胡錦濤の「芝居説」が浮上?:共産党内での強い反発を示唆か

中国共産党第20回党大会(10月16日~22日)をテレビニュースで見ていて驚いた読者も多かっただろう。北京の人民大会堂で行われた中国共産党党大会閉会式の22日、習近平総書記(国家主席)の左隣に座っていた胡錦濤前総書記(79)が突然退席するというシーンがあった。外電によると、胡錦涛氏は自身の意思に反して退場を強いられたのではないか、という。

党大会の閉会式前に退席する胡錦濤前総書記(2022年10月22日、オーストリア国営放送のスクリーンショットから)

党大会でのハプニングについて、3つの憶測が流れている。①胡錦涛の「病気説」、②習近平の「権力誇示説」、③胡錦涛の「芝居説」だ。

そこで人の表情、眼球、口周辺の筋肉の動きからその精神状況を読み取る「マイクロ・エクスプレッション」(微表情)の専門家、精神行動分析学者カル・ライトマン(ティム・ロス主演)に登場してもらって、人民大会の演壇上で演じられた胡錦涛氏の行動、習近平氏らの反応などを分析してもらう(ライトマンは米Foxの心理サスペンス番組「Lietome」(邦題「ライ・トゥ・ミー」嘘は真実を語る)の主人公)。

(人間は嘘を言う時必ずある共通の動き、表情を見せる。人間が政治的理由から嘘を言うとき、そこには必ず共通する動きがあるから、それを探し出すことで、その時の心理状況、発言内容の真偽を見分けていく。抑制されてきた本当の感情、怒り、悲しみ、幸福感などが瞬間だが視覚的に現れてくるから、その微表情を分析することで、事件の謎を解いていく)

以下は、当方の憶測に基づいたナラティブ(物語)だ。

中国語のリップリーディング(読唇術)が出来たならば、栗戦書・全国人民代表大会(全人代)常務委員長が胡錦涛氏に退席を求めたシーン、胡氏に係員が語った内容、胡錦涛前総書記と習近平総書記との小会話、そして今回、最高指導部から退く李克強首相の表情、最後に閉会式前のハプニングを目撃した約2300人の党員代表たちの反応等々、事件の核心に迫ることが出来る材料は結構あるから、中国共産党党大会の出来事をひょっとしたら解読できるかもしれない。

①胡錦涛の「病気説」

胡錦涛の「病気説」。海外中国メディア「大紀元」によると、胡錦涛は長い間パーキンソン病を患ってきた。だから、浙江省麗水市党委書記を務める息子(胡海峰)は父親が党大会に参席することを心配していた。息子たちの懸念が当たり、閉会式前、胡氏は気分が悪くなった。息子から何かあったら即退席させてほしいと要請されていた党大会の係員が素早く前総書記の席に行って、本人が抵抗したとしても退席させたという。

胡氏「俺は大丈夫だと息子に言ってくれよ」
係員「総書記、分かっておりますが、ここは退席されたほうがよろしいかと思います」

数秒間、胡氏と係員の間で言い争い。傍にいた栗戦書は「早く退席させたほうがいいよ」と口添える。

退席することになった胡錦涛は自分のポストを継承した習近平に「君、何か言ってくれないか」と頼むと、習近平「お大事にしてください」と答え、それ以上何も言わない。胡氏は諦めて退席する前に、最高指導部(常務委員)から外された李克強首相の肩をたたき、同情の意を伝える。同首相は少し笑顔を見せ、頷くだけだ。

②習近平の「権力誇示説」

習近平の「権力誇示説」。党大会で3期の総書記ポストに就任し、長期政権の基盤を築きたい習近平は党内に自分の独裁体制に強く反発する党幹部たちがいることを知っている。実際、習近平落とし、暗殺未遂事件が過去、何度か発生した。党大会前の13日、北京市海淀区の高架橋で「習近平を追放せよ」といった横断幕が掲げられたばかりだ。そこで習近平は自身が党を完全に掌握していることをアピールするために、外国メディアのカメラの前で演劇をした。

すなわち、全党員代表が拍手している時、胡錦涛がテーブルの上の書類に目を通し、拍手を忘れた姿を目撃した習近平は係員に退席させるように命令。それを受け、係員が胡錦涛を退席させようとした。胡錦涛は習近平に「これは何の目的か」と怒ると、習近平は「黙って出て行け」と一言。胡氏は李克強に「君も気を付けたほうがいいよ」と言い残して舞台から去っていった。習近平はこのシーンによって「如何なる者も自分に抵抗すればこのようになる」ということを党、世界に向かってアピールしたわけだ。習近平の高等戦略だ。

③胡錦涛の「芝居説」

胡錦涛の「芝居説」。党大会時に68歳以上なら引退するとの不文律がある。69歳の習近平がこれを破って続投を決め独裁者になってきたことに対し、党内では強い反発があることを知っていた胡氏は党大会で芝居をした。公に批判すれば、自分ばかりか息子たちの将来も厳しくなるからできない。そこで世界が注目する党大会、そして習近平が正式に3期目に就任する前に一芝居した。自身が病気だということは知られていたから、突然、退席する。

しかし、外的には嫌々退席させられたと党員たちが受けとれるように係員に少し抵抗する。檜舞台の党大会閉会式の党規約改正案などの採決前のハプニングを快く思わない習近平の横を行くとき、「申し訳ないが退席するよ」と声をかけ、習近平から追放された李克強の肩をたたきながら、「君も大変だな」と同情の意をそれとなく伝える。

胡氏は、この芝居を中継したメディア関係者たちがこのハプニングに驚くとともに、さっそく憶測を開始するだろうと考えた。習近平の独裁体制、それに反対する党員たちがいるのではないか、といった憶測が大量に流れるだろうと予想したわけだ。習近平は自身の自負心を傷つけられる。反習近平派は胡錦涛の一芝居ハプニングを喜ぶ、というわけだ。

(なお、中国共産党第20期中央委員会第1回総会が23日、北京で開かれ、最高指導部メンバーの政治局常務委員を選出し、習近平総書記の3期目続投が正式決定した)

以上、3シナリオだ。読者の皆さんはどのシナリオに最も納得されるだろうか。ライトマンがどのような診断を下すか、当方はワクワクしながら待っているところだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。