表されていますので、比較してみましょう。
図3はOECD38か国の社会支出について、総額の対GDP比が大きい順に並べたグラフです。金額ではなく、あくまでも対GDP比である事にご注意ください。
最も社会支出が多いのは、フランスですが、イタリアやドイツ、アメリカも日本より水準が高いようです。
フランスは再分配前の所得格差が大きくや貧困率が高いのですが、再分配によりどちらも大きく改善されている国です。
それだけ社会支出が多いという事で、前回までの内容と辻褄が合いそうですね。(参考記事: 日本の再分配は不十分?)
その他、デンマーク、フィンランドなどの北欧やスイスなどのヨーロッパ諸国が上位となります。
社会支出 対GDP比
単位:% 38か国中
1位 32.2 フランス
5位 28.6 イタリア
8位 27.8 ドイツ
12位 24.8 アメリカ
16位 22.7 日本
21位 21.3 イギリス
26位 18.0 カナダ
36位 10.9 韓国
平均 21.1
日本は22.7%で、38か国中16番目、G7中5番目の水準で、平均値21.1%をやや上回る程度です。フランスやドイツと比較すると大きく差がありますね。
その他の国々を見ても、前回までの所得格差と貧困の水準とも大きく影響しているような数値と順位になっています。
せっかくですので、もう少し詳細についても順位を確認してみましょう。
社会支出 高齢(Old age)
単位:% 38か国中
1位 13.9 イタリア
4位 12.5 フランス
9位 10.4 日本
17位 8.4 ドイツ
23位 6.6 イギリス
26位 6.5 アメリカ
33位 4.5 カナダ
平均 7.9
まず「高齢」に関する社会支出ですが、日本が10.4%で9番目の水準です。
平均が7.9%ですので、比較的多い方ではありますが、高齢化が最も進んでいる国としてはやや少ないように見えます。
以外にもイタリアが13.9%で1位ですが、フランスも高い水準です。
社会支出 保健(Health)
単位:% 38か国中
1位 14.6 アメリカ
2位 9.5 フランス
3位 9.0 ドイツ
7位 7.7 イギリス
8位 7.6 日本
9位 7.5 カナダ
15位 6.4 イタリア
平均 6.1
社会支出のうち「保健」については、アメリカが14.6%で断トツで1位です。続いてフランス、ドイツが高い水準となります。
日本は7.6%で38か国中8番目、G7で5番目で平均値6.1%を上回ります。
社会支出 家族(Family)
6位 3.2 イギリス
7位 2.9 フランス
15位 2.4 ドイツ
19位 2.0 イタリア
27位 1.7 カナダ
29位 1.6 日本
37位 0.6 アメリカ
平均 2.1
社会支出のうち「家族」については、イギリスが3.2%で6位と高い水準です。ちなみに1位は3.4%のデンマークです。
日本は1.6%で38か国中29位、G7で6番目で平均値2.1%を下回り極端に低い水準です。この中には育休・産休や、保育なども含まれますので、少子化の進んでいる日本では少なめになるのは理解できますが、他国と比較するとその水準は明らかに少ないと言えそうです。
4. 社会支出のバランスとは?
今回は社会支出についての統計データを共有しました。
各国とも高齢化が進んでいるため「高齢」の支出が多くを占める共通点があるようです。日本も「高齢」の社会支出は多い方ですが、高齢人口比率の割にはやや少ないように思います。
次に規模の大きい「保健」の社会支出も他の主要国と比較すると日本はやや少ない方です。
そして子育て支援なども含まれる「家族」の社会支出が、日本は極端に少ないのが特徴的ですね。対GDP比でイギリスやフランスの約半分です。
日本は経済水準や高齢化の割には、社会支出が思ったよりも多くないという特徴がありそうです。これまで見てきたように再分配後の格差が大きく、貧困率が高い事とも大きく関連していそうですね。
経常移転負担も経常移転給付も少なく、先進国の中で可処分所得が比較的少ない国でもあります。(参考記事: 可処分所得の高い国の特徴とは?)
負担と給付という再分配のバランスについて、もう少し改善の余地があるのかもしれませんね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年10月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。