人々の目はウクライナに向かっていますが、ロシアの行方についても少し検討しておいた方がよい気がしてきました。ご承知の通り、ロシアから西側企業は次々と撤退しています。本日の報道ではメルセデスベンツが現地企業を売却したと報じています。ベンツはロシア向け輸出も止めているため、これでベンツとロシアの関係は実質切れることになります。
また日経はドイツのリントナー財務大臣への取材でロシアからのエネルギー輸入の全廃を目指すと報じています。その代わり、廃止にする予定だった原発を延長稼働し、その間に代替措置を講じるというものです。
ロシアへの目は最大限の非難と制裁及び撤退でありますが、これらは西側の主要企業や国家の発表であって、多少、報道に左右されているところもあります。西側諸国は「これでロシアは困るだろう!」という意味で厳しい制裁を継続しているのですが、同様の制裁を科しているイランや北朝鮮とはちょっと違うだろうという気がしています。
それはロシアには豊富な資源、世界一の国土、1.4億人の人口があり、国連では常任理事国であるなど国際社会では一定の影響力を未だに誇っている国家なのです。私はウクライナとの戦争がいつか終結した際にロシアがどういう変化を起こすのか、プーチン氏は引き続き鎮座するのか、プーチン氏の傀儡政権ができるのか、はたまた国家の解体的出直しが起きるのか全く予想が出来ない中、西側諸国はより戦略的な選択肢をいくつか持っておくことが重要だとみています。国家のトップレベルではそのスタディは当然していると確信していますが、世論が強く反応する今日の出来事だけではなく、将来を見据えた上での施策の選択肢は見せなくても手中に持っておくべきでしょう。
なぜ、私がそう考えるか、と言えば中国の存在があります。ロシアが西側諸国との経済、ビジネス的な関係が閉ざされた場合、国の規模からして中国しか頼るところはありません。中国は中華思想の拡大を目指しているため、ロシアは取り込めるなら取り込みたいはずです。しかし、ロシアと中国はイデオロギー的にどこまで共有できるか、と言えばこれは疑問です。但し、習近平氏は割り切る部分は割り切るのではないかとみています。「宗主国」は過去の歴史の産物ではないのです。今からでも歴史は作れるのです。100年後200年後にロシアが中国の宗主国下になってもおかしくないわけです。
物事を単純に考えてしまうとロシアには経済、ビジネス上、西側の主要企業はほとんど手を引いてしまったので空っぽです。一方、ロシアも戦争こそしていますが、1億4000万人の経済活動もある中でその穴を埋めるのは誰か、といえば中国が最有力候補です。これは習近平氏にとっては願ったりかなったりの事態です。中国の経済状況が悪いと言われますが、世紀の大逆転劇のチャンスかもしれません。「ロシア人が中華料理を食べる日」とはそんな影響力を想像したのです。
仮に中国とロシアが何らかの連携を締結すれば国際社会は非常にやりにくくなります。ここはないとは言い切れず、考えておいた方がよいと思うのです。
戦法には「全滅させるのではなく、必ず、生き延びる方法を与えよ」というものがあります。なぜ全滅させないか、と言えば攻められる側からすると全滅が迫るとその恐怖心から常識では考えられない行動に出ることがあるからです。日本でも戦国時代、必ず、相手が逃げる道を残していました。プーチン氏が核を使うのではないか、とされる一件でもプーチン氏の立場からすれば追い込まれて完敗しそうなら核のボタンを押してしまうこともあり得るのです。
とすればプーチン政権とロシア国民を上手に扱う器用さも必要かもしれません。産経に気になる記事があります。「米のウクライナ支援、与野党で懐疑論浮上」で、民主党急伸左派グループがバイデン氏に対ロシア政策の見直しと対話による解決を求めた書簡があったことが発覚したというものです。これはすぐに撤回されています。ただ、記事では「今月中旬には野党・共和党のマッカーシー下院院内総務が、11月の中間選挙で同党が下院を奪還すればウクライナへの軍事支援を縮小させる考えを示唆」とあります。これは一種の選挙向けトークですが、選挙後にアメリカが対ロシア政策に変化を見せるのか着目しています。
プーチン氏に核のボタンは絶対に押させてはなりません。彼が押したらそれはウクライナの負けではなく、ロシアを含めた全世界の負けを意味します。では押させない方法は何でしょうか?
以前、私は北米のプロアイスホッケーの試合で殴り合いのけんかがしばしば起きるが、レフェリーはそれをどちらかが倒れて勝負がつくまで放置すると述べました。今のウクライナとの問題もそろそろレフェリーストップをする時期にあるのでしょう。その為には「飴と鞭政策」もアリなのかな、と思っています。習氏のポジションが非常に頑強な形となっていることを考えるとひと月前のトーンとは変化を持たせる必要があると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月27日の記事より転載させていただきました。