防衛産業振興に必要なのは、防衛省、自衛隊、防衛産業の当事者能力

Cunaplus_M.Faba/iStock

防衛産業振興に必要なのは、防衛省、自衛隊、防衛産業の当事者能力です。

それが欠けていおり、その実態を直視しないのであればいくら対策を講じても無駄です。

細る防衛産業、「継戦能力」に危機感 コスト管理・競争力に課題

政府による安全保障関連3文書の改定では、自衛隊の航空機や車両などを生産する防衛産業の維持・強化も重要な課題になっている。納入先が自衛隊に限られる上、発注も減少。防衛事業から撤退する企業も出ている。このままでは有事の際に組織的な戦闘を継続する能力(継戦能力)が維持できないという危機感が防衛省で強まっている。

防衛省による装備品の発注が減り、撤退企業が増えている。

率直に申し上げれば防衛省、自衛隊、それに防衛産業にも当事者意識と能力が欠如しているからです。

なぜ、装備品の発注が減っているのか。その要因の一つに装備品の高度化・複雑化にともなって、単価が上がっていることがある。

1990年度に契約した早期警戒機「E2C」は約99億円だったが、後継の「E2D」は2.6倍の約260億円になった。防衛費は微増にとどまるため、発注数を減らさざるを得ない。その結果、主な航空機の調達数は89~98年度の10年間で年度平均82.4機だったのに対し、2009~18年度は28.5機にまで落ち込んだ。

他国では兵力を削減して浮いた予算を装備の近代化に当てています。人民解放軍は2000年に170万人だった兵力を2021年には97万人へと大きく削減しています。英軍も100,190名から77200名まで削減しています。対して自衛隊は148,700名が141,400名になっているに過ぎません。恐らく解放軍は少子高齢化に対応するためにも兵力を削減しているのでしょう。

もう一つの要因は、米国からの輸入増だ。米政府から装備品を買うための有償軍事援助(FMS)は14年度まで2千億円未満だったが、19年度に約7千億円に達した。当時の安倍晋三首相がトランプ米大統領の掲げた「バイ・アメリカン」と歩調を合わせたためで、10%前後だった輸入率は20%前後に上昇した。

第二次安倍内閣が米帝様のご機嫌を窺って、不要で高価なグローバルホーク、オスプレイ、AAV7、イージス・アショアのSPY7とかを大人買いしたから、本来必要な予算が圧迫を受けました。つまり上記二項目に関しては人災であることが明らかです。

装備品製造関連の大手や1次下請けなどによる「日本防衛装備工業会」の加入企業数は、17年は135社だったが現在は130社に減った。業界関係者によると、中小企業の撤退が目立つとし、「受注が増えない傾向にあり、先が見通せないことが原因だ」と指摘する。大手の担当者は、既存品の供給を続けるだけの企業も多く、新たな開発は減っていると言う。

こうした現状に浜田靖一防衛相は「国内の防衛産業は防衛力そのものだ」と危機感をあらわにする。そこで防衛省は、サイバーセキュリティー対策や、撤退企業から事業を承継する企業の支援、特殊な技術の維持・向上などを支援する「基金」を設けるため、来年の通常国会に関連法案の提出をめざしている。また、国内の装備品の販路拡大に向け、条件付きで武器輸出を認める「防衛装備移転三原則」の運用指針の見直しも視野に入れている。

こういうことは20年前から延々と言われてきて何も実現してこなかった。それは今が楽しくて楽だから、辛い改革をしたくないからです。改革を主張する人間は飛ばされるか、やめるかしてしまいました。

恐らく今回も掛け声だけ、やったふりだけで終わることでしょう。

国内の防衛産業が衰退していることに財務省も危機感を募らせている。聞き取り調査を行った結果、防衛省の調達のあり方や効率化にも課題があるとみている。

取材する限り、自民党の国防部会や自衛隊、産業界より財務省の危機意識の方が相当高いです。

財務省によると、防衛装備品は市場価格がなく、設備費や人件費に一定のもうけを上乗せする原価計算方式をとっている。このため、20年度の利益率は平均7%超。製造業の3%超を大きく上回る。

昨今防衛産業は利益が低いと吹聴している輩が多くなっていますが、事実ではありません。そもそも民生品ならばせっかく開発し、生産しても売れずに在庫の山で、赤字を出して廃棄するということがありますが、防衛装備はそれがありません。そして開発や生産に必要な機器や設備すら防衛省が負担してくれます。

さらに「初度費」は実は初度費ではなく、生産中に仕様変更したり、不具合の手直しが必要ならば出されます。このため何十年も「初度費」が支給されます。

防衛装備は損はしません。ですから多くの企業がぬるま湯に浸って現状維持で漫然と続けているわけです。まともな経営者ならば将来性もなく、頭の悪い発注先が顧客である防衛事業に将来性はないと見きって撤退しています。

実際には追加コストで利益率は低く、下請けの採算はさらに悪い。財務省が昨年、企業に聞き取ったところ、「契約後に防衛省からの度重なる仕様変更要請があった」「調達数量が少量で発注が不安定」「自衛隊向けの仕様は世界的にニッチ」などの声があったという。財務省幹部は「独自仕様や少量多種を改めるだけでも、企業の負担は変わる」と指摘する。

装備庁や幕僚監部の担当者の多くは、軍事技術の常識から相当ずれたところにいます。軍事的な常識が欠如している。諸外国の実態も知ろうとしないで、頭の中で妄想こねくりましたり、なにか言わないと威厳が保てないと思って思いつきで無理難題をふっかけます。

実は防衛メーカーの原価の中にはそのような「お守り代」も含まれていたりします。商社の人間は諸外国に恥ずかしくて自衛官を連れて行きたくないといいます。彼らが自衛官に同行しているのは通訳は通訳でも日本語英語の通訳ではなく、自衛隊の言うトンチキな理屈を相手がわかるように「超訳」する通訳が仕事だといいります。

それだけ装備庁や自衛隊には常識がないわけです。

国産の航空機などのコスト構造を調べたところ、部品の価格が年々高騰し、調達当初の10倍に膨らんだものもあった。部品調達のコスト管理を発注先企業にまかせきりで、ある部品が値上がりすると、自衛隊の独自仕様のため、安価な汎用(はんよう)品への切り替えが難しいという。財務省の財政制度等審議会は昨秋、「コスト管理・検証体制が未整備」だとして、防衛省に改善を求めた。

これは防衛省、自衛隊の調達担当者の質も量も足りないからです。英仏独とくらべて一桁要員が少ない。しかも装備の知識がないのでいい加減だし、時代が変わってもそれに即して調達のシステムを変えない。

例えば小銃に光学照準器やライト、グレネードランチャーなどがシステムとして組み込まれているのが当然になってきているのに小銃本体と、光学照準器の調達担当者が違い、相互の意思疎通もロクにしていない。

財務省は10月の財政審で「防衛装備移転による市場の拡大が不可欠」と踏み込んだ。韓国では企業再編で競争力を高めた上で、ミサイルや戦闘機などの輸出額を近年大幅に増やしているとして、日本の教訓にするよう求めた。ある幹部は「内外の企業間で競争を促すことは、コスト低減だけでなく日本の装備品のレベル向上にもつながる」と話す。

それ以前に防衛省、自衛隊がまともな軍事技術や調達の常識を学ぶほうが先です。

それから事業統合を促すこと。例えば装甲車であれば三菱重工、コマツ、日立の事業を30年ぐらい前、せめて20年前に統合して全体の規模を縮小すべきでした。

一社に統合すれば、無理に30年もかけてほそぼそと生産をする必要なくなる。たとえば2車輌並列で10年間で生産して、それが終われば次のものを作るということが可能です。そうなれば量産効果も上がって調達単価も安くなる。

ですが、当然ながら例えば2千名いた従業員は7百名に減らされ、ベンダーの数も三分の一になるでしょう。ですが生き残った企業の生産性や利益は拡大する。これを官民ともに嫌がてきたわけです。ですから凋落は当たり前です。

輸出はその先にあります。ですが「死の商人」呼ばわりを恐れるチキン防衛産業にそのかくがあるかがまず問題です。自社サイトに防衛事業の情報を全く載せいないこれらの企業が事業のリスクも負って輸出に乗り出すか大変疑問です。

例えば輸出しない企業から防衛省は調達を止めるというのも手段でしょう。特にいすゞあたり、あれほど防衛用トラックを自画自賛するならば世界の市場で売って欲しいものです。

トルコにしても、韓国、シンガポールにしても30年前は防衛産業は貧相でした。それが超速の進歩を遂げたのは市場経済で揉まれたからです。品質、性能が劣り、コストが高くて、アフターサービスが悪けりゃ、顧客は買いません。

ですから各国の企業は必至でビジネスを行ってきたわけです、それが日本とは大きな差になってきたわけです。この手の記事を書くならば、新聞記者も海外の見本市やメーカーを積極的に取材して知見を高めてほしいものです。

【本日の市ヶ谷の噂】
防衛医大の斉藤教授が定年後、後を襲った田中教授は 大学院生の指導教授のレベルにないのに、なぜか教授選考委員会では適任とされ着任。案の定、大学院生が不正で退学。(4年前に防衛医大の別の教官が書いた論文を大学院卒業時にそのままコピーして出した。他の教授からの指摘で発覚。)大学院生の指導教授である田中教授は大学院生の指導資格をはく奪された、との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。