崩落したアメリカハイテク関連株:普通になり始めたテスラ、アマゾン

岡本 裕明

日本に在住の方もアメリカのハイテク株の迷走に驚いていることでしょう。今日のナスダック市場では昨日のメタ(旧フェイスブック)の決算が低調で先行き不安を感じさせる内容に売りが売りを呼び、終値では100㌦をあっさり割り込む25%の下落を記録しました。その前にはグーグルが予想を下回る7-9月決算で大きく値を崩し、本日も続落で新安値を更新しています。

そして注目は本日、NYの場引け後に発表されたアマゾンとアップルの決算ですが、アマゾンは夜間取引で一時20%を超える下落となり、90㌦を割り込む場面もありました。アップルは値を保っています。

何が起きているのでしょうか?

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私は何度かこのブログでアマゾンは覇者から落ちる、と申し上げました。何度書いても誰も信じませんでした。言い分はいろいろあります。特に稼ぎ頭のIT関連のAWSがあるじゃないか、というものです。ただ、株価はそれだけでは形成しないのです。もっとウェットなのです。

私がアマゾンはもう普通の会社だと思ったのはジェフ ベゾス氏が退任した時点です。変わってアンディ ジャシー氏がトップに就いたのですが、彼はAWSの責任者からの抜擢でしたが、アマゾンの主業はAWSではなく、ジェフが立ち上げた巨大Eコマースなのです。つまりどの部門が稼ぎ、帳尻を合わせたかというよりも、アマゾンが持つイメージがアマゾンの株価を支えることもあるのです。事実、アンディになってから株価はほぼ下落一方なのです。まったく同様なのが中国のアリババでこちらも売り上げうんぬんよりジャック マー氏の存在が企業価値を生んでいたといってよいのです。

私は1年ぐらい前にGAFAMからAとFが抜けてNとTが入ると予言したことがあります。Aはアマゾン、FはフェイスブックでNはエヌビディア、Tはテスラです。今日の時価総額はアップルが2.32兆ドル、マイクロソフト1.7兆ドル、グーグル1.2兆ドルがいわゆる「1兆㌦クラブ」です。本日の夜間取引から想定すると明日、アマゾンは1兆ドルクラブから脱落するかもしれません。続くのがテスラで0.7兆ドル、エヌビディアが0.33兆ドル、メタが0.26兆ドルといったランクになります。

ではメタ(旧フェイスブック)はなぜ、苦戦したのでしょうか?メタバース事業にカネをかけすぎた、これに尽きます。メタバース事業の売り上げに対してコストが10倍ぐらいかかっています。そしてこのコストは10-12月期に更に膨れ上がる見込みとされ、次の決算も厳しいものになるだろうと見られているからです。

メタバース事業に先見性をもって巨額投資をするザッカーバーグ氏の姿勢は正しいのでしょう。もしかしたら先々花が咲くときが来るかもしれません。しかし、メタバースがまだコンセプチャルな域を出ず、これをビジネスにどうつなげていくか多くのメタバース事業者は試行錯誤で、メタも同様なのです。つまり、GAFAMと称されたアメリカを代表するハイテク企業群は単に時価総額の大きさだけではなく、アメリカの夢が内包されているのです。ザッカーバーグ氏が絶頂だったのはフェイスブックの利用者が世界で20億、25億人…と増えていく時であり、そこから苦悩が始まり、議会に証人として何度か呼ばれるようになった時点で創業者としての期待度がはがれてしまったのです。

明日、ツィッター社は上場廃止になる予定です。イーロンマスク氏が買収を完了する予定だからです。多分ですが、同社は稼ぎとしては大きく改善するとみています。それこそ数倍に化けるでしょう。それは非上場化し、マスク氏がかなり強引な改革を行うとみられるからです。仮に同社が上場を継続していれば面白い株価形成になったことでしょう。

こう見るとアメリカの株価を推し量るにはCEOの能力、特にメディアへのエクスポージャーとアピール度、更にはアナリストをうまく使うことが重要で投資家や世論がそれに賛同し、「いいね」を押せば企業価値は上昇しやすくなるともいえます。私も相当多数の北米企業に投資をしていますが、最近はCEOのコメントや決算会見の言葉尻を注意深く見ています。弱気の発言をしたり、大したアピールがない企業はなかなか盛り上がらないというのが実態です。

決算時の株価形成は結果を見るのではなく、向こう3カ月から先の計画と見通しがモノを言います。とすればアメリカのハイテク株の不振ぶりは必ずしもアメリカが利上げをしたことだけが理由ではなく、人気が剥離して企業実態により即したものになりつつあるともいえるのでしょう。

好対照だったのがカナダのショッピファイの昨日の決算でCEOが「近いうちに再度黒字に浮上できそうだ」と述べたのを好感し、本日は17%の上昇となっています。

全般的にアメリカでは一部で過熱感があったハイテク株の下落、サンフランシスコ/シリコンバレーの落ち着き、IT技術者雇用難からの緩和や賃金の異常な上昇の歯止めなど、普通になり始めたという気がしています。テスラも事業が軌道に乗ってきたからこそ、普通の株価を目指して下落が続くのだろうとみています。つまり皆さんが考えるのと真逆なのです。同社の株価収益率は77倍、アマゾンが99倍、それに対してアップルとマイクロソフトが23倍程度であることを参照にしたらわかると思います。株価収益率はそういう意味で「会社の普通具合」の尺度としては時として非常に分かりやすい指標なのであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月28日の記事より転載させていただきました。