石破茂です。
北朝鮮のミサイル発射の頻度が一層高まっていますが、日本政府の対応はお決まりの「外交ルートを通じて断じて容認できないとの強い決意を伝えた」を繰り返すだけで、「誰がどのような外交ルートを使って誰に意思を伝え、それに対して誰からどのような反応があったのか」も全く明らかにされません。
外交ルートで間に介在しているのは中国なのでしょうが、このルートが日本の意思が北朝鮮に伝わるような機能を果たしているのか、甚だ疑わしいものですし、これを誰も問い質さないのもとても不思議なことです。
北朝鮮は今回のウクライナ事変から「核の使用を示唆すればアメリカは介入しないし、決して攻撃も受けない」ことを改めて学び、強く実感したのでしょうし、その示唆が現実性を帯びるためにミサイルの威力と精度を急速に上げる必要があるのでしょう。
北朝鮮が(こちらからは)理解不能な(と思われる)危ない行動をすることは、地域の不安定化を狙う中国やロシアにとっては必ずしも悪いことではないでしょうし、北の方針を容認し、政治的・技術的・資金的にも支えていると見るのが妥当です。
「国民が飢餓に瀕しているときにミサイルに多額の資金を費やすのは狂気の沙汰」的な見解もありますが、国民が飢餓に瀕しているからこそミサイルに資金を振り向けられるのであり、金正恩体制になって一層強化された独裁制がこれを可能にしています。
東京五輪開催中の1964年10月16日に中国(当時日本では「中共」と呼称していました)が初の核実験を行った際、北京放送は「これは中国の国防力を強化し、米国の核恐怖と核威嚇の政策に反対する中で勝ち取った大きな成果である」と述べましたが、北朝鮮も全く同じ思考です。
昨年1月に改正された北朝鮮労働党規約は「南朝鮮における米帝国主義の侵略軍隊を追い出して植民地支配を清算し、日本軍国主義の再侵略の企図を挫折させるための闘争を展開する」と明記しており、趣旨は実に酷似しています。
毛沢東は「たとえズボンを穿かなくても核を持つ」と述べたと伝えられますが(実際は外務大臣の発言であったとの説あり)、この思想も北朝鮮に共通のものでしょう。もはや良いとか悪いとか論じる余裕はなく、北朝鮮が国家目標の実現に向けて、強固な意志の下に着々淡々と行動しているという事実を我々は直視せねばなりません。中国は長く国際社会において孤立し、大躍進政策や文化大革命などの国内の疲弊と混乱も続きましたが、今や国連の常任理事国の座を占め、世界第二位の経済大国に成長するに至りました。北朝鮮がこれをモデルとしているのは間違いありません。
日本政府は今回の北朝鮮のミサイルは変則軌道をとった可能性がある、とコメントしていますが、仮にそうだとすれば、その技術のベースとなっているのはロシアのイスカンデル・ミサイルと見るべきなのでしょう。
2011年にはウクライナでミサイル技術を盗もうとした北朝鮮の工作員が摘発されていますが、ウクライナから北朝鮮にミサイル技術が流出した可能性も指摘されています。ウクライナは廃棄状態にあった空母「ワリャーグ」を中国に売却し、これを改修した「遼寧」が原型となって二番艦の「山東」が就役し、電磁カタパルトを装備した三番艦「福建」も2024年には就役予定と言われています。今回の戦争の非がロシアにあるにせよ、ウクライナからの技術流出が我が国の安全保障環境に影響を与えているということも我々は知っておかねばなりません。
かねてからの持論なのですが、北朝鮮に対しては、東京と平壌に互いの連絡事務所を置き、国交正常化の糸口を見出すことから始めねばなりません。拉致・ミサイル・核の問題を解決するためにも、国交のないままに非難の応酬だけをしている現状をまず打開することが必要です。小泉総理の訪朝と日朝平壌宣言発出から20年、当時の金正日国防委員長は拉致問題を認めて謝罪し、拉致被害者5名の帰国も実現しました。
しかしその後事態は何も進展しないどころか、かえって悪化してしまったのは何故なのか、小泉訪朝で生まれかけた関係の萌芽は何故潰えてしまったのか、真摯に検証したいと思っています。一番の犠牲者は拉致被害者とそのご家族なのですから。
金融緩和の矛盾
今週も円安の基本的な基調は変わりませんでしたが、政府が急激な円安は好ましくないとして協調介入ではなく日本単独の為替介入を行ったとされる一方で、日銀が円安の一番の原因となっている金融緩和をやめようとしないのは、外部から見れば大きな矛盾と映るのではないでしょうか。
日銀総裁は金融緩和を継続して景気回復を支える、としていますが、円安に苦しむ国民や企業はこの発言に大きな違和感を覚えたに違いありません。
金融緩和による円安で業績が好調となったのは一部の企業に偏っており、マネタリーベースの拡大を続けても資金需要は増大せず、異常な低金利でおカネの世界におけるマーケットメカニズムが機能しなくなっていることとも相俟って、不必要なところに資金が滞留する現象が続き、日本経済の体力が大きく低下している一因となっているのではないでしょうか。
異次元の金融緩和を政策の主軸としたいわゆるアベノミクスは「日本が世界で企業が一番活躍できる国」を目指しましたが、トリクルダウンを否定していた以上、一方において労働者の視点が欠落した政策ではなかったのでしょうか。企業は株主と経営者だけのものではなく、そこに働く労働者やその家族、ひいては社会全体の公益に資するべきものであり、基本的に分断と格差の拡大を所与のものとする資本主義の宿痾を是正するため、今の状況に合った施策が必要です。
今週の都心はまさしく小春日和のお天気が続きましたが、本格的な冬の到来も間近です。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。
編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2022年11月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。