グレタ・ツンベリの「資本主義打倒」宣言と機関投資家のエネルギーセクター回帰、その関係は?

こんにちは。

グレタ・ツンベリが、自著の出版前宣伝活動の一環としてロンドンのフェスティバル・ホールでインタビューに答え、おおよそ次のようなことを語りました。

「あれやこれやの部分的改良や弥縫策では、地球温暖化の危機を食い止めることはできない。資本主義システムそのものを壊さなければならない。だから、私はCOP27には行かない」

折から、これまでずっとハイテク・金融に集中したポートフォリオでうまく行っていたけれども、今年は惨憺たる実績に終わりそうな大手機関投資家たちが、昔はかなり高かったのに今は見る影もなく小さくなっているエネルギーセクターの保有比率を上げはじめました

このふたつの現象には、何か関係があるのでしょうか? 今回はそこを探っていこうと思います。

機関投資家たちは「グレタのカリスマ性によって、ほんとうに化石燃料業界が壊滅状態に追いこまれるかもしれない」と思って、今までは割安に放置されていることを承知でこのセクターを避けてきました……。

「でも、グレタが体制内改革を諦めてたんなる極左革命家になってしまえば、もうそんな心配はない。だから安心してエネルギー業界の株を買い集められるようになった……」というのでは、いくらなんでもおとぎ話にしかならないでしょう。

もう少し深いところで、どんな関係があるのかを探ってみましょう。

自著をPRするグレタ・トゥーンベリ氏 同氏ツイッターより

大手ハイテク株への人気集中は破滅的な水準にあった

まず抑えておかなければならないのは、今年10月末というハイテク大手がかなり大幅にやられた段階でも、まだまだ一握りのハイテク人気銘柄への投資集中度は異常に高いという事実です。


去年の8月、アメリカの金融情報誌『バロンズ』が、アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、フェイスブックといった大手ハイテク銘柄はヘリウムをいっぱいに詰めた気球のようなもので、だれがどう頑張っても絶対上昇基調を止めることはできないという話をカバーストーリーとして特集しました。アメリカの金融業界には、一流誌、発行部数の多い雑誌がカバーで取り上げた話は絶対に裏目に出るというジンクスがあります。今回もこのジンクスどおりで、ハイテク巨大企業群は去年の11月末、この表紙のバロンズ誌が刊行されたちょうど3ヵ月後くらいから、次々に天井を打ち、急激だったり、だらだら緩慢だったりペースはそれぞれ違いますが、下降局面を迎えました

牙(ファング)を抜かれたFANG

そして、今年に入ってからのアメリカ株の下げはこれまで順調すぎるほど順調に上昇を続けてきた巨大ハイテク株が先頭に立って引っ張るベア(弱気)相場となっているのです。


その差は、上のグラフに歴然と出ています。今年の年初からのS&P500採用銘柄の単純平均は約23%下げただけなのにFANGとよばれるフェイスブック(現メタ)、アマゾン、ネットフリックス、グーグル(持ち株会社名はアルファベット)の4社の平均は43%も下げているのです。時価総額で見ると、もっと悲惨なことになります。

去年11月に5兆1100億ドルでピークを打ったFANGは、今年10月28日の時点で2兆7260億ドルと47%も下げ、ほぼ半値になっています。

「ネットフリックスのように一貫して業績はパッとしないのに、ムードだけで上げてきたような株を入れて計算するからこんな悲惨な数字が出る。もっと業績のしっかりした会社ばかり選べばここまでひどくはないはずだ」というご意見もあるでしょう。

そこで、ネットフリックスを外して、アップルとマイクロソフトという2000~02年のハイテクバブルを生き延びた古強者と、テスラ、エヌヴィディアを入れた7銘柄の時価総額を追跡してみましょう。

やっぱり、アップルとグーグルの2社をのぞけば、惨憺たる時価総額推移です。

じつは脆弱な花形銘柄の収益基盤

そこで、上のグラフでも太い線で強調してあるアマゾンの何がいけなかったのかを探りましょう。

まず、株価を見ると2020年の夏、第1次コロナショック後の急騰から2022年の春まで高値圏にはいたけれども、ほぼ横ばいだったことに気づきます。

株価の高原状態が終わった今年の春に何が起きていたかというと、慢性的じり安傾向にあった米ドルが、Fedによる利上げ政策の本格化によって、上昇基調に転じたことです。アマゾンの部門別収益率を正確に把握していれば、こうなることは米ドルが持続的な上昇基調に入った瞬間にわかっていたはずです。

国内eコマース部門は、従業員を奴隷のようにこき使い、中国などの二流、三流メーカーから目一杯買い叩いた雑貨などを中心に販売しても、1~3%の低い営業利益率しか出せない企業です。

ドル高によって買い叩きやすくなるはずですが、しかし納入業者もさまざまな原材料や機械などを輸入する際に米ドル価格を使うことが多く、コスト高で納入価格も下げるどころか、上げざるを得なくなる企業が多かったと思います。

海外部門はあと一息で営業赤字が黒字転換するという期待を抱かれていた部門ですが、現地通貨ベースの売上・粗利益が米ドル高によって大幅に減額されるともう、黒字転換は半永久的にあり得ないと思われるほど赤字が拡大しました。

唯一の高収益部門、クラウド事業は特殊なノウハウを必要とするわけでもないコンピューター機能のリースレンタルですから、競争が激化すれば、当然利益率が下がります。

実際、この分野では圧倒的に高い市場シェアを持っていたアマゾンは、同業各社から値引き競争を仕掛けられて、営業利益率が一挙に30%から26%に落ちました

アメリカの大手企業で海外事業を手広くやっていたところは、ほぼ例外なく海外での売上・利益が米ドルに転換すると小さくなることによって、業績が悪化しています。

それでもなお、インデックスを買う愚鈍な機関投資家たち

次のグラフをご覧いただくと、今年の9月末あたりから反騰機運が盛り上がってきたとき、アメリカの機関投資家が買いに入ったのは、個別銘柄ではなくインデックスやETFだったことがわかります。


また6~8月にも、なんとか頑張って買い持ちポジションを維持しようとしていたのはインデックスやETFでした。おそらく、現代アメリカの金融業界でファンドを運用する実務についている人たちには、ひとりもほんもののベア相場を経験した人がいないのでしょう。時価総額が大きな株ほど株価を戻すには大量の資金が要るし、その資金は本格的な弱気相場ではどんどん蒸発していくものだということを知らないのだと思います。そうでなければ、いったん壊れてしまったら回復するにはすさまじい資金を投入しなければならない時価総額の大きな株中心に組まれたインデックスにしがみつくことの愚は、かんたんにわかるはずなのですが。まあアメリカの場合、本格的なベア相場を知識として勉強するにも1930年代まで、約80~90年さかのぼらなければならないので、むずかしいのはたしかですが。

ハイテク大手5社の時価総額は未だにS&P500の20%近辺

というわけで、これだけ下落が続いてもまだハイテク大手5社の時価総額を合計すると、S&P500全体の時価総額の20%近い位置にあります。大暴落したメタの代わりに比較的値持ちのいいテスラを入れれば、今も20%を維持しているかもしれません。

そして、人気銘柄5社でS&P500時価総額の20%以上を占めてしまう状態というのは、まだまだ集中度が高すぎ、例外なくもっと大きく下げる状態なのです。

異常な人気集中ぶりを示す一例として、今もなおアップル1社の時価総額がエネルギーセクター全社の時価総額を合わせたより大きいという事実があります。


さすがにピーク時での2兆ドル近い差に比べれば5000億ドル強とだいぶ縮みました。それにしても、1920~70年代にかけてほぼ例外なくS&P500構成銘柄中で最大のシェアを占めるセクターだったエネルギー株を全部合わせたよりアップル1社のほうが時価総額が高いのです。

逆境の中で真価がわかるセクターETFパフォーマンス

S&P500構成銘柄をセクター別に振り分けたETFを見ると、裁量型消費財などはまったくテクノロジー株が下げたときのヘッジにはならないことがわかります。

裁量型消費財セクターで時価総額最大の銘柄がアマゾンだから、テクノロジーと同じような価格形成になるのは仕方がないとも言えますが、価格が1ケタ違う以外は、まったく同じパターンになっています。

その点、エネルギーセクターは、まったく別の軌跡を描いています。


2007~09年の国際金融危機のどん底で最初のピークを打ち、ほかのセクターがまだ底這いからようやく抜け出しかけた2014年に史上最高値に達しています。なぜこの時点でピークを打ったかについては、以下3つの理由が考えられます。

  1. 中国の資源浪費型高成長がこの頃頭打ちになったこと。
  2. アメリカ政府が公然と関与したウクライナでの反露派クーデターを受けたロシアのクリミア州併合による「戦争勃発=資源高」期待が「裏切られた」こと。
  3. まだこの頃まではムード的だった「化石燃料全廃論」が実現し、エネルギーセクターが消滅する懸念があったこと。

第1次コロナショックの大暴落にはお付き合いしましたが、その後は2021年末の相場大転換にもかかわらず上昇基調を維持しており、2014年の史上最高値奪還までもうひと踏ん張りというところまで漕ぎつけています。

たんにセクター全体として株価が上がっているだけではなく、オイルメジャーなどの業績も急回復しています。

オイルメジャーの業績は見かけよりずっと急回復している

次のグラフをご覧ください。

「ピークの1980年代半ばにはS&P500全体の純利益の27%を占めていたのに、やっと0から2%に回復しただけか」と思われるかもしれません。

それは、会計上の見かけに過ぎません。2010年代、世界的に投資用の待機資金が莫大になっていた頃、オイルメジャーの大半が海底油田ですとか、シェールオイル田、シェールガス田とかの投資額が大きく、商業化が困難なプロジェクトに派手に資金を投じました

その大半が、巨額の特別損失を出してやっと撤退できたとか、やっと細々と運営を続けられるとかの状態なので、会計上の純利益はまだまだ低水準です。

ですが、実際にカネの出入りを測るフリー・キャッシュフローでは、エクソンモービルやシェブロンは人気ハイテク株の中で財務的にいちばん堅実なアップルと肩を並べるところまで回復しているのです。

さらに石油・天然ガス業界に有利な環境が待ち構えています。いや、待ち構えているというよりは、もうその状態に突入していると言うべきでしょう。アメリカを中心に、西欧諸国がいっせいにスタグフレーション(不況下のインフレ)になっています

次のグラフは、アメリカで過去のスタグフレーション時に、どのセクターの株価パフォーマンスが良かったかを示しています。

他のセクターは、当時のインフレ率に負けている(つまり、実質ベースでは値上がりどころか値下がりしている)ことも多いのですが、エネルギーセクターだけは間違いなくインフレ率に負けない値上がり率を達成しています。これは、考えてみれば当然でしょう。不景気で賃金給与は上がらないのに、物価だけは情け容赦なく上がる。そういうときどうしても買わなければならないのは、まず食糧であり、クルマ社会化した欧米諸国では次にガソリンやディーゼル油です。

食料品を生産する農林水産業部門には、あまり株式市場に大きな投資対象がありません。そうなると、やはりスタグフレーションの時期にもっとも大きく値上がりするセクターは、エネルギーになるでしょう。

今回もまた、食料品・燃料中心のインフレがやって来る

おまけに、今回はWEF=ビル・ゲイツ連合が意図的に、食料危機を惹き起こそうとしています。植物にとって主食と言うべき二酸化炭素の供給量を減らし、副食の中でもっとも栄養価の高い窒素系の化学肥料を全廃しようというのです。

私は昔から、「どうしてよりによって二酸化炭素排出量の削減などというわけのわからない目標を振り回すのだろう。どうせ世間を混乱させるにしても、もう少し理屈に合ったことを言えばいいのに」と思っていました。

化石燃料全廃に加えて、化学肥料全廃を言い出したとき、やっと「そうか! 意図的に食糧危機を惹き起こして、大勢の人間を飢えや栄養不良で殺したいのか」と思い当たったのですから、ずいぶん鈍いなあと反省しています。

太陽光発電や風力発電に本格的に取り組んでしまった欧米諸国ではもう、エネルギーと食料を中心に2ケタの消費者物価上昇が目前に迫っています

先進諸国では、これは次のグラフに見るようなエネルギー・食料支出の非常に低いシェアを高める程度で済むかもしれません


ですが、発展途上国やサハラ以南の最貧国などでは、まさに大量死の危機を招く可能性大です。それでもやはり、グレタ・ツンベリの「資本主義打倒」宣言によってある意味で解放された多くの機関投資家たちが、エネルギーセクターへの投資配分を高める動きは加速するでしょう。足元の業績もその方向を暗示しています。


すでに過半数が決算を開示した段階で、92%が超過達成、未達はわずか8%というのは、エネルギー以外の全セクターが超過達成69%、未達25%なのと比べて突出しています。

欧米知識人の大半は資源浪費型成長論者

この好業績の理由は、決して需要の急激な伸びではありません。中国が往年のように無茶苦茶な資源浪費型急成長を再現する気配もありませんし、軍事的な特需が激増する環境でもありません。

ロシア軍によるウクライナ侵攻は、戦線を拡大しようとした側が決定的敗北を喫する可能性が高い手詰まり状態にあります。中国による台湾武力侵攻にいたっては、とてもそんな余裕はないほど中国の内政・経済は弱り果てています

石油・天然ガス業界好業績の理由は、ひとえに化石燃料全廃論を利用して、設備投資もメンテナンスも最小限以下に絞って、少ない量を高く売りつけることで利益率が急上昇していることです。

平時に業界大手がこぞってこんな方針を採用すれば、確実に独占禁止法違反で処罰の対象になりますが、「地球温暖化=二酸化炭素元凶説」という熱病に浮かされている昨今の世の中では、むしろ褒めてもらえるのですから笑いが止まりません。

ようやく、グレタ・ツンベリの「資本主義打倒」を呼号する反成長社会(共産)主義者への「成長」と、遅まきながら欧米諸国の機関投資家がおずおずとエネルギーセクターの比重を高め始めたことの関連が浮かび上がってきます

最近になってつくづくわかってきたのは、欧米知識人のほとんどが経済成長をするためにはエネルギー資源の消費量を拡大しなければならないと信じ切っていることです。

その中で「良心的な」人々は、「経済成長を続ければいつかは資源が枯渇して人類全体が滅びる。それなら、今から成長しない経済を構築すべきだ」という結論に至ります

反成長とは「すでに先進諸国で達成している豊かさを、発展途上国、低開発国、最貧国と呼ばれる国々では諦めろ」という酷薄な方針であり、それはたとえまだ豊かさを達成していない国々の中から台頭してきた政治家が言おうとまったく同じことなのですが。

実際に反成長社会(共産)主義を実践に移してすさまじい人数の犠牲者を出したカンプチア、クメール・ルージュのポルポト政権も、中国共産党文化大革命時代の毛沢東政権も、生粋の地元政治家が打ち立てたアジアの政権でした。

WEF=ビル・ゲイツの目論む世界政府はもう少し狡猾で、化石燃料と化学肥料を全廃することによって深刻な農業危機を惹き起こし、人類の総数を規制することで資源消費量の圧縮と生き残る特権階級だけの豊かな生活を維持しようとしているのでしょう。

彼ら共通の盲点は、エネルギー資源消費量を縮小しながら経済成長を維持することはできるし、日本は少なくとも1950年代からその道を追求しつづけているという事実を知らないし、知ろうともしないことです。

おそらくオイルメジャーの重役で日本を担当していた時期が長かった人などは、薄々感づいているか、はっきり認識しているのでしょうが、商売柄そんなことは口が裂けても言いません。

日本の道を知らなければ、世界は反成長社会(共産)主義の大量殺戮か、いつかまだ資源が枯渇しないうちに実用的な再生可能エネルギー源が開発されることを信じて、エネルギー資源浪費型成長の持続かの二者択一となりそうです。

そうなると、オイルメジャーにどんなに暴利をむさぼられても、エネルギー資源浪費型成長のほうがマシだということになるでしょう。

我々はもっと、エネルギー資源消費量を減らしながら経済成長を維持する日本の道の普及に努力すべきだと思います。

増田悦佐先生の新刊が出ました。


編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年11月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。