注目されたパウエル議長の声明と市場の行方:NYダウ500ドル値下がり

アメリカ中間選挙が迫っているというのにバイデン大統領よりもFRBのパウエル議長の方に圧倒的注目が集まるというのも皮肉なものです。一部報道では選挙を控えた議員からは「バイデン大統領に近づくな」と。選挙応援をしてもらうと逆効果になると言われるほどの逆風に大統領も頭をかいていることでしょう。

さて、アメリカの金融政策決定会合であるFOMCは今回、いつも以上に注目されました。これは一部の投資家や住宅ローンを抱える方々からすれば悲鳴に近い利上げ状態に「いったい、いつ減速してくれるのかね?」という声にそろそろ期待が持てるかもしれないと思ったからでしょう。それも今回の11月会合ではなく、12月13-14日の会合に於いて、であります。

一方、市場関係者からすれば12月半ばには既にクリスマス休暇に入っている人も多いわけで形としては「噂で動いて事実で年度仕舞い」の形を想定することになります。つまり、FOMCの結果を受けて今からひと月の戦略をどう立てるかになります。

会見するパウエルFRB議長 Board of Governors of the Federal Reserve System Fbより

では、今日のFOMCはどうだったのでしょうか?記者会見を全部拝見しましたが、パウエル議長にもインフレ鎮静化の確信がまだないと見えました。今回の事態が歴史的にも珍しいケースで利上げをしても明白なる改善の兆しの反応が出ず、雇用も異様に強い点を強調していました。ただ、ヘッドラインに出ているような12月に利上げペースを緩めないとは言っておらず、あくまでも状況次第と述べていますので市場はもう少し冷静になるべきでしょう。また、FRB高官がインタビューなどの発言で市場が振り回されている点につき改善をすると述べています。

さて、この先ひと月の間にはいろいろ重要日程があります。

10月雇用統計 11月4日
アメリカ中間選挙 11月8日
10月消費者物価指数 11月10日
G20(インドネシア)11月15-16日
11月PCE(個人消費支出価格指数:CPIよりFEDは重視している)12月1日
11月雇用統計  12月2日
11月消費者物価指数 12月13日
それ以外にウクライナ情勢、中国のゼロコロナ政策、中国経済動向、OPECプラスの動向など山積です。

これらが外部要因となり、FOMCでの金融政策の議論だけではなくより広範な視野でマーケットを見ていく必要があります。なお、欧州中央銀行の理事会と日銀の政策決定会合は12月のFOMC後までありません。

これらの予定とパウエル議長の今回の暗示をベースに市場参加者は投資戦略を組み立てていくことになります。ただ、もう少し大枠で見ると欧州の株式市場ファンドから37週連続の900億㌦の資金流出(日経)とあり、アメリカ市場に1800億㌦流入していると報じられています。ちなみに日本は28億ドルの流出です。

欧州の資金流出は続くとみています。これはラガルドECB総裁が物価対策で利上げをもっと推し進めると明言しているためで12月も75bpsの利上げが見込まれています。更に冬にかけてロシアとの問題の絡みでエネルギー問題が再び話題の中心となることは明白で苦しい欧州の経済情勢が予見できます。

もう一点は円ドル相場です。私が円ドル相場はレンジを抜けないと予想したのはご承知の通り。理由はアメリカの利上げピッチも最終局面とみていることからドル買いにこれ以上積極的になりにくいこともあるのですが、黒田総裁の任期が迫ってきていることも重要なポイントです。新総裁と政策決定委員のメンバー次第では方向転換もあり得るため、為替トレーダーにすればリスクが取りにくいことがあるのです。更に日本政府の介入もいつあるかわかりません。介入はストップロスを巻き込むほどの規模、つまり5円程度は最低でも動かさないと実質的効果はないのでやるなら大きく出るとみています

仮に2023年がやや円高傾向になるとすれば日本の株式はやや弱気になり、日本市場への海外からの資金流入は限られることはあり得ると思います。あと日本は地政学的リスクをそろそろみておいた方がいいのかもしれません。中国と北朝鮮です。

こう考えると北米市場が資金振り向け先としてはやはり安定しているのかな、とみています。10月のダウはひと月で14%上昇し46年ぶりの記録となったのですが、それを実感した人は少ないでしょう。なぜならナスダック市場が弱弱しく、これを書いている水曜日もアマゾンやグーグル、メタは新安値更新で冴えない展開が続いているからです。結局、北米市場の中でも棲み分けが進んだということになり、投資環境が非常に難しいところに入ったことをうかがわせているのです。

確実に言えることは様々な経済指標と分析指標から二つの暗示が出ています。一つは金利のピーク打ちはパウエル議長の記者会見からはまだ暗示されませんでしたが、頂上が見えてきていること、株式市場は売られ過ぎ指標がでており、反発期待があることです。よって、ここから先はムードが改善するかどうかが決め所になるのではないでしょうか?

市場はデジタル取引ですが、市況は心理などアナログが支配します。プログラム売買ではこなせない人々の心理の読み合いとマネーの潮流がぶつかり合う中で予想することすら困難な時代となったのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年11月3日の記事より転載させていただきました。