もしもあなたが多角事業を経営する創業者だとしましょう。あなたがいつかは押さえたい事業は何でしょうか?
私はかつてメディアが欲しかった時期があります。それも結構真剣に。ただ、その事業にどれだけ関与するのか次第では自分の時間が蒸発するように失われると思い、思い留まりました。しかし、私のような野望をもつのはその昔はごく普通の流れだったのです。メディアを自分の傘下に置くことで、自分に不利にならないある程度の言論統制が出来ます。
日本にはメディア絡みの会社は主要なものを別にしていくつかあります。たとえばニコニコ動画のドワンゴはあのひろゆきこと、西村博之氏が関与し最終的にカドカワと一緒になりました。その結果、角川歴彦会長は今だに臭い飯を食べていますが、多大なる影響力を持つに至りました。まだまだあります。虎ノ門ニュースはDHCの吉田義明会長の意思表明の場です。あるいはアパホテルの部屋に備え付けられているApple Townという雑誌は元谷外志雄氏の強いステートメントをホテル利用客に直接的に訴えるという手法を取っています。
もっと言いましょうか?サイバーエージェントの藤田晋氏はアメブロというソーシャルネットワーキングからABEMATVにシフトします。どれだけその部門が赤字でも彼はそれを諦めることなく、続けているのは数字に表れる以上のうまみがあるということを如実に物語っています。海外でも同様でアマゾンの創業者、ジェフベゾス氏がワシントンポスト紙を手中に入れたのち、当時のトランプ大統領との確執をメディア越しに行ったことも一時話題になりました。
話はズレるのですが、楽天の三木谷浩史氏がなぜ、携帯事業に突っ込んだのか、いくら事業者のはしくれとはいえ、私がコメントするのはおこがましいのですが、未だに理解できないのです。このブログで三木谷氏が携帯事業に進出が報じられた際に「間違い!」と断じており、その後も「命取りにすらなる」といった厳しいコメントを何度かしたと思います。携帯電話事業は金食い虫の上、技術がある程度進化し、既存事業者がはるか前方をひた走る場合、後から参入するメリットはないし、追いつくのは至難の業なのです。彼には携帯インフラを支配下におくことにたぶん過大なる期待があったのだと思います。私が三木谷氏ならばメディアを抑えていたと思います。
閑話休題。イーロン マスク氏がツィッター社を手に入れました。個人的には上記にいくつか例を挙げたケースとほぼ同じ流れだと思います。
「金持ちになったら何が欲しいか?」という話題は当地でもよく出る話ですが、物欲として家、別荘、クルマ、クルーザー、自家用機なのですが、せいぜいそれどまりなのです。欧米の心底金を持っている人からすればそんなのは小遣い程度でゲットできます。それに自家用機は普通、会社で所有し、税務対策をするので個人で持つものでもありません。とすればお金なんて使えるところは知れているのです。
ちなみに金持ちが欲しがるものは時代と共に移り変わります。一昔前はゴルフ場でした。(会員権ではなく、コースそのものです。)今ではゴルフ場が本気で欲しければ北米で選ばなければ小銭で買えます。では将来、欲しくなるものはなにかといえば私なら農園、水源、漁業権だろうと推察しています。
いずれにせよ、成功者は必然的にマズローの要求5段階説で5番めの「自己実現の欲求」を目指すわけです。人によっては宇宙に飛び立つという人もいれば、政治家に転身する人もいます。ここは個性が出やすいもので、技術者のマスク氏は言論が欲しかったわけです。つまり、ごく普通のありきたりの「自己実現の欲求」を6兆4千億円という大枚をはたいて購入したわけです。ではこの6兆円越えの買収金額が妥当かどうか、ですが、それは「マスク氏の社会的存在価値の応分」だと私は考えています。世界一の富豪が自己実現するのだからそれぐらい払ったらいいじゃないの、ということです。
よってマスク氏がゲットしたツィッター社も虎ノ門ニュースもApple Townも本質的には変わらないのですが、その影響力と伝播力が違うということでしょう。では「金がなる木」かと言われればメディアは昔に比べてそんなに儲かる業種ではないのです。私はカナダのある大手メディア会社に10年以上投資しており、結構な株式を保有していますが、業績は10年間下り坂。株価も下り坂。損切りしようかと思うこともしばしばですが、配当が良いので持ってます。基本的にメディア業界は社会の激変に耐えられず、苦戦していることも多いため、ザッカーバーグ氏が苦しむようにマスク氏も決して楽じゃないはずです。それゆえに「首切り大魔王」のコストカッターとなるつもりなのでしょう。
個人的にはマスク氏はツィッター社を持ち続けると思います。その為には事業から現金が流血する事態を極力抑え、自己コントールできる形にすると思います。その上でマスク氏の主義主張がアプリを通じて見えてくる、ということになるのでしょう。
ところでこのような話、どこかでもありませんでしたか?そう、中国です。中国は国家としての言論統制をしています。都合の良いことしか流しません。中国は国家全体でそうするので国民はそれしかわからない状態です。一方、西側社会は様々な情報がメディアから流されるけれどその解釈に極端な相違があり、国民は何が正しいかわからなくなり、二極化しやすくなるのです。習近平氏はマスク氏のツィッター買収を心から喜んでいるでしょう。アメリカの言論が二分化するのは中国にとってはとても都合がよいことだからです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月31日の記事より転載させていただきました。