雇用流動化の障害は「解雇規制」ではない(アーカイブ記事)

自民党総裁選で河野太郎氏が解雇規制に言及して話題になっているが、いまだに木原誠二氏(内閣官房副長官)のように「日本の解雇規制はきびしくない」と反論する人がいる。問題はそこではないのだ(2022年11月6日の記事の再掲)。

ツイッター社の突然の解雇が話題を呼んだが、海外では事前に通告すると社員が企業秘密を持ち出すおそれがあるので、予告なしに解雇するのが普通だ。SNSへのアクセスも止められ、自分のオフィスに戻ることも禁止され、机に入っている私物は段ボール箱に入れて自宅に送ってくる。

日本の「解雇規制」はきびしくないが、問題はそこではない

日本の解雇規制はきびしくない。OECDの基準でも平均よりややゆるやかで、解雇は原則自由である。民法627条では「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と解雇自由の原則を定めている。これは「契約自由の原則」という民法の大原則である。

労働基準法では30日前までに予告するよう定め、組合活動などによる不当解雇を禁止しているだけだが、労働契約法16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と定めている。これは最高裁の判例を立法化したもので、ほぼ唯一の解雇権の制限である。

しかし判例では、解雇の具体的な要件が決まっている。特に1979年の東京高裁判決の整理解雇の3要件が法律と同等の拘束力をもち、会社がつぶれるまで解雇できない。

  1. 事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむを得ない
  2. 従業員を他の事業部門に充当する余地がない
  3. 具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づく

「金銭解雇」の法制化が雇用流動化の必要条件

これに対して外資系企業では、日本でも割増し退職金(severance pay)を出して同意を得る金銭解雇が普通である。人事部が従業員と話し合って「訴訟を起こさない」という同意書を書かせる。

金銭解雇のイメージ(チャットGPT)

日本でも中小企業では、解雇は日常的に解雇は行われている。大企業の経営者が訴訟を恐れて解雇しないだけである。雇用を流動化する上で「解雇規制」は大した問題ではなく、司法の温情主義が最大の障害なのだ。

終身雇用にせよ年功序列にせよ、法律で決まっているわけではなく、正社員という暗黙の規範で決まっているだけで法的根拠はない。だからたとえば労働基準法で「1年分の退職金を払えば解雇できる」という規定を明文化し、整理解雇の判例を上書きすればいいのだ(労働契約法16条は廃止)。

こういう改革は、第1次安倍内閣のとき経済財政諮問会議が打ち出したが、野党や労働組合だけでなく厚労省も反対してつぶれた。それ以来、雇用流動化も金銭解雇も政治のタブーである。もし出たら国会は大荒れになるだろうが、それぐらいしないと日本経済の停滞は終わらない。